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俺のためのお前のこれまで

第17話 姉の事情(8)

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 太く長い指に、身体の中心を押し広げられている。
「あぁ……❤」
 まるで俺の弱点を知り尽くしているかのようにイオニスの指が動くから、あっという間にイッてしまった。
 イオニスは荒い息を吐く俺の足をさらに大きく開かせると、そそり立つあれを股間へ宛がってきた。
 甘い微笑みに頷けば、イオニスが俺の中にゆっくりと入ってきて――、
「んあぁ……あ?」
 イオニスが消えた。代わって視界に広がる、見慣れた天井を凝視する。
「……夢かよ」
 とんだ肩すかしだ。
 むうとして顔を横へ向ければ、自分の左手が目に入った。
「へへ」
 小指の模様を見ると頬が緩む。
 どう見ても指輪だ。これは実質、婚約指輪だよな?
 普通の指輪と違って作業中に外す必要も、うっかり失くす心配もない。しかも主の加護まで賜れるなんて最高としか言えない。
 なお、どういう加護かはまだ聞いていない。気にはなるが、指輪の値段を訊くみたいで気が引けるというか……もちろんソゥラ様の加護はいかなるものであっても身に余る光栄だ。
 ただ、普通の指輪であっても俺は――。
 あれから二月、俺もいろいろ考えた。
 俺が健康管理すれば、イオニスは聖騎士としてより邁進できるだろう。俺の叶えられなかった夢を叶えるイオニスと、一緒に歩いていけるなら。
 悪くない、悪くないぞ。むしろあいつとの結婚は、今の俺にできる最良では?
 ぱあっと拓けた未来に胸が躍る。
 しかし、すべてが順風満帆というわけではなかった。
 ――イオニスが何もしてこない。
 別に変な意味はない。暖かくなってきたとはいえ、まだまだ夜は冷えるから、いい感じにぬくいイオニスで暖を取りたいだけだ。いやらしいことをしたいわけではない。
 ……俺にはないが、こんなおっぱいが目の前にあって我慢しろというのも酷だろう。どうしてもというなら、付き合ってやらないこともない。ソゥラ様公認の仲だし、敬虔な信徒として無碍にはできないからな。な!
 そう考え待っていた俺だったが、抱擁はおろか、手を繋ぐどころか指一本触れてこないとなれば不安にもなってくる。
 まさかとは思うが、式を挙げるまで一切手を出さないつもりか? え、本気? まだ具体的な話なんて何ひとつしていないのに? 仮に今日話し始めたところで、一体いつになる?
 別に婚前交渉は禁止されていない。婚約者と同意の上なら何も問題はないんだぞ?
 ……いっそのこと、こちらから誘ってみるか? でもなんて言えば? 一緒に寝よう? 抱いて? お前が欲しい? ……むーりいぃぃ!
 お気に入りの大きな枕に顔を突っ伏して悶える。やや落ち着いてからは枕を腕と太ももで締め上げていたが、
「……あの甲斐性なしめ」
 憮然とした気分でパンツに手をかける。触れたパンツはしっとりと濡れていて、俺はこんなに濡れやすかったかと少し恥ずかしくなりつつも脱ぎ捨てた。
「ん……イオニス……っ❤」
 胸と股間の突起を弄る。しばらくくにくにと捏ね回し、ついに――、
「あ、あぁ――……ッ❤ …………はふ……」
 達する。少し余韻に浸った後、うつ伏せに転がった。
「……うぅ」
 違う。やはりあの指でないと駄目だ。
「う……ん……❤」
 未練がましく乳首を寝床に擦り付けていたが、そろそろ朝食の準備を始めなくてはいけない。
 新たにパンツを取り出して穿くと、俺は台所へ向かった。

「……来ないな」
 朝食が大方出揃いレティとハンスを起こす頃合になっても、イオニスが現れない。最近は我が家で三食を摂らせ、いつもの今頃なら配膳を手伝ってくれているものなのだが。
「仕方ない奴だな」
 居場所の見当は付く。レティとハンスを起こした後、俺は家を出た。
「うん?」
 はたして、イオニスは礼拝堂の裏にいた。ただしひとりではなく、直視しがたい酒癖で有名なマッシェさんの息子カロも一緒だった。
 イオニスに握り方や姿勢を正されながら、小さなカロは木の棒を振っている。
「レジーナ殿、おはようございます」
 物珍しさが先立ち声もかけず眺めていれば、イオニスが俺に気付いた。
「おはようございます、イオニスさん。カロも、おはよう」
「あ、ジーナさん……おはよ」
 恥ずかしそうに目を泳がせるカロへ、イオニスが少し申し訳なさそうに提案する。
「すみません、今日はここまででよろしいですか?」
「あ、はい。よろしいですっ」
 カロが頷く。そしてイオニスを上目遣いで伺い、おずおずと問う。
「あの……明日も、来ていい?」
「もちろんです」
 イオニスの快い返事に、カロは表情をぱあっと明るくする。
「ありがと騎士様! ……じゃ、じゃあね、騎士様、ジーナさんも!」
 元気に駆け去っていく背中を見つめていれば、遠慮がちな声をかけられる。
「すみません、わざわざ呼びに来てくださったのですか」
「構いませんわ」
 あんなに嬉しそうなカロを見たのは久しぶりだし、足を運んだ甲斐はあったと思う。
「大人しい子ですから、意外でしたけれど。やっぱり男の子ですね」
 どちらから言い出したことなのかは知らないが、あの様子から察するにカロの希望であることは間違いないだろう。指導を押し売りするイオニスも想像しがたい。
 俺はイオニスを振り返り、気分よく見つめる。
「イオニスさんはいい父親になりそうですね」
「……そうでしょうか」
 そうでないと俺が困る。
 もっとどっしり構えてくれないものかと思わなくもないが、そこは俺が補えばいいか。その時の俺は、まだ気楽に考えていた。

