上 下
50 / 121

大森林と未踏の山脈の狭間

しおりを挟む
開拓村を襲ったウェアウルフとそれを統率していたレイムダリーアが討伐されて20日程経った頃、大森林の奥地と未踏の山脈の狭間にある朽ちかけた古代ローマ遺跡のような神殿で、8匹の魔獣が顔を揃えている。

大森林の奥地に縄張を持つ魔獣、正確には魔獣から聖獣へと進化を遂げ一族を率いる達だ。
神殿はピンとした空気に包まれ7匹の聖獣達が集まったその場は、あたかも幻想的な雰囲気である。
静寂が神殿を包み込むなか、1匹の聖獣がその静寂を破る。

「わざわざ我らを集めた理由を聞かせてもらいたいな、まあ大方予想は付いているが…」
静寂を破ったのは、金色の毛皮に漆黒の模様が鮮やかに浮かぶ虎のような聖獣ゴールドファントムだった。

「ふむ、呼んだのは大方察しがついているだろうが、この森、いや未踏の山脈の異変についてだ」
そう言って地面に胡坐をかいていた漆黒の毛皮に覆われた熊のような聖獣ダークイングリズリーが腕を組む。

「異変か…。 一族の若いのが腕試しと称して山脈に立ち入ったりするのはよくある事だが、何故か人間共の住む領域に足を踏み入れたがる」
赤い羽根に紫の斑模様が毒々しい、鳥のような聖獣トマケラドップスがそう言うと、光沢のある青紫色の甲羅を思わせる羽を持つ虫のような聖獣が口を開く。

「人間共の領域に足を踏み入れるのは構わん、だが不可解な点がいくつもある、我々が定めた掟を知らぬかのように破り、他の魔獣を率いて山脈に立ち入ったり、人間の領域に踏み入ったり、それどころか意味も無く同族を殺し喰らう者もいる」
「そうだ、まるで何者かに操られているのか、それともそそのかされているのか…。そうであろう?」
淡く光る銀色の毛並みを持つ狼のような聖獣ウルファーリルが猫のような聖獣レイムダリーアに問いかける。

「まったくだ、最近我が子がウェアウルフを率い人間共の領域を荒し討伐された。 十数年前までは利発でいずれ成長すれば聖獣ともなれたであろう我が子がだ」

「それでシールは我が子を殺した仇である人間をそのまま生かして帰って来たのか?」
そう言い、異様に長い腕を持ち老人のような体格の猿の聖獣、オフォレースモンキーがシールと呼ばれたレイムダリーアに声をかける。

「ふん、禁を破り我が一族の領域を出たのだ、人間に討伐されなくてもいずれ我が手で殺していた、それを人間が代わりに殺したまでの事」
「ふむ、禁を犯した我が子とはいえ人間に殺されて含むところも無しか?」

ゴールドファントムが挑発するような視線でレイムダリーアに問いかける。
「含むところはある、なんせ我が子を殺したのは戦いの経験も乏しい人間の子供だからな」
「子供だと? いくら何でもそれはおかしかろう。若いとはいえレイムダリーアだ、それを子供が倒すなど…」
トマケラドップスが驚いたようにレイムダリーアの言葉に反応する。

「確かに人間の子供だ。 連れが2人居たが、そ奴らからは我が子の血の匂いはしなかった」
「そうか…。 なら数年後、我らが領域に踏み込む事があるやもしれんな」
オフォレースモンキーがひげを撫でるようにしながらそう言うと、レイムダリーアを除く他の聖獣は一瞬殺気立つ。

「いや、確実に足を踏み入れるだろうな、我が子を殺した子供の仲間の一人は我と同等、いやそれ以上の力を持っていたからな」
「バカな!!! 人間共が我らの領域に足を踏み入れなくなって数百年、にもかかわらずそんな人間が居るわけが無かろう!!」
牙を剥き出しにし否定をするウルファーリルのレイムダリーアがかつて白銀の聖女と呼ばれたカトレアの名前を出す。

名を聞いた聖獣達は、一様に驚きの表情を浮かべ、そしてそれを否定する。
人間の寿命は精々長くて80年、白銀の聖女と呼ばれたカトレアがこの神殿に足を踏み入れたのは400年前以上前の事だからだ。

そんな聖獣達にレイムダリーアはカトレアから聞いた経緯を説明する。

「それが異変に関係はあるのか? いや話を聞く限り因果関係は無いだろう。 なら今は異変の原因を突き止める事が重要じゃろう」
オフォレースモンキーの言葉で再度、その場に静寂が訪れる。

