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失敗報告 2
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応接室のソファーに腰掛けた状態でそっけない態度を崩さず依頼失敗報告を淡々とした。
「それでは、遺跡群の周辺には全く竜残血花は無かったのですか?」
「そうですよ、全く無かったです。 8日間かけて遺跡群の周囲と内部を4人で探索しましたが全然ありませんでした。 おかげで20日間無駄に過ごした感じです」
「ほう、無駄とは何が無駄だったのでしょうか?」
「何が? 当然時間ですよ。 他の依頼を受けてれば収入があったのに、今回の依頼を受けたおかげで20日無収入みたいなもんですし」
「そうですか、確かに金銭的には無駄な20日間だったと…。 しかしあなた自身の経験としては本当に無駄だったのですか?」
「自分自身の経験? そうですね…、無駄でした。 形がある遺跡ならともかく遺跡と言っても瓦礫の山、過去の文明やら先人の歴史を全く感じられない以上時間の無駄でしたね」
「ふむ~、過去の文明や先人の歴史が感じられませんでしたか…。 しかし経験とは積み重ねることによりいずれ財産となるもの、今は無駄だったと思える事も、いずれ有意義だったと思える日が来るかもしれません」
「そうですか、その経験を自分に積み重ねさせる為に、しつこく自分を指名して依頼をしたんですね。 それは誠にありがとうございました。 以後教会からの依頼はしつこく指名されても精査して場合によっては徹底的にお断りするように致します。 確かに言われてみれば今回は良い経験になりました」
笑顔で話しを進める大司祭のファームイさん、そして一切口を挟まず表情も変えずただ話を聞いているだけの3人、定期的にファームイさんが「お茶が冷めてしまいましたね、淹れなおさせましょう」と言いシスターを呼び、お茶とお菓子を進める以外、怪しい所は無く、全く意図が読めない。
「時にカツヒコ殿は昔、珍しいお祈りをする冒険者にお会いしたとの事とお聞きしましたが、その方は今どこにいらっしゃるかご存じですか?」
「さ~、分からないです、自分は15歳になったら村を出るように言われてたので8歳から身体を鍛え、冒険者の人に魔法や剣術などを教えて貰いながら夜は酒場で働いていたので、7~8年前に会った事のある人の足取りは知らないです。 顔ももう覚えていないですし」
「そうですか、それは残念です。 珍しいお祈りの仕方をするという事は色々な場所を旅していると思いましたので、知識や技術など見聞きした物をお聞きしたかったのですが、そうですか、確かに7~8年前に会っただけでしたら足取は分からないのが当然ですね」
「お役に立てず申し訳ありません。 では私はこれで…」
失敗報告も終わり、先程から雑談になっている状態なので、もう席を立っても不自然じゃないと判断し、話を終わらせて帰ろうとすると、先程まで黙って聞いていた太った司祭、ダエタイさんが引き止めるように、口を開いた。
「カツヒコ殿の事を少し調べさせて貰ったのだが、ルミナ村では両親からファインと言う名を貰っていたようですが、何故お名前を変えたのですか? いや、気を悪くしたら謝りますが、キャールの街でも将来を期待された有望な新人冒険者が居ると以前聞き及んで調べたら偶然知ってしまいましたので、ついお聞きしたくて」
「大した理由じゃありませんよ、村を追い出されたので心機一転と思っただけです」
「そうですか、それにしても、冒険者登録をする前にダンジョンに挑み、踏破したうえ莫大な財宝と魔道具を手に入れたのですから、村に戻って生活も出来るでしょうし、何か商売を始めても良いでしょうに、冒険者を続けられる理由などはあるのですか?」
「理由は無いですね、元々8歳の時に15歳になったら村を出るよう言われた際、一人で良くて行くためにどうしたら良いか考えた結果が冒険者だったので、今も冒険者を続けているだけですよ。 まあいずれ気に入った場所があれば家を買ってのんびり過ごしたいと思ってますが」
勝手に自分の事を調べていた事に対して不信感が募るはずなのに、特に嫌悪感も湧かないどころか、帰る意思を示しているのに何故か雑談に応じてしまう。
教会の司祭の話し方が嫌味に聞こえないから? 警戒がいつの間にか解けてるから雑談に応じているのか?
