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蠢動

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「グレーム卿、首尾の方はどうなっておる」
「はっ、恐れながら今のところ芳しくありません」
グレーム卿と呼ばれた男は声の主に対し苦々しい顔をして返答をしています。

「そもそも、あれがまずかったのだ!!」
そう怒りを露わにしているのはヌスターロス大陸の北東よりにあるウェース聖教国、ネレースへの信仰を教義とした国の教皇です。
そしてグレーム卿と呼ばれた男は、教皇の就任に尽力し現在教皇の右腕としてウェース聖教国で辣腕を振るう男です。

「さようでございますな、まさかあの男が本当に異世界から転移して来た者であったとは」

今から約20日前の夜にヌスターロス大陸全土の住人に神託がありその内容は異世界からの転移者が多数この世界に来るとの事。しかし、その前日にウェース聖教国は一人の異教徒を処刑していました。

その者は、「ネレースに誘拐されこの世界に来ただけで自分はこの世界の人間ではない、元の世界に返してくれ」と言いながら衆目の目が集まる中で磔にされ処刑をされました。

神託があったのはその夜です。
神託があった後、ウェース聖教国は異世界人をネレースが招待した神客として迎え入れると公表し異世界人探しを始めましたが異世界人が自ら現れることはありません。

しかしウェース聖教国としてはネレースの神託にあった、この世界より発達した文明の知識を求め、また求心力を失いつつあるウェース聖教国の威信を取り戻すため、異世界人を何としても迎え入れたい状況でありました。

「何か策はないのか?」
教皇はイライラした感じで質問をします。

「策ですか・・・下手な策は異世界人に対し余計警戒感を与えます。今のところは各村へ通達と、騎士を教国内の各地に送り異世界人らしき者を見かけたら保護するようにする事ぐらいしかございません。」
「それでは他国に後れを取るではないか!!」

教皇の癇癪が爆発しました。
しかしグレーム卿と呼ばれた男は眉一つ動かさずに答えます。
「今は保護をしている3名を使い同じ異世界人の警戒を解き、また近隣各国に間者を送り込み異世界人の情報を集めるのが得策かと」

「しかしその異世界人は既に仲間が殺されるのを見ているのだぞ。報告では元の世界に返してくれというだけで我々に協力する気配はないとの事ではないか!!」
「それにつきましては、待遇を改善し、またウェース聖教国としても異世界に帰るすべを探すなど約束をして協力させるのが得策かと思います」
「約束など出来るわけなかろうが!!」
「確かに元の世界に返すと言う約束は出来ませんが帰るすべを探すのに協力する、となら約束が出来ます。もっとも探したとて見つかるわけもありませんが、形だけ協力してる振りをしていればいいだけです」
「それで奴らが信用して協力するのか?」
「彼らも元の世界に帰る為には必死になるでしょう。もっとも異世界からの転移など初めて聞きましたので帰れるとは思えませんが」
「じゃあそうしろ!!」

そういうと教皇は席を立ち退出していきます。
その場に残されたグレーム卿は大きなため息をし自身も退出をします。

実際グレーム卿の元へは異世界人らしき者を見かけたとの情報は入ってきますがどれも処刑が行われる前の過去の事で、処刑後の目撃情報はほとんどなくなっています。
「恐らく他国に逃げたか、それとも民衆に紛れているのか・・・」

そう思いながら自身が組織している諜報員からの報告書に目を通します。
内容は正教国内にて異世界人は異端者として処刑する為、懸賞金をかけて探しているとのうわさが蔓延している事、近隣国では複数の異世界人を確保している兆候が見られることなど正教国にとってはマイナス面の報告書ばかりです。

「どこの国も異世界人の囲い込みに躍起か・・・それとも既にネズミに匿われているか・・・」

そういうと諜報部へ再度、正教国が神客として異世界人を迎えている、処刑されたのは異世界人ではなく盗賊だったとのうわさを流すことと、各国の間者の監視強化を指示します。

実際、神託の後、各国は近隣諸国に間者を大量に送り込み異世界人の捜索と確保に躍起になっている結果、現時点でウェース聖教国内に転移された日本人の大半は各国の諜報員に確保され匿われています。

こうなっては異世界人を確保するには出国する際に確保するか、匿われている場所を見つけ出し強襲して強引に確保するしか選択肢がありません。

「少しでも下手を打つと隣国との軋轢を生むな・・・」
そう独り言を呟き、グレーム卿は大きなため息をします。

「とりあえず隣国との手前に検問所を設け出国する者を監視するしかないか・・。」
そういうと呼び鈴で従者を呼び出し諜報担当責任者を呼ぶよう申し付け背もたれに身を任せ目を閉じます。

「うまくいかんもんだな・・・」
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