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49.欲しい物リスト
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なんとか取引を終えて、僕たちは『ファクタ』まで護衛付きで行く手段を手に入れた。
ついでに割引券も。
「クックック……オウミさんも物の価値がよく分かってるじゃあないか。これから買い物しまくるぞ~」
「それで、系列店ってどうやって見分けるんですか?」
「あっ……」
かなり有利に話を進めたと思っていたところ、マルカが大事な部分を容赦なく指摘した。
カオルの反応を見るに、そこまでは考えていなかったみたいだ。
(まあ、僕も勢いに流されて考えてなかったけど)
「ぐぁ~しまった! 言いくるめるのに必死だった!」
カオルは頭を抱えてじたばたと叫ぶ。つい数分前まで冷静に交渉していた人物だとはとても思えない。
「ユウくん、何か手がかりはあるでしょうか……」
「うーん」
困り顔のマルカにせがまれて、必死に記憶をたどる。
何か、系列店の目印になるものはないかな。
考えて、とりあえず部屋全体を見渡した。
一周回って目に入ったのは、テーブルの上に置かれた割引券だ。豪勢な来客用のテーブルと相反するような、簡素な木の板。直感が「これだ」と告げていた。
改めて割引券を観察する。これの特徴といえば……まず形。角の丸い長方形、厚さは1cmくらい。
(何の変哲もないストラップって感じだな)
となれば、残る特徴はオウミさんが記したサインだ。筆記体のアルファベットで彼の名前が彫られ、そこにインクが染み込んでいる。
(……そういえば、この世界にはアルファベットも存在してるんだよね)
言語や文字の大系が気になるけど、今はそこじゃない。このサイン、見覚えがある気がする。
あれは確か、店の中。いや違う、外の看板だ。『雑貨のボルド』の文字に添えられて──
「お店の看板に、これと同じサインがあったよ」
割引券を指差しながら伝える。これが『オウミグループ』のマークということなら、他のお店にもあるはずだ。
「さっすがユウくん! 素晴らしい観察眼!」
「これで見分けられますね。ユウくんお手柄ですよ~」
「ど、どうも……」
2人はにこにこと微笑みながら、僕の頭を撫でてくる。この程度のことで大げさだ。けれど、悪い気はしない。
「よーし、一段落だね。それじゃ今日は、仕事はやめにして準備に使うか。明日の昼には出発するし」
「そうだね。ひとまず宿を探そう」
席を立ち、本日の予定を決める。この後は特に何もない、おだやかな1日になりそうだ。
「そ、それならっ、今日は私の家に来てくれませんか……?」
部屋から出ようとしたところで、マルカがもじもじと切り出した。
「え、いいの? 私たちは助かるけど……」
マルカの申し出に、カオルは遠慮がちに返事をする。色々節約しないといけない僕たちにとって、それはありがたい話だ。でも
「マルカに迷惑なんじゃ……」
「いえいえそんな! むしろ私の両親も、お2人に会いたがっていたんです。なので是非!」
彼女はほんのり恥ずかしそうに、だけど精一杯歓迎の気持ちを表にして、僕たちを誘ってくれた。
「そこまで言ってくれるなら、断る理由は無いね」
「うん」
マルカのお言葉に甘えて、彼女の家に行くことにする。
──オウミさんとの会話を経て、僕たちはさらに仲良くなっている気がした。
~~~~~
3人で日差しが気持ち良い町中を歩く。
店を出る前に、カオルは『雑貨のボルド』で早速割引券を使った。今のリュックだけでは心許ないから、袋をいくつか買ったんだ。
ボルドさんはなんと9割引で売ってくれた。カオルがお得意様になるきっかけを作ったことで、オウミさんに評価され、そのお礼ということらしい。
とことんカオルに弱い店主さんを想いながら、僕たちはマルカの家へ向かっていた。