そもそも自分の出自をこの短期間に調べた? それともキャールで活動していた時から教会に目を付けられていた?
帰ろうと思っているのに雑談に応じてしまう自分に疑問を持つも、次々にされる質問に答えてしまっている。
「それで、墳墓のダンジョンでは強大な魔物が最下層に居たと聞きましたが、是非最下層の魔物を倒したお話をお聞きしたいですね」
「最下層の魔物ですか? まあ魔物と言うよりアンデッドでしたけど、なんか長年100階層に封印されてたみたいで娯楽に飢えていた感じでしたね。 普通に話が通じましたし」
「ほう、それは実に興味深い、そしてその魔物…、いやアンデッドとはどのような話をしたのですか?」
「そうですね、色々と話しましたが…」
そこまで話して慌てて喋るのを止める。
何でダンジョンの主の事を普通に話してるんだ?
「いかがされましたか?」
ダエタイさんが口を開くより先に、イリーナさんが口を開く。
「いえ、ついつい長話をしてしまったので、お暇をしようかと思いまして」
何か変だけど、何がおかしいか分からない、ただ一つ分かっている事は、ついつい雑談に応じてしまうという事、このまま雑談に応じるとカトレアの事や自分の事まで口を滑らせてしまいそうな気がするので、強引に雑談を終わらせ帰ろうとする。
「まあまあ、冒険者の方は日々の活動が生活に関わるのは承知していますが、本日はそこを曲げて是非お話をお伺いしたいと思っておりますのでどうかお話をお聞かせください」
ダエタイさんがそう言うと、なぜかソファーから浮かしかけた腰を戻し、座りなおしてしまう。
「お茶でもどうぞ、このお茶は水の国から取り寄せた高級茶葉で、本来は高貴な方にお出ししている物ですが、ご無理を言ってお越しいただいたのでご用意させて頂きましたので是非堪能してください」
そう言われると、無意識にカップに手を伸ばし、気づくと口に運ぼうとしている。
やっぱ変だ、と言うか確実におかしい、何故向こうのペースに乗せられてる? と言うよりも何で絶対に手を付けないと決めてたお茶を飲もうとしてる?
手に取ったカップを元に戻そうとするも、身体が勝手にお茶を飲もうとしてカップをソーサーの上に戻せない…。
「どうかされましたか?」
イリーナさんがそう言うと、せめぎ合っていた状態のバランスが崩れ、左手がカップを口に運びだす。
やっぱり操られている。
精神操作? 魔法を使った様子は無かったのに、身体がいう事を聞かない?
話すことで相手を操作する魔法? それとも特殊なギフト?
このままでは絶対にまずい!
カップからは流れる芳醇な香りが鼻孔を刺激し、そのままカップに口を付け…。
「ッツ!!!」
「な、何を成される!!」
咄嗟にとった行動に、ファームイさんが慌てて声をあげ、ダエタイさんとイリーナさんが驚いた表情を浮かべていたが、一度も口を開いていなかったもう一人の司祭ヤムダさんは何かに弾かれたような反応をし、ソファーに腰掛けたまま上を向いて意識を失っている。
「なんか変だったんですよ、身体が勝手に動くし、帰ろうとしてるのに何故か引き止められると雑談に興じてしまう。 どう考えても精神操作されてるか、何かしらの影響下にあると判断したので」
そう言いつつ、右足に突き刺した短剣を引き抜き、短剣をアイテムBOXに投げ込んで回復魔法で傷を治す。
「そ、そのような事は致しておりません」
イリーナさんが口調を荒げて否定をするも、ソファーに腰掛けたまま上を向いて意識を失っているヤムダさんを指さし、「なぜ自分が足を刺した直後に意識をうしなったのですか?」 と聞くと、そのまま黙り込んでしまった。
「では、私はこれで…。 大司祭であるファームイさんの言われていた事は正しいですね、今回の依頼を含めて良い経験になりました」
そう言い、席を立ち教会を後にする。
教会を出るまで強硬手段を取って来るかもと警戒をしていたが特にそうした事も無く若干拍子抜けしたものの、カトレアの言う通り教会って言うのは厄介な存在だと改めて認識した。
カトレアの言葉を信じて無かった訳ではないけど、若干甘く見てたな…。
さて、宿に戻って今後の事を相談しよう。
