人でなしより愛を籠めて

極楽 ちどり

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1章

11話*

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「あーあー、糸引いてるやん。べっちゃべちゃやであんた」
「はぁっはっんっはぁっ」

散々に嘗め尽くされた結果のこの台詞である。
揶揄われているのは十二分に分かっているし、腹も立ってるのだけれど、乱れた呼吸を戻すことができず言われっぱなしだ。ほんと後で覚えてろよマジで。

もうとにかく体が、全身が熱かった。

ズボンとパンツを一緒くたに引きずり降ろされたのだけれど、もはや抵抗もできなければ協力もできない。完全にされるがままだ。
圧し掛かっていた彼はどいたので逃げることだってできるのに、もう手を持ち上げるのすら億劫だ。乳首の先がまだじんじんと痺れている。こんなに胸だけ虐め倒されたのも初めてなら、上半身だけで一戦交えた後くらい体力を削られたのも初めてだった。

もうヤダってほとんど泣きながら言ってるのに、全然やめてくれないのだ。

「もうちょっとだけ」だの「痛い?それならやめんで」だの、声色だけ優しく、その実強引に強請られて断れなかったのだ。だって!大好きな夏樹にそんな風におねだりされて断れるわけがない。結果、ひたすらに乳首、というか乳房全体もお腹も首筋も、マーキングするみたいにあちこち舐められて齧られた。

お陰でようやくパンツを脱がされるという段階なのに、既にヘロヘロだ。

ほんとにムカつく。童貞のくせにっ!

まったくもって腹に据えかねる。
仰け反っていた頭を正常な位置に戻しながら、どうにか目に力を込めてヤツを睨み上げた。

「そっち、もっ、ッ、脱ぎなさいよ」
「えー?どないしよっかなぁ」

これだけ人を甚振いたぶりつくしたくせに、夏樹はさも可愛げのある猫みたいに、ぴこぴこと猫耳を震わせて、楽し気に首を傾げる。そうしながら、露わになった下腹部をするりと撫でた。

「ッ」

押されたわけでもないのに、私はただ下腹部を、子宮の上を撫でられたというそれだけの刺激に息を詰めた。
これまで与えられた刺激は、明確な、身を悶えさせるような快感だった。でも、果てるにはあと一歩足りず、そのせいで、添えられた彼の指の下には今、ため込まれた快感がめいいっぱい渦巻いている。

「優しく、がええやんなぁ?」
「っあ、は、あっ」

ゆっくりと、円を描くように下腹部を撫で摩られる。たったそれだけでまともに口もきけなくなるなんて、我ながら情けないにも程がある。

「べちょべちょだ」なんて揶揄ってきたくせに、肌を撫でる夏樹の手つきは驚くほどに優しくて、するすると肌の上を滑っていく。下腹部からなだらかに降りて行き、夏樹に居座られてだらしなく開いた太ももの内側へ降りて、そこから脚の外側へと流れて行って、腰骨の輪郭を優しくなぞる。

「ぅ゛ーーーっ!ふぅううぅ゛ッ!」

もう突っ込んでくれと怒鳴りたい気分だった。発狂しそうなくらい焦れったいのに、それでもされるがままになっていたいと思わせる程気持ちがいい。
泣きたいんだか怒鳴りたいんだか分からない感情を、唸り声と一緒に吐き出す。両目に手の根元を押し付けて、せめて視界から夏樹を締めだした。

