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第1章 交友部
誘われて(6/28)
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口元に手を当てクスクスと微笑む女生徒。
それから彼女は、徐に胸の谷間へ指を入れる。何かを探っているらしい。
ちょうど僕の目線の高さから、制服の中身が見えそうな体勢だ。思わず身を乗り出す。
しかし残念ながら、何かが見える前に彼女の体勢が変わった。
彼女は胸元から小さな紙切れを取り出し、真っ直ぐ僕に目を向ける。
垂れた髪を軽く掻き上げ、その紙切れを僕に手渡した。
「放課後、ここに来てね」
澄んだ可愛らしい声が耳奥に届く。
一言そう言い残し、女生徒はトイレを後にした。
パタッ、と扉が閉まる。
しばらく僕は動けなかった。
頭がぽーっとして、何も考えられない。
夢か……現か……確かに見たもの、感じたもののはずなのに、それを信じられないような感覚だ……
その時。
鳴り響くチャイムが、僕を起こす。
ぼんやりと熱を帯びた僕の感情は、徐々に冷たいタイルの空間に引き戻された。
「……あ……!やばっ!」
チャイムの余韻が遠くなる頃、ようやく僕は自分が置かれた状況に気が付く。
僕がトイレに来たのは、ガイダンスの合間の休み時間。今のチャイムは、その終わりを告げるもの。
つまりは、もう教室に戻っていないといけない時間だ。
「戻らなきゃ……!!」
忘れずに一物をしまい、まだ少しベタつく手を雑に水洗いする。
手を拭くのもそこそこにトイレを出ると、僕は駆け足で教室を目指した。
そんな僕を、静かに物陰から見る瞳。
その時はまだ、知りもしなかった。
「それじゃあ、次の時間を始めます!」
教室から聞こえる越出先生の声が、廊下を小走りで駆けてきた僕の耳にも届く。
カララッと出来るだけ音が小さくなるように、教室後ろの扉を開き中へ。
窓際の席だと、こんな時に不利になるものだ。
ギリギリの隙間から教室に入り込み、体勢を低くして席に向かう。
が、しかし。
「えーと、真奏くん?ガイダンスから遅刻なんて……驚きね」
ややトーンが低くなった、先生の声が脇腹に刺さる。
恐る恐る顔を向けると、腕を組んだ越出先生が、真っ直ぐこちらを見ている。
他の生徒たちも、一斉に僕を振り返った。
「あ!……ご……ごめんなさい……」
観念した僕は、立ち上がって一言小さく謝罪し、席についた。
「……新しい学校だし、迷ってしまったのかしら?……まあ、いいわ。次から気をつけなさい」
声の調子はそのままに、先生は僕に告げる。
おずおずと着席した僕をクラスの何名かはしばらく見たり、クスクス笑ったりしていたが、すぐに皆正面を向いて先生の話を聞き始める。
先生にもクラスメイトにも、変に注目された。
恥ずかしさで顔が熱くなる。
しかしそれでもなお、僕の関心は別のところにあった。
誰にも見られなくなってから、僕はそっと拳を開き、握っていた紙切れを見つめた。
それから彼女は、徐に胸の谷間へ指を入れる。何かを探っているらしい。
ちょうど僕の目線の高さから、制服の中身が見えそうな体勢だ。思わず身を乗り出す。
しかし残念ながら、何かが見える前に彼女の体勢が変わった。
彼女は胸元から小さな紙切れを取り出し、真っ直ぐ僕に目を向ける。
垂れた髪を軽く掻き上げ、その紙切れを僕に手渡した。
「放課後、ここに来てね」
澄んだ可愛らしい声が耳奥に届く。
一言そう言い残し、女生徒はトイレを後にした。
パタッ、と扉が閉まる。
しばらく僕は動けなかった。
頭がぽーっとして、何も考えられない。
夢か……現か……確かに見たもの、感じたもののはずなのに、それを信じられないような感覚だ……
その時。
鳴り響くチャイムが、僕を起こす。
ぼんやりと熱を帯びた僕の感情は、徐々に冷たいタイルの空間に引き戻された。
「……あ……!やばっ!」
チャイムの余韻が遠くなる頃、ようやく僕は自分が置かれた状況に気が付く。
僕がトイレに来たのは、ガイダンスの合間の休み時間。今のチャイムは、その終わりを告げるもの。
つまりは、もう教室に戻っていないといけない時間だ。
「戻らなきゃ……!!」
忘れずに一物をしまい、まだ少しベタつく手を雑に水洗いする。
手を拭くのもそこそこにトイレを出ると、僕は駆け足で教室を目指した。
そんな僕を、静かに物陰から見る瞳。
その時はまだ、知りもしなかった。
「それじゃあ、次の時間を始めます!」
教室から聞こえる越出先生の声が、廊下を小走りで駆けてきた僕の耳にも届く。
カララッと出来るだけ音が小さくなるように、教室後ろの扉を開き中へ。
窓際の席だと、こんな時に不利になるものだ。
ギリギリの隙間から教室に入り込み、体勢を低くして席に向かう。
が、しかし。
「えーと、真奏くん?ガイダンスから遅刻なんて……驚きね」
ややトーンが低くなった、先生の声が脇腹に刺さる。
恐る恐る顔を向けると、腕を組んだ越出先生が、真っ直ぐこちらを見ている。
他の生徒たちも、一斉に僕を振り返った。
「あ!……ご……ごめんなさい……」
観念した僕は、立ち上がって一言小さく謝罪し、席についた。
「……新しい学校だし、迷ってしまったのかしら?……まあ、いいわ。次から気をつけなさい」
声の調子はそのままに、先生は僕に告げる。
おずおずと着席した僕をクラスの何名かはしばらく見たり、クスクス笑ったりしていたが、すぐに皆正面を向いて先生の話を聞き始める。
先生にもクラスメイトにも、変に注目された。
恥ずかしさで顔が熱くなる。
しかしそれでもなお、僕の関心は別のところにあった。
誰にも見られなくなってから、僕はそっと拳を開き、握っていた紙切れを見つめた。
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