この王都を拠点にしてると今後も面倒事に巻き込まれそうだし。
「それでは、遺跡群の周辺には全く竜残血花は無かったのですか?」
「そうですよ、全く無かったです。 8日間かけて遺跡群の周囲と内部を4人で探索しましたが全然ありませんでした。 おかげで20日間無駄に過ごした感じです」
「ほう、無駄とは何が無駄だったのでしょうか?」
「何が? 当然時間ですよ。 他の依頼を受けてれば収入があったのに、今回の依頼を受けたおかげで20日無収入みたいなもんですし」
「そうですか、確かに金銭的には無駄な20日間だったと…。 しかしあなた自身の経験としては本当に無駄だったのですか?」
「自分自身の経験? そうですね…、無駄でした。 形がある遺跡ならともかく遺跡と言っても瓦礫の山、過去の文明やら先人の歴史を全く感じられない以上時間の無駄でしたね」
「ふむ~、過去の文明や先人の歴史が感じられませんでしたか…。 しかし経験とは積み重ねることによりいずれ財産となるもの、今は無駄だったと思える事も、いずれ有意義だったと思える日が来るかもしれません」
「そうですか、その経験を自分に積み重ねさせる為に、しつこく自分を指名して依頼をしたんですね。 それは誠にありがとうございました。 以後教会からの依頼はしつこく指名されても精査して場合によっては徹底的にお断りするように致します。 確かに言われてみれば今回は良い経験になりました」
笑顔で話しを進める大司祭のファームイさん、そして一切口を挟まず表情も変えずただ話を聞いているだけの3人、定期的にファームイさんが「お茶が冷めてしまいましたね、淹れなおさせましょう」と言いシスターを呼び、お茶とお菓子を進める以外、怪しい所は無く、全く意図が読めない。
「時にカツヒコ殿は昔、珍しいお祈りをする冒険者にお会いしたとの事とお聞きしましたが、その方は今どこにいらっしゃるかご存じですか?」
「さ~、分からないです、自分は15歳になったら村を出るように言われてたので8歳から身体を鍛え、冒険者の人に魔法や剣術などを教えて貰いながら夜は酒場で働いていたので、7~8年前に会った事のある人の足取りは知らないです。 顔ももう覚えていないですし」
「そうですか、それは残念です。 珍しいお祈りの仕方をするという事は色々な場所を旅していると思いましたので、知識や技術など見聞きした物をお聞きしたかったのですが、そうですか、確かに7~8年前に会っただけでしたら足取は分からないのが当然ですね」
「お役に立てず申し訳ありません。 では私はこれで…」
失敗報告も終わり、先程から雑談になっている状態なので、もう席を立っても不自然じゃないと判断し、話を終わらせて帰ろうとすると、先程まで黙って聞いていた太った司祭、ダエタイさんが引き止めるように、口を開いた。
「カツヒコ殿の事を少し調べさせて貰ったのだが、ルミナ村では両親からファインと言う名を貰っていたようですが、何故お名前を変えたのですか? いや、気を悪くしたら謝りますが、キャールの街でも将来を期待された有望な新人冒険者が居ると以前聞き及んで調べたら偶然知ってしまいましたので、ついお聞きしたくて」
「大した理由じゃありませんよ、村を追い出されたので心機一転と思っただけです」
「そうですか、それにしても、冒険者登録をする前にダンジョンに挑み、踏破したうえ莫大な財宝と魔道具を手に入れたのですから、村に戻って生活も出来るでしょうし、何か商売を始めても良いでしょうに、冒険者を続けられる理由などはあるのですか?」
「理由は無いですね、元々8歳の時に15歳になったら村を出るよう言われた際、一人で良くて行くためにどうしたら良いか考えた結果が冒険者だったので、今も冒険者を続けているだけですよ。 まあいずれ気に入った場所があれば家を買ってのんびり過ごしたいと思ってますが」
勝手に自分の事を調べていた事に対して不信感が募るはずなのに、特に嫌悪感も湧かないどころか、帰る意思を示しているのに何故か雑談に応じてしまう。
教会の司祭の話し方が嫌味に聞こえないから? 警戒がいつの間にか解けてるから雑談に応じているのか?