「はっ!はぁっ!ふっ!んはっ」
「加減間違えんの怖いし、最初はこっちな?」
「は、ぇ?あっ―――――ア、?」

ずるりと脚の間で夏樹が動いて、でももう快感に脳みそが溶けだしてるから、その程度の事は気にもしていなかった。

ただクリトリスを覆った熱くてぬめった感触に、理解が追い付かなくて、なのに神経が焼き切れそうな快感に背筋を貫かれて、気が付けば仰け反って情けなく腰を揺らしていた。

「ぁっぁっ、ッ??へぁ、ッ?」
「なぁ、ちょい、これ舐めづらいねんけど、も」
「ふ、ぁぇっ?」

だめだ、ダメだ、待って、なに、え、待って、今の何分かんないちょっとだけでいいから待って待ってだめ、もうダメこれ無理っぽいから私だめで――――。

気付かないうちにつま先までぴんっと伸びて緊張していた脚が、力づくで折りたたまれて大きく開かれる。そのまま彼の熱い手が、私の腰にがっちりと巻き付いた。

そこでようやく、私は目元から手をどけて、どうにも安定しない視線を真下へ向けた。そして、とんでもない場所へ吸い付く夏樹と、ばっちりと目が合ってしまった。


「や゛ッ!やだっ!やだやだやぅぐぅぅ゛ッ!」

しっちゃかめっちゃかに腕を振り回して、どうにか少しだけ上体を起こし、夏樹の髪を引っ掴んで引き離そうとした。が、びくともしない。だから今度はバシバシと叩いてやめさせようとしたのに、ぬろりとクリトリスを舐め上げられた刺激でベッドへ沈んだ。

目の裏側がバチバチしている。眼を見開いてるのだから視界は良好なはずなのに、何にも視覚情報として処理できない。

もはや引き剥がすような力を入れることもできない。猫のように柔らかい毛質の髪を指に絡めたまま仰け反って、そこからどうすることもできない。腰が勝手にガタガタと震える。脚は無意識に逃れようと悶えている。その力がこもっている自覚はある。なのに、私の脚力は完全に夏樹の腕で殺されていた。

夏樹は何も言わないで、いっそ献身的にクリトリスを舐めしゃぶる。濡れそぼった割れ目からべろりと舐め上げられるせいで、簡単に皮が剥かれてしまい、剥き出しにされたそこが、熱くてざりざりの舌に丁寧に丁寧に舐られるのだ。

そんなの、耐えられるわけがない。

通常状態でも耐えられそうにない刺激なのに、散々焦らされて昂った体にそんな事をされて、どうにかならないはずがなかった。

「あ゛っ!はぁっ!あっ、あっ、あ゛ッーーーーッ!」

絶頂の波が落ち着く前に次の波が来てしまう。言葉を挟む余裕なんてない。全力で暴れているはずなのに、すべての抵抗が徒労に終わるのだ。

逃げられないッ!これ全然逃げられないっ!

強すぎる快感に涙が溢れて来る。頭の片隅によぎった、あんまり大きな声を出したら苦情を入れられるという理性が、私に手近にあった枕を引き寄せさせた。あるいはもはやどうにもならないから、何かしら縋るものが欲しいという欲求の方が強かったかもしれない。

「ぅ゛ーーーーっ!むぅううぅ゛ッ!」

叫んでいないと気が狂いそうで、枕をもみくちゃにしながら、そこに顔を埋めて叫び声を殺す。その間も強すぎる刺激から逃れようと体は勝手に暴れているのだけれど、もう全然、まったく、信じられない程に意味をなさない。
恥骨にぴったりと張り付いた夏樹の唇は剥がれる様子もないし、腰に巻き付いた手もびくともしないという、完全な力負けをしていた。

「はっ、何してんねん。声聞きたいんやけど」
「へっ、ぁ、あぇ、ッ゛、かえ、し、ひぃっ!」

唐突に刺激が止んだと思ったら、折角手にした縋りつく先を易々と剥ぎ取られた。結果、若干不機嫌そうな夏樹と目が合い、瞬きをした瞬間にぽろりと涙が目尻から耳へと流れ落ちる。

抵抗しようと手を伸ばしたのだけれど、その瞬間、割れ目に彼の指が添えられて、反射的にびくりと縮こまってしまった。もう逃げだしたくて一生懸命ベッドを蹴っているのに、うまく力が入らずにシーツを上滑るばかりだ。こんな時に脚が役に立たないなんて!

