器用貧乏の意味を異世界人は知らないようで、家を追い出されちゃいました。

武雅

文字の大きさ
上 下
19 / 121

100階層の主2

しおりを挟む
「久々の来客だ、そう直ぐに帰らなくても良かろう、私の質問に答えれば苦しまずに楽にしてやるぞ」

そんな言葉が背中越しに聞こえて来くる。
震える足を押さえ、気力を振り絞り、振り向くと、石の棺から起き上がった純白のローブを纏った何かが立っている。

人? フード被ってるから顔が良く見えないけど、人なのか?
いや違う、ミイラ?

フードから覗く顔は、スケルトンのように骨と言う訳でも無く、皮があり、ローブの袖から見える手も骨と皮だけの指が見え隠れしている。

「質問? 自分に質問って何を聞きたいんですか?」
恐らく声は上擦って、顔は引きつっているだろう。
やっとのことで声を絞り出すと、声の主は楽しそうに口を開きます。

「まず今はロマーラル歴何年だ? いや、以前来た冒険者はロマーラル帝国は滅び、今はノーム歴と言っているのか…。 それで今はノーム歴何年だ?」

決して寒くは無いのに、恐怖で体中の毛穴か開き、汗が噴き出し、服が体に張り付く。
ゴクリと生唾を飲み込み、意を決してアンデッドの質問に答える

「ノーム歴241年」
やっとの事でそれだけ口にするが、それ以上の言葉が出てこない。

「そうか、それでロマーラル歴は何年で終わったんだ?」
「お、教えられた限りだと、416年…。 それがどうしたって言うん、で、ですか?」

「ほぅ、羽虫のくせに質問をして来るとは…。 楽に死にたくはないようだな、それとも私から逃げれると? まさか倒せるなんて思っていないだろうな?」

そう言うとアンデッドの魔力が膨れ上がり、不快な魔力が身体に絡みつく。

「い、いや、そもそも授かったギフトがもとで家を追い出されて、ハズレダンジョンと言われる場所で基礎能力向上させる為に来ただけで、倒そうとか思ってませんから…。 ていうか村から出たばっかりで、この世界の事もよく分からないし…」

「この世界の事? 面白い事を言うな…、それにギフトが元で追い出されただと? 余興としてきいてやろう、追い出される程とは、どのようなギフトだ?」

そう言うとアンデッドは膨れ上がった魔力を一旦おさめ、質問を投げかけてきた。
話が通じる…。
これならもしかしたら逃げるチャンスがあるかも…。

不快な魔力がおさまり息苦しさも収まったので、アンデッドへ向き直り、自分のギフトを話す。

「器用貧乏だと? なんだそれは、そのようなギフトなぞ聞いたことがないぞ!」
「聞いたことがないと言うのは村の司祭も言っていたんだけど、前世の世界では、器用だから大体の事はこなせるけど色んな事に手を出し過ぎてすべてが中途半端になるって感じの事なんだけど、この世界では貧乏になると言われて家を…、いや村からも追い出されたんだよ」

「前世? お前は前世の世界と言ったか?」
「言ったけど、それがなにか?」

「お前は召喚者か? いや前世という事は転生者か?」
「多分転生だと思う、前世では酔っ払って階段から落ちたとこまで記憶があるから、死んでこの世界に転生したと思う」

「そうか、転生者か…。 これは珍しい、召喚者は幾人も見て来たが、転生者は初めてだ、だが階段から落ちて死ぬとは…、間抜けとでもいうのか…」

そう言うとアンデッドは、そうかそうか、と何故か好戦的な雰囲気から何か楽しそうな感じで部屋の隅に乱雑に置かれている品々の中からテーブルと椅子を持ってきた。

えっ?
何? 何故に椅子とテーブル用意する?
そんな自分の困惑をよそにアンデッドは手際よくテーブルの上にお菓子を並べ、お茶の支度をし始めた。 
「お主、名はなんと言うんだ? まあ立ち話もなんだ、椅子に座ってゆっくり話を聞こう、茶もあるぞ」

唖然とする自分をよそにアンデッドは、高そうなティーセットのカップにお茶を注ぎ差し出す。

うん、何故かアンデッドに接待されてるのが疑問だけど、もうかなりの間、飲み物は水だけだったから、お茶って新鮮だ…。 そして美味しい。
カップに注がれたお茶を飲み干し、お替りを貰い久々に飲む水以外の飲み物を堪能してい居ると、その姿を見たアンデッドは表情こそ分からないが、雰囲気的に心なしか楽しそうな感じがする。

なんで…、なんでこうなった?
詰んだと思ったけど一応何とか危機は回避できたから深く考えるのをやめよう。
うん、機嫌損ねないように注意して会話をしよう。
なんかこのアンデッド運良ければ無事に帰らせてくれそうだし、そして何より人間じゃないけど、久々にまともな会話が出来る事に何故か恐怖より喜びが湧いて来たんだけど…。

