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第1章 中学~高校 焦った告白と焦らしすぎた告白

中学生(3) 地獄の始まり【後編】

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 入部してから二週間後、少しは防具をつけるのに慣れ始めて来た頃。胴着や防具、竹刀は注文してまだ届いていなかったので、学校指定のジャージの上に授業で使う貸出用の防具を身に着け、貸出用のカーボン製の竹刀を持ち、道場の端の方へ向かう。先輩2人くらいがもとに立ち、基本の面や胴といった打ちを打ち込んでいく。入部したのは男子12人、女子2人の計14人で、男子に一人経験者がいた。そいつは俺らと別メニューで、すでに上級生と一緒に練習をしているようだった。なので、もとに立っている先輩2人に6人ずつくらい並ぶため、運動経験があまりない自分でも練習は楽に感じた。これなら続けられると思った。

 しかし、入学してから一か月が過ぎた頃だっただろうか、ついに防具が届いた。初の自分のマイ防具等にみんな目を輝かせ、喜ぶ。そこへ大石先生がつかつかとやってきてこう告げる。

 「自分の防具が来たということで、お前らはもう一人前だ。だから、もう新入部員扱いはしない。今日から上級生と一緒の練習に参加してもらう。」

 ついに一人前となり、上級生と一緒の練習に参加できるようになって、少し緊張はあったが素直に喜んだ。戸田っちや隆二とも「楽しみだな」といった会話を軽くかわす。

 そして、地獄の幕開けである。

 最初は、今までやってきて大丈夫だったから大丈夫だろうと思った。ただ、その想定は甘かったのである。落とし穴というのだろうか、上級生との練習はジャージでやっていた頃といくつか違いがあったのだ。

 まず、回転率の違いだ。ジャージの時は二列で6人ずつであった。しかし、今は30人以上いるため、七列や八列で、一列4人や5人で回転率が違い、負担が増した。

 次に、休める時間の違いだ。ジャージの時は他の人がやっている間、自分は休憩できていた。しかし、今の練習では他の人がやっている間に応援しなければいけない。それが暗黙の了解的なルールであったのだ。なので、待ち時間には「ファイトーー!」と叫ばなければならず、声が出てないと先輩に「声出てねぇーぞー!」と怒られる始末である。この待ち時間にも気が抜けない状態というのが非常にしんどい。休みは全体での休憩しかなく、休憩できる時間が減った。

 次に先生の監視の違いだ。ジャージの時は先輩部員に指導が一存されていたのか、先生の介入はほとんどなかった。たまに、「どうだー」とか様子を見に来たり、新しい技の打ち方を教えに来てくれたりする時だけだった。しかし、今は椅子に座り、ずっとこちらの練習を凝視している。少しでも疲れて手を抜いて打ったのが目に留まった際には、「何手ぇ抜いてんだー!」などと怒声が飛んでくる。怒声で済めばいいのだが、怒りのレベルが高いときは今やっている練習が最初からになる。なので、手が抜けない。さらに言えば、顧問の大石先生以外にも関口先生という女の先生や内田先生というおじいさんの先生、大林先生という比較的若いコーチがいた。関口先生は英語の先生なのでおそらく新学期は課題チェックなどで忙しく、あまり見かけなかった気がするが、練習では大抵3人以上の先生の監視の目があった。そのため、一層手が抜けず、肉体的にも精神的にも負担が増した。

 次に、打ちの痛さの違いだ。ジャージの時はけっこう思いっきり打たれて痛かったが、耐えられるレベルだった。しかし、今の練習では上級生の打ちを受けることがある。上級生の打ちは振り上げもそうだが、振り下ろすスピードが違い、威力が違う。何が言いたいのかというと、打ちが痛いということだ。練習が終わって小手の部分をみると紫色の痣ができており、腫れで右手首と左手首の太さが違うほどであった。

 最後に練習メニューの違いだ。ジャージの時は基本打ちと切り返しと呼ばれる練習くらいであった。しかし、今はそれらに加え、相手が動いた瞬間を打ちにいく出技や相手が打ち損じた後を追っかけて打ちにいく打ちなど実践的な応用打ち練習や地稽古という相手にお願いして一対一の実戦形式で行う練習、かかり稽古というもとに立っている人に太鼓の合図でスタートし、次の終了の合図が鳴るまで、面や小手など空いている箇所をひたすら打つ練習などが新たに増えた。

 応用打ちでは基本打ちより運動量が増え、地稽古では基本的に目上の人にお願いをしにいかなければならず、一年生のときは先生や先輩にひたすら動かされる。さすがに力加減や体力の限界などを考えてくれてはいるが、待っているときに声が出ていなかったりして怒らせてしまったときは、たまに限界を超えて動かされる。かかり稽古でもほとんど同じで先生や先輩にひたすら動かされる。ただ、少し違うのは太鼓の合図の長さは先生が決めるため、誰かが先生を怒らせた場合、通常よりも一回あたりの時間が伸び、全員がとばっちりを喰らうことがある。そのため、サボらないように、手を抜かないように、声を出すように上級生も一年生である俺たちを監視しているのだ。

 そして、初めてのマイ防具・胴着をつけての練習が終わった。駅までの帰り道、みんな疲れ切っていたが、会話できないレベルではなかった。俺は隆二や戸田っち、尾久ちゃんと帰りながら、今日の出来事について語っていた。

 「……まじか」

 「マジだな……」

 「聞いてないよ??」

 「疲れたーー」

 こないだまでの練習はなんだったのだろうか。気持ち的にはイージーモードからハードモードに突き落とされたみたいであった。あんなに優しく褒めて教えてくれていた先輩に声出てない!とか急に注意されてショックだったし、先生も怒るとめっちゃ怖かったし。それに何よりも、小手の部分が青紫色に腫れ上がっていたのに驚いた。

 「これやばくね?」

 「マジ痛い」

 「俺の方が腫れてる!」

 「いや、俺の方が腫れてるよ!」

 みんな等しく小手の部分が腫れていた。戸田っちと隆二に関してはどっちが腫れているか競い合っている始末であった。ほんと男子ってしょうもないことで比べたがるよねー、まあ俺もこの後「いいや俺の方が腫れている」と言い出していたんだけれども。ちなみに、練習が終わってから新入部員唯一の経験者である小野にこの痣について聞いてみたところ、慣れるので大丈夫らしいとのことだった。
 なんやかんや他愛のない話をしているうちに、駅に着いた。戸田っちと尾久ちゃんは反対側のホームなので、ここでお別れした。そして隆二と二人になる。

 「まさかあんなにきついとはなー」

 「そうだなー」

 そこから、あんま互いに話さなかったのは疲れていたからかもしれない。ただ、ここではすぐに「やめようぜ」という話は出なかった。そういえば、なぜこいつは剣道部に見学しに来たのだろうか。こいつは一人で見学しに来ていて、俺みたく友達の連れで来たわけではない。つまり、もとから剣道に興味があったのだろうか。6年間一緒にいたけど、思い返してみれば一度も聞いたことがなかった。

 もし、この物語を読んでいるならお前に聞きたい。なあ隆二、お前はどうして剣道部に入ろうと思ったんだ?

【続く】
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