「あー、かわい・・・泣いてたん?ここそんな気持ちぃんや?」
「ほぁっ、あっ、あっあっんっんんっくふぅっ」

割れ目に添えられた指はそのままゆっくりと這い上がり、舐めまわされてじんじんするほどに充血したクリトリスに直接触れた。
そもそも涎塗れにされたクリトリス自体もぬめりを帯びているが、溢れかえるほど濡れた割れ目から粘液を指に絡めた指もこれ以上なくぬるぬるしていた。しかも本当に繊細に、優しく触れてくるのだ。そこには不快な摩擦感は一切なく、ただ純粋な快感しかなくて、元々うまく力が入らなくなっていた身体から更に力が抜けていく。

もはや枕返してとすら言えず、こちらをまっすぐ見降ろしてくるヤツの視線から逃れるために、片方の腕で目の上を覆い、もう片方の手であられもない声を垂れ流す唇を覆った。

「あかんって、こっち見て」
「ふっ、ぅ、っあ、やっ、も、やだぁッ」
「えー?でもあんた、めっちゃ気持ち良さそうやんか。アホほど可愛い顔してんで」

目元を覆った手をあまりにも簡単にどけられてしまう。彼の力が強いというより、私の腕に力が入ってない方に問題があるのだろう。骨と筋肉の存在を疑いたくなるくらいに力が入らない。

何が「えー?」だ。全然やめる気がないのが声ににじみ出てる。なんなら含み笑いを隠せていない。本当にムカつく。でも苛ついているはずなのに、思考がぼやけて全然睨むこともできない。

「ぁっ、やめ、あっあっ、手ぇ、止めてぇっ」
「うん、ならほら、もっとちゃんと嫌がらな」
「ぁっあっも、っ、またイく、イっあッ!ふぁ、あぅっ!」
「はっ、あっつ。イったらほんまにひくひくすんねんなぁ」

腰が浮く。
ナカへ指が挿入って来たのだ。それもイったと思ったその瞬間に、ぬるりと。

「っ!は、っっ、っつぁ、っ!」

仰け反った喉に変な力が入って息がうまく出来ない。

やばい、どうしよう、私今夏樹に体の中触られちゃってる。セックスしちゃってる。どうしよ、これ、これ幸せ過ぎて狂いそう。

「なー、Gスポットって実際どの辺なん?」
「っぁ、あっ!っっ!」

探るように、夏樹の骨ばった指が私の腹の中を探る。自身の弱点を探られているのだと思うと、怖さと興奮がい交ぜになった何かに襲われて、叫び出したくなる。もうやめて欲しくて、そして容赦せず続けて欲いと僅かに思っていて。自分でも何をして欲しいんだか明確にできなかった。

それでもどうにか首を横に振るけれど、正直、これではどちらが初心うぶか分かった物じゃない。

「なーぁって。どこなん?」
「ふっぅ、あ、ッ!?あ゛ッ!!」
「あぁ、ここ?」

膣なんて、そんな広い範囲の場所じゃない。相手に性感帯を探し出す意志がきっちりあるなら、その場所を見つけるなんて、きっとそう難しいことでもない。だって、こちらの反応を伺いながら、探るようにあちこち撫で擦ればいいだけの話なのだ。

「ひぁっ!やぇっ!あ゛っ!やっだめっ!だっ、やだっ!や゛ッ!これだめっ!出ちゃうっ!」
「え、マジ?めっちゃ見たいねんけど」

散々クリトリスを虐められていたのがよくなかったのだろう。その場所を探り当てられ、ピンポイントでノックするように刺激された途端、じわりと奥の方が熱く滲むのが分かった。もう触れられていないクリトリスまで熱く痺れているような感覚に襲われる。

焦る私に構うことなく、夏樹は淡々と同じリズムで刺激を続ける。こいつ童貞とか絶対嘘だ。こんな手馴れてる訳ない。おかしい。なんでっ!