「話にならん!! 手がかりがあるならまだしも、無いならワシは帰るぞ!! 手がかりを掴んだその時に再度集まればよいだろう!!」
そう言い放つとダークイングリズリーがその場を立ち、場を後にし、そのまま聖獣の集いは解散となる。

「シールよ、先程の話をもそっと詳しくしてくれんか?」
オフォレースモンキーがそう言うと、トマケラドップスも興味があるのかその場に残り話に耳を傾ける。

日が沈みだした頃、話を聞き終えたオフォレースモンキーとトマケラドップスが場を離れるとレイムダリーアも立ち上がりその場を後にした。

それぞれ一族を率いる聖獣達が異変の原因を探る為に…。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

底辺おっさん異世界通販生活始めます!〜ついでに傾国を建て直す〜

ぽっちゃりおっさん
ファンタジー
 学歴も、才能もない底辺人生を送ってきたアラフォーおっさん。  運悪く暴走車との事故に遭い、命を落とす。  憐れに思った神様から不思議な能力【通販】を授かり、異世界転生を果たす。  異世界で【通販】を用いて衰退した村を建て直す事に成功した僕は、国家の建て直しにも協力していく事になる。

異世界転生してしまったがさすがにこれはおかしい

増月ヒラナ
ファンタジー
不慮の事故により死んだ主人公 神田玲。 目覚めたら見知らぬ光景が広がっていた 3歳になるころ、母に催促されステータスを確認したところ いくらなんでもこれはおかしいだろ!

異世界道中ゆめうつつ! 転生したら虚弱令嬢でした。チート能力なしでたのしい健康スローライフ!

マーニー
ファンタジー
※ほのぼの日常系です 病弱で閉鎖的な生活を送る、伯爵令嬢の美少女ニコル(10歳)。対して、亡くなった両親が残した借金地獄から抜け出すため、忙殺状態の限界社会人サラ(22歳)。 ある日、同日同時刻に、体力の限界で息を引き取った2人だったが、なんとサラはニコルの体に転生していたのだった。 「こういうときって、神様のチート能力とかあるんじゃないのぉ?涙」 異世界転生お約束の神様登場も特別スキルもなく、ただただ、不健康でひ弱な美少女に転生してしまったサラ。 「せっかく忙殺の日々から解放されたんだから…楽しむしかない。ぜっっったいにスローライフを満喫する!」 ―――異世界と健康への不安が募りつつ 憧れのスローライフ実現のためまずは健康体になることを決意したが、果たしてどうなるのか? 魔法に魔物、お貴族様。 夢と現実の狭間のような日々の中で、 転生者サラが自身の夢を叶えるために 新ニコルとして我が道をつきすすむ! 『目指せ健康体!美味しいご飯と楽しい仲間たちと夢のスローライフを叶えていくお話』 ※はじめは健康生活。そのうちお料理したり、旅に出たりもします。日常ほのぼの系です。 ※非現実色強めな内容です。 ※溺愛親バカと、あたおか要素があるのでご注意です。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

集団転移した商社マン ネットスキルでスローライフしたいです!

七転び早起き
ファンタジー
「望む3つのスキルを付与してあげる」 その天使の言葉は善意からなのか? 異世界に転移する人達は何を選び、何を求めるのか? そして主人公が○○○が欲しくて望んだスキルの1つがネットスキル。 ただし、その扱いが難しいものだった。 転移者の仲間達、そして新たに出会った仲間達と異世界を駆け巡る物語です。 基本は面白くですが、シリアスも顔を覗かせます。猫ミミ、孤児院、幼女など定番物が登場します。 ○○○「これは私とのラブストーリーなの!」 主人公「いや、それは違うな」

平民として生まれた男、努力でスキルと魔法が使える様になる。〜イージーな世界に生まれ変わった。

モンド
ファンタジー
1人の男が異世界に転生した。 日本に住んでいた頃の記憶を持ったまま、男は前世でサラリーマンとして長年働いてきた経験から。 今度生まれ変われるなら、自由に旅をしながら生きてみたいと思い描いていたのだ。 そんな彼が、15歳の成人の儀式の際に過去の記憶を思い出して旅立つことにした。 特に使命や野心のない男は、好きなように生きることにした。

豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜

自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成! 理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」 これが翔の望んだ力だった。 スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!? ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...