「それでですね、ちょっと思いついたんですが」
戦利品の袋を見ながらマルカが言う。
「カオルさんの欲しい物を紙に書いて、オウミさんのお店に貼っておくというのはどうでしょう! 名付けて『欲しい物リスト』! カオルさんの気を引きたい人たちがお店に来てそれを買って、プレゼントするんです。色んなお店に貼っておけば、カオルさんの宣伝にもなりますよ!」
「それは──っ」
そのアイデアを聞いたカオルは、全身に電流が走った様子で驚いた。
(欲しい物リスト、聞いたことあるな)
確か、とある通販サイトが始めたサービスだ。自分が欲しいと思っている物を公開して、それを見た人が代わりに買ってプレゼントする仕組み。
あれは21世紀に出来上がったサービスだった。それをマルカは、まだ通信技術も発達していない時代に思いついたんだ。なんて才能。
「マルカ、それは君が想像している以上に、想像を絶するほどに有効なアイデアだ。だがそれは、情報の伝達や荷物の配達といった部分がかなり発達していないとできないんだよ。みんなが買っても、私たちがそれを受け取れなきゃ意味がないだろう? ……それにお礼とか面倒だし」
「えぇ~そんなぁ~良い考えだと思ったのに……」
せっかくの案を却下され、マルカはしょんぼりする。
実際もったいない話ではある。生まれる時代さえ合っていれば、彼女はとんでもない大物になったかもしれない。
「アイデア自体は本当にすごいんだ。マルカ、商売の才能あるよ」
「うん、オウミさんはマルカにも目を向けておくべきだったね。絶対欲しい人材だよ」
「ああ、そうなったら私はマルカを取られないように交渉しなきゃいけなかったな。いやー、言ってくれたのが今で良かった!」
「そ、そんなにですか? えへへ、嬉しいです────あっ、着きました! あそこ、あそこが私の家です!」
大商人にも勝る、少女の秘められた才能に気づいたところで、彼女の家に着いた。
レンガ作りの、のどかで温かみのある平凡な家。そこが彼女、マルカ=リムネットの家だった。
ついでに割引券も。
「クックック……オウミさんも物の価値がよく分かってるじゃあないか。これから買い物しまくるぞ~」
「それで、系列店ってどうやって見分けるんですか?」
「あっ……」
かなり有利に話を進めたと思っていたところ、マルカが大事な部分を容赦なく指摘した。
カオルの反応を見るに、そこまでは考えていなかったみたいだ。
(まあ、僕も勢いに流されて考えてなかったけど)
「ぐぁ~しまった! 言いくるめるのに必死だった!」
カオルは頭を抱えてじたばたと叫ぶ。つい数分前まで冷静に交渉していた人物だとはとても思えない。
「ユウくん、何か手がかりはあるでしょうか……」
「うーん」
困り顔のマルカにせがまれて、必死に記憶をたどる。
何か、系列店の目印になるものはないかな。
考えて、とりあえず部屋全体を見渡した。
一周回って目に入ったのは、テーブルの上に置かれた割引券だ。豪勢な来客用のテーブルと相反するような、簡素な木の板。直感が「これだ」と告げていた。
改めて割引券を観察する。これの特徴といえば……まず形。角の丸い長方形、厚さは1cmくらい。
(何の変哲もないストラップって感じだな)
となれば、残る特徴はオウミさんが記したサインだ。筆記体のアルファベットで彼の名前が彫られ、そこにインクが染み込んでいる。
(……そういえば、この世界にはアルファベットも存在してるんだよね)
言語や文字の大系が気になるけど、今はそこじゃない。このサイン、見覚えがある気がする。
あれは確か、店の中。いや違う、外の看板だ。『雑貨のボルド』の文字に添えられて──
「お店の看板に、これと同じサインがあったよ」
割引券を指差しながら伝える。これが『オウミグループ』のマークということなら、他のお店にもあるはずだ。
「さっすがユウくん! 素晴らしい観察眼!」
「これで見分けられますね。ユウくんお手柄ですよ~」