 ――三月が経った。
 イオニスからは相変わらず何もない。
 普通なら今が一番楽しい時期では? 穏やかな関係が嫌なわけではないが、普通はもっとこう……あるだろう?
 俺は悩んだ末、カゴいっぱいの焼き菓子を手土産に、幼なじみの若奥様を訪ねた。
 照れくさくて実はまだできていなかった交際の報告も兼ねて、どうしたらもっと距離を縮められるか相談してみようと思って。
「いつもお高く留まってたくせに、結局あんたも顔のいい男が好きなのねえ」
 なのにベラ、どうしてお前がいる。
「顔じゃない。イオニスさんがすっごくいい人だから」
 ……レティもだ。恥ずかしいからこっそり出てきたはずなのに。
「その割に、釣った魚には餌やらないみたいだけど?」
「……真剣に話を聞く気がないなら、帰っていただけますか?」
「まったくです。あとチーズのばっかり食べないで。テオも好きなんだから」
 俺とリタの抗議に、ベラは木の実のクッキーを口へ放り込む。
「真剣って、ねえ? そんなのはさ、あんたの無駄にでかいソレで、騎士様の顔なり腕なりアレなりなんなり挟めば一発でしょ。なんのためにソレがあると思ってんの?」
「……子供に授乳するためではないでしょうか」
「ならとっとと足開いて種仕込んでもらってきな」
 この女、明け透けがすぎる……!
「何もったいぶってんだか。せっかく持ってる武器を使わないなんてもったいない。ねえレティ?」
「もふぉ?」
 タルトを頬張ったまま固まっていたレティが、ベラを見て瞬きする。
「この胸を見なよ。どれだけ寄せて上げても挟むなんて夢のまた夢。あんたが全部持っていっちゃったせいでしょ。使わないなら、なんで片方だけでも母親のお腹に残してやらなかったの」
 おい馬鹿やめろ。レティが自分の胸を見て何か考え始めてしまっただろうが。
「……挟めたら喜んでくれたかな」
「ちょっと、レティを虐めないでおばさん!」
「まだおばさんじゃない! あ、テオドール! あんたの嫁躾がなってない!」
「え、テオ!?」
 勢いよく振り返ったリタに遅れ、俺も背後を見る。そこには、よく見慣れた亜麻色の髪の幼なじみが立っていた。
「おかえりなさい。今日は早いのね!」
 大好きな旦那の帰宅に、リタが声を弾ませる。
「ただいま。大物が獲れたから早めに切り上げたんだ」
「そうなんだ。お疲れ様」
 リタはチーズのクッキーを一枚抓んで立ち上がると、テオに近付き自然な仕草でその口許へ差し出した。テオはテオで照れる様子もなくクッキーを食べる。
「美味いな」
「ジー姉さんがいっぱいくれたの」
「ありがとうございます。よかったら今日獲れた猪持って帰ってください」
「ありがとう。喜んでいただくわ」
 今夜は鍋にしよう。
「あたしの分もジーナに渡しといてー」
「はいはい」
「……うちで食べる気ですか」
「だってその方が美味しいでしょ」
 まあ鍋四人分も五人分も、手間はそこまで変わらないが……、
「何その顔……あ、やだ。もうちょっかいなんて出さないから。なんか思ってたのと違うし。めんどくさそうだし」
「なんて言い草……っ」 
 ――この時の俺は腹を立てたものだったが。
 少なくともこの時点では、俺よりベラの方がよほどイオニスという男の本質を見抜いていたのかもしれない。

 麗らかな昼下がり、俺は仕事部屋にいた。
 今日すべき調薬はあらかた済んだが、夕飯の支度を始めるにはまだ早いし……俺はおもむろにすりこ木を手に取り、胸の谷間に挿した。
「……」
 胸に手を添え、すりこ木を圧迫する。ぎゅぎゅっ。
「この、この」
 ぎゅっぎゅっぎゅ。
「ふふ……」
 リタの教えてくれたあれやこれは正攻法がすぎた。十七歳の美少女による、可愛いの力押し。
 曰く寒い時は抱きついて甘える。曰く毎朝毎晩好きと伝える。曰く出かける時にちゅってする。曰く帰ってきた時もちゅっとする。それができれば苦労はしないというものばかりだった。
 つまりベラの案の方が実現が容易い。まったく不本意だが、食わず嫌いならぬやらず嫌いもよくないからな。こうして暇を見つけては、こっそり練習に勤しんでみたりなんかして――、
「ふふふふふふ」
「何をしているんだい?」
「ッ!?」
 不意の呼びかけに勢いよく振り向けば、
「うわあ、びっくりした」
 なんとも白々しい口調と仕草で驚きを表す、見知らぬ娘さんが立っていた。
 肩で切り揃えられた艶々の黒髪と、清楚に纏められた服装が、いかにも良家の子女らしい。
 しかし中でも一番俺の目を惹いたのは、珍しい薄紫色の瞳だった。
 ――ジオさん、私……好きな人ができたの!
 そう俺へ打ち明けて、幸せそうに笑ったエイミと同じ色をしている。
「……どなたですか?」
 俺は服の胸元を引き合わせつつ、努めて冷静に訊ねた。
「ええージオってば、たった十八年くらいで僕のこと忘れちゃったのかい?」
 目の前の存在を凝視する。
「君を主の御許へ導いたのは他でもない僕だし、天使になってからもいろいろ付き合った僕だよ?」
「まさか……エミュ?」
 にんまりと笑って頷く顔は、信じがたくも俺の知るあいつそのものだった。
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