「やだっ!ほん、とに゛ぃっあ゛ッ!出ちゃぅッ出りゅから゛ぁッ!」
「うん、出して?」

幸いな事に既に腰のホールドは解けている。私はぐちゃぐちゃに顔を歪めたまま、夏樹の指から逃れるべく、自分の体とは思えないくらい言うことを聞かない手足を動かして、必死に藻掻く。それが功を奏して、どうにか体がうつ伏せに転がり、ナカから彼の指が抜け落ちた。

その感触にすら喘ぎながら、どうにか立ち上がろうとした。

「ほら、逃げるんなら早よしぃや」
「ひっ、」

つ、と背骨の上に指が置かれた。肩甲骨の間辺り、性感帯でもなんでもない部分だ。それなのに、そこに指を置かれた途端、びくっと全身が硬直してしまう。

「急がな、すーぐ捕まってしまうで?」
「ッッ!~~~~~ッ!」

汗で湿った背中を夏樹の指が伝い落ちていく。背筋に沿って、指を下ろされているという、ただそれだけの動作に、腰がびくびくと跳ねる程感じてしまう。

なんでっもうおかしいっなんか体が変になってるっもうやだっもうやだ!!

「あ゛、」

尾てい骨の上あたりでぴたりと動きを止めた指は、そこをくるくると撫でまわし、そのまま触れる指の数が増え、最終的に掌全体で、揉み解すようにそこに触れる。

「ふぁ、ぅ、ぅぅー・・・」

思考が鈍る。
性的な快感とリラクゼーション的な快感が入り混じってちょっともうなんだかよく分からない。分からないけどとにかく気持ちよくて心地よくて仕方がない物だから、まともに抵抗もできない。どうにかシーツを握りしめている手だけが、まだその意思があるのだと主張していた。

「捕まえた」
「ぁっ」

ふわふわとした心地よい快感にぼーっとしていたら、くるりと体をひっくり返された。仰向けに転がされ、伸ばした脚の上、ちょうど膝の少し上あたりに、になかなかな重さがかかった。
私の脚の上に跨った夏樹は、可哀そうなものを見る目で私を見下ろし、しかし目が合うと、それはもう優越感たっぷりの表情でにんまりと笑った。

やばい、なんて思っても本当に今更だ。

「待っ――――」
「あーあー、ちゃんと教えたげたのになぁ?早よしないとって・・・ほんまどんくさいわぁ」
「そ、ぅむ」

夏樹の手が伸びて来て、これでもかと文句を言おうとした口が塞がれる。

「んははっ!やばい、俺なんか変な趣味に目覚めてもうてるわ。あんたの口抑え込むの、なんかすげぇクる」

楽しそうにおかしな性癖を恥ずかしげもなく暴露しながら、彼は何の躊躇いもなく私のナカへと再度指を埋め込んだ。

「んむぅう゛ッ!」
「いい目。そのままこっち見とってよ。そう、目ぇ合わしといてや?童貞に潮吹かされる経験豊富な情けなーいお姉さんの顔拝ませてや」

にんまりとした笑顔の夏樹は悪魔に見える。・・・妖怪だけど。

どこでそんなこっ恥ずかしいセリフ覚えてくるんだマジで。エロ漫画か?AVなのか?もう信じられない!それに煽られてる自分も信じられない!カエル化現象起こすなら今だろ!萎えろよ私!萎えるなら今だろうが!もぉおおっ!!

「ん゛ーーーっ!ッ!んっ、んぅぅ゛っ」

すっかり夏樹の掌で転がされている事を棚に上げて、思い切り睨み上げたのに、そのタイミングでさっき見つけられてしまったGスポットをゆっくりと刺激され、その瞬間虚勢が崩壊する。

信じられないくらい丁寧に解されてしまった体は、もはやどうにもならないくらいに敏感だった。そうでなくても、相手が夏樹というだけで、どうにもいつもと調子が違うというのに。
正直、一体今までの経験って何だったんだと聞きたくなるほどに、今している行為は、私が知っているセックスとは似て非なるものでしかなかった。

夏樹相手にこれだけ気持ちよくなれるのが嬉しくないはずもないのだが、しかしこんなにも掌の上でいいように転がされているのが心底気に食わないのも事実だった。

マジでムカつく。ほんと、あとで絶対泣かせてやる!!

「んっんっふっ!ぅんっんっ!」

心からそう思っているのに、私ができることは夏樹を弱弱しく睨み上げながら、Gスポットを刺激されて与えられる強い快感に、情けなく腰を揺らす事だけだった。
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