「ど、どうも……」
2人はにこにこと微笑みながら、僕の頭を撫でてくる。この程度のことで大げさだ。けれど、悪い気はしない。
「よーし、一段落だね。それじゃ今日は、仕事はやめにして準備に使うか。明日の昼には出発するし」
「そうだね。ひとまず宿を探そう」
席を立ち、本日の予定を決める。この後は特に何もない、おだやかな1日になりそうだ。
「そ、それならっ、今日は私の家に来てくれませんか……?」
部屋から出ようとしたところで、マルカがもじもじと切り出した。
「え、いいの? 私たちは助かるけど……」
マルカの申し出に、カオルは遠慮がちに返事をする。色々節約しないといけない僕たちにとって、それはありがたい話だ。でも
「マルカに迷惑なんじゃ……」
「いえいえそんな! むしろ私の両親も、お2人に会いたがっていたんです。なので是非!」
彼女はほんのり恥ずかしそうに、だけど精一杯歓迎の気持ちを表にして、僕たちを誘ってくれた。
「そこまで言ってくれるなら、断る理由は無いね」
「うん」
マルカのお言葉に甘えて、彼女の家に行くことにする。
──オウミさんとの会話を経て、僕たちはさらに仲良くなっている気がした。
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3人で日差しが気持ち良い町中を歩く。
店を出る前に、カオルは『雑貨のボルド』で早速割引券を使った。今のリュックだけでは心許ないから、袋をいくつか買ったんだ。
ボルドさんはなんと9割引で売ってくれた。カオルがお得意様になるきっかけを作ったことで、オウミさんに評価され、そのお礼ということらしい。
とことんカオルに弱い店主さんを想いながら、僕たちはマルカの家へ向かっていた。
「それでですね、ちょっと思いついたんですが」
戦利品の袋を見ながらマルカが言う。
「カオルさんの欲しい物を紙に書いて、オウミさんのお店に貼っておくというのはどうでしょう! 名付けて『欲しい物リスト』! カオルさんの気を引きたい人たちがお店に来てそれを買って、プレゼントするんです。色んなお店に貼っておけば、カオルさんの宣伝にもなりますよ!」
「それは──っ」
そのアイデアを聞いたカオルは、全身に電流が走った様子で驚いた。
(欲しい物リスト、聞いたことあるな)
確か、とある通販サイトが始めたサービスだ。自分が欲しいと思っている物を公開して、それを見た人が代わりに買ってプレゼントする仕組み。
あれは21世紀に出来上がったサービスだった。それをマルカは、まだ通信技術も発達していない時代に思いついたんだ。なんて才能。
「マルカ、それは君が想像している以上に、想像を絶するほどに有効なアイデアだ。だがそれは、情報の伝達や荷物の配達といった部分がかなり発達していないとできないんだよ。みんなが買っても、私たちがそれを受け取れなきゃ意味がないだろう? ……それにお礼とか面倒だし」
「えぇ~そんなぁ~良い考えだと思ったのに……」
せっかくの案を却下され、マルカはしょんぼりする。
実際もったいない話ではある。生まれる時代さえ合っていれば、彼女はとんでもない大物になったかもしれない。
「アイデア自体は本当にすごいんだ。マルカ、商売の才能あるよ」
「うん、オウミさんはマルカにも目を向けておくべきだったね。絶対欲しい人材だよ」
「ああ、そうなったら私はマルカを取られないように交渉しなきゃいけなかったな。いやー、言ってくれたのが今で良かった!」
「そ、そんなにですか? えへへ、嬉しいです────あっ、着きました! あそこ、あそこが私の家です!」
大商人にも勝る、少女の秘められた才能に気づいたところで、彼女の家に着いた。
レンガ作りの、のどかで温かみのある平凡な家。そこが彼女、マルカ=リムネットの家だった。
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