やっぱりボッチだったから病んでるんだな…。
しおりを挟む
感想 10

あなたにおすすめの小説

勇者パーティーにダンジョンで生贄にされました。これで上位神から押し付けられた、勇者の育成支援から解放される。

克全
ファンタジー
エドゥアルには大嫌いな役目、神与スキル『勇者の育成者』があった。力だけあって知能が低い下級神が、勇者にふさわしくない者に『勇者』スキルを与えてしまったせいで、上級神から与えられてしまったのだ。前世の知識と、それを利用して鍛えた絶大な魔力のあるエドゥアルだったが、神与スキル『勇者の育成者』には逆らえず、嫌々勇者を教育していた。だが、勇者ガブリエルは上級神の想像を絶する愚者だった。事もあろうに、エドゥアルを含む300人もの人間を生贄にして、ダンジョンの階層主を斃そうとした。流石にこのような下劣な行いをしては『勇者』スキルは消滅してしまう。対象となった勇者がいなくなれば『勇者の育成者』スキルも消滅する。自由を手に入れたエドゥアルは好き勝手に生きることにしたのだった。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

異世界でゆるゆるスローライフ!~小さな波乱とチートを添えて~

イノナかノかワズ
ファンタジー
 助けて、刺されて、死亡した主人公。神様に会ったりなんやかんやあったけど、社畜だった前世から一転、ゆるいスローライフを送る……筈であるが、そこは知識チートと能力チートを持った主人公。波乱に巻き込まれたりしそうになるが、そこはのんびり暮らしたいと持っている主人公。波乱に逆らい、世界に名が知れ渡ることはなくなり、知る人ぞ知る感じに収まる。まぁ、それは置いといて、主人公の新たな人生は、温かな家族とのんびりした自然、そしてちょっとした研究生活が彩りを与え、幸せに溢れています。  *話はとてもゆっくりに進みます。また、序盤はややこしい設定が多々あるので、流しても構いません。  *他の小説や漫画、ゲームの影響が見え隠れします。作者の願望も見え隠れします。ご了承下さい。  *頑張って週一で投稿しますが、基本不定期です。  *無断転載、無断翻訳を禁止します。   小説家になろうにて先行公開中です。主にそっちを優先して投稿します。 カクヨムにても公開しています。 更新は不定期です。

スキル盗んで何が悪い!

大都督
ファンタジー
"スキル"それは誰もが欲しがる物 "スキル"それは人が持つには限られた能力 "スキル"それは一人の青年の運命を変えた力  いつのも日常生活をおくる彼、大空三成(オオゾラミツナリ)彼は毎日仕事をし、終われば帰ってゲームをして遊ぶ。そんな毎日を繰り返していた。  本人はこれからも続く生活だと思っていた。  そう、あのゲームを起動させるまでは……  大人気商品ワールドランド、略してWL。  ゲームを始めると指先一つリアルに再現、ゲーマーである主人公は感激と喜び物語を勧めていく。  しかし、突然目の前に現れた女の子に思わぬ言葉を聞かさせる……  女の子の正体は!? このゲームの目的は!?  これからどうするの主人公!  【スキル盗んで何が悪い!】始まります!

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

称号チートで異世界ハッピーライフ!~お願いしたスキルよりも女神様からもらった称号がチートすぎて無双状態です~

しらかめこう
ファンタジー
「これ、スキルよりも称号の方がチートじゃね?」 病により急死した主人公、突然現れた女神によって異世界へと転生することに?! 女神から様々なスキルを授かったが、それよりも想像以上の効果があったチート称号によって超ハイスピードで強くなっていく。 そして気づいた時にはすでに世界最強になっていた!? そんな主人公の新しい人生が平穏であるはずもなく、行く先々で様々な面倒ごとに巻き込まれてしまう...?! しかし、この世界で出会った友や愛するヒロインたちとの幸せで平穏な生活を手に入れるためにどんな無理難題がやってこようと最強の力で無双する!主人公たちが平穏なハッピーエンドに辿り着くまでの壮大な物語。 異世界転生の王道を行く最強無双劇!!! ときにのんびり!そしてシリアス。楽しい異世界ライフのスタートだ!! 小説家になろう、カクヨム等、各種投稿サイトにて連載中。毎週金・土・日の18時ごろに最新話を投稿予定!!

【完結】公爵家の末っ子娘は嘲笑う

たくみ
ファンタジー
 圧倒的な力を持つ公爵家に生まれたアリスには優秀を通り越して天才といわれる6人の兄と姉、ちやほやされる同い年の腹違いの姉がいた。  アリスは彼らと比べられ、蔑まれていた。しかし、彼女は公爵家にふさわしい美貌、頭脳、魔力を持っていた。  ではなぜ周囲は彼女を蔑むのか?                        それは彼女がそう振る舞っていたからに他ならない。そう…彼女は見る目のない人たちを陰で嘲笑うのが趣味だった。  自国の皇太子に婚約破棄され、隣国の王子に嫁ぐことになったアリス。王妃の息子たちは彼女を拒否した為、側室の息子に嫁ぐことになった。  このあつかいに笑みがこぼれるアリス。彼女の行動、趣味は国が変わろうと何も変わらない。  それにしても……なぜ人は見せかけの行動でこうも勘違いできるのだろう。 ※小説家になろうさんで投稿始めました

処理中です...