そもそも自分の出自をこの短期間に調べた? それともキャールで活動していた時から教会に目を付けられていた?
帰ろうと思っているのに雑談に応じてしまう自分に疑問を持つも、次々にされる質問に答えてしまっている。
「それで、墳墓のダンジョンでは強大な魔物が最下層に居たと聞きましたが、是非最下層の魔物を倒したお話をお聞きしたいですね」
「最下層の魔物ですか? まあ魔物と言うよりアンデッドでしたけど、なんか長年100階層に封印されてたみたいで娯楽に飢えていた感じでしたね。 普通に話が通じましたし」
「ほう、それは実に興味深い、そしてその魔物…、いやアンデッドとはどのような話をしたのですか?」
「そうですね、色々と話しましたが…」
そこまで話して慌てて喋るのを止める。
何でダンジョンの主の事を普通に話してるんだ?
「いかがされましたか?」
ダエタイさんが口を開くより先に、イリーナさんが口を開く。
「いえ、ついつい長話をしてしまったので、お暇をしようかと思いまして」
何か変だけど、何がおかしいか分からない、ただ一つ分かっている事は、ついつい雑談に応じてしまうという事、このまま雑談に応じるとカトレアの事や自分の事まで口を滑らせてしまいそうな気がするので、強引に雑談を終わらせ帰ろうとする。
「まあまあ、冒険者の方は日々の活動が生活に関わるのは承知していますが、本日はそこを曲げて是非お話をお伺いしたいと思っておりますのでどうかお話をお聞かせください」
ダエタイさんがそう言うと、なぜかソファーから浮かしかけた腰を戻し、座りなおしてしまう。
「お茶でもどうぞ、このお茶は水の国から取り寄せた高級茶葉で、本来は高貴な方にお出ししている物ですが、ご無理を言ってお越しいただいたのでご用意させて頂きましたので是非堪能してください」
そう言われると、無意識にカップに手を伸ばし、気づくと口に運ぼうとしている。
やっぱ変だ、と言うか確実におかしい、何故向こうのペースに乗せられてる? と言うよりも何で絶対に手を付けないと決めてたお茶を飲もうとしてる?
手に取ったカップを元に戻そうとするも、身体が勝手にお茶を飲もうとしてカップをソーサーの上に戻せない…。
「どうかされましたか?」
イリーナさんがそう言うと、せめぎ合っていた状態のバランスが崩れ、左手がカップを口に運びだす。
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精神操作? 魔法を使った様子は無かったのに、身体がいう事を聞かない?
話すことで相手を操作する魔法? それとも特殊なギフト?
このままでは絶対にまずい!
カップからは流れる芳醇な香りが鼻孔を刺激し、そのままカップに口を付け…。
「ッツ!!!」
「な、何を成される!!」
咄嗟にとった行動に、ファームイさんが慌てて声をあげ、ダエタイさんとイリーナさんが驚いた表情を浮かべていたが、一度も口を開いていなかったもう一人の司祭ヤムダさんは何かに弾かれたような反応をし、ソファーに腰掛けたまま上を向いて意識を失っている。
「なんか変だったんですよ、身体が勝手に動くし、帰ろうとしてるのに何故か引き止められると雑談に興じてしまう。 どう考えても精神操作されてるか、何かしらの影響下にあると判断したので」
そう言いつつ、右足に突き刺した短剣を引き抜き、短剣をアイテムBOXに投げ込んで回復魔法で傷を治す。
「そ、そのような事は致しておりません」
イリーナさんが口調を荒げて否定をするも、ソファーに腰掛けたまま上を向いて意識を失っているヤムダさんを指さし、「なぜ自分が足を刺した直後に意識をうしなったのですか?」 と聞くと、そのまま黙り込んでしまった。
「では、私はこれで…。 大司祭であるファームイさんの言われていた事は正しいですね、今回の依頼を含めて良い経験になりました」
そう言い、席を立ち教会を後にする。
教会を出るまで強硬手段を取って来るかもと警戒をしていたが特にそうした事も無く若干拍子抜けしたものの、カトレアの言う通り教会って言うのは厄介な存在だと改めて認識した。
カトレアの言葉を信じて無かった訳ではないけど、若干甘く見てたな…。
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