殺人鬼です。これから監禁した美少女をいたぶります。

草葉ノカゲ

文字の大きさ
上 下
8 / 10

日常《mimicry》

しおりを挟む
「ねね、あれ見た?」
「あれって、もしかして『あれ』のこと?」
「そそ、これ……!」

 喧騒に支配された朝の教室。机に置いたスマホ画面に映し出される動画を、向かい合わせで覗き込む少女たち。

「やばいよね……」
「……うん、やばい」
「でもさ、この子がうちの学校の誰かだったら、どうする?」
「あるわけないじゃん、制服もちがうし」
「制服はフェイク……なんだっけ、ブラフ? なんか偽物だろうって考察動画で言ってたよ」
 
 それを聞いて、もうひとりの少女は首を傾げ考え込む素振りをする。

「そうねー……。まあウチは、気付かないフリするかな」
「わかる。捕まってほしくないよね」
「なんならアリバイ作りとかぜんぜん協力するし」
「てかウチさあ。例の #pekekoハッシュタグ にあいつのこと書いてやろうかと思っちゃった」

 少女の一方が、言ってすこし表情を曇らせる。

「あー、例のストーカー?」
「警察は、事件になんないと何もしてくれないみたいだし」
「うーん、でも個人情報とか書いたらそれはそれで違法っしょ。殺しの依頼みたいなもんだし、やばいって」
「うん、まあね……」

 騒がしい周囲の中で、ぽつんと二人の周りにだけ灰色の沈黙が落ちた。

「おはよう、なに見てるの?」
「あっ、おはよう! ううん、なんでもないよ」

 そこに、たったいま登校してきた後ろの席の少女が愛らしい声で問いかけてくる。色白で黒髪を二つ結びにした、人形のように端正な顔立ちの美少女だ。色褪せかけた空気が、見る間に彩りを取り戻す。

「えー、ずるい。私も見たいなー」
「だめだめ、ハツミンはね、こういうの見たらけがれちゃうから!」
「そうそう……ってなんでウチにはグイグイ見せてくんの!?」

 ハツミンと呼ばれた少女はカバンから教科書を机に移しつつ、友人二人と一緒に屈託なく笑い合う。教科書の裏に丁寧な文字で書かれた【匂坂こうさか 羽摘はつみ】が、彼女の本名なのだろう。

「そう言えばハツミン、ヤケドは平気なの?」
「うーん、まだちょっと痛むみたい」
「そっかあ。ハツミンはドジっこなんだから、ほんと気を付けないとダメだよ」
「はーい!」

 教科書を移す手を止め、小さく挙手して返事をする羽摘に、残る二人は満足げにうんうんとうなずく。同い年でありながら、彼女のことが可愛くてしかたないのだ。

「てかあれじゃん、例のリセマラ! やりながら料理してたからお湯に指とか突っ込んだんでしょ?」
「ううん、あれはもう終わってたよ!」
「あ、出たんだ?」
「うん、でも思ったほどじゃなかったから、もう消しちゃった」
「わかるー。出た瞬間がMAXなんだよねー」
「ほんとそう。あんなにがんばったのに」

 うなずきながら羽摘は、机の上に置いたスマホを睨んでみせる。その切れ長の目は、愛らしい雰囲気に反して凛々しくも映り、そこもまた友人たちの萌えポイントだった。

「あ、そうだ! ミキのストーカーの話、ハツミンに聞いてもらいなよ」
「あー、うん」
「ハツミンのパパ、日本の警察でいちばん偉い人だもんね」
「えっ、いちばんじゃないよ! 五番目くらいって言ってた」
「それでもいいなー。お姉ちゃんは海外留学してるんだよね?」
「……うーん、でもうちの本棚にあるの犯罪心理学ハンザイシンリガクとかそんなばっかなんだよ?」

 芝居がかった仕草で首を振り、天を仰いで見せた。それから、思った以上に深刻そうな表情の友人の方へ、相応に真剣な顔で向き直る。

「役に立てるかは、わかんないけど」
「……話、聞いてくれる?」
「ミキちゃんが困ってるなら、当たり前だよ」

 天使のように微笑みかけながら、ようやく最後の教科書を移し終えた彼女はつみの白い左手。

 ──その親指は根元まで、肌よりなお白い包帯で覆い隠されていた。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

女子切腹同好会

しんいち
ホラー
どこにでもいるような平凡な女の子である新瀬有香は、学校説明会で出会った超絶美人生徒会長に憧れて私立の女子高に入学した。そこで彼女を待っていたのは、オゾマシイ運命。彼女も決して正常とは言えない思考に染まってゆき、流されていってしまう…。 はたして、彼女の行き着く先は・・・。 この話は、切腹場面等、流血を含む残酷シーンがあります。御注意ください。 また・・・。登場人物は、だれもかれも皆、イカレテいます。イカレタ者どものイカレタ話です。決して、マネしてはいけません。 マネしてはいけないのですが……。案外、あなたの近くにも、似たような話があるのかも。 世の中には、知らなくて良いコト…知ってはいけないコト…が、存在するのですよ。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

意味がわかると怖い話

邪神 白猫
ホラー
【意味がわかると怖い話】解説付き 基本的には読めば誰でも分かるお話になっていますが、たまに激ムズが混ざっています。 ※完結としますが、追加次第随時更新※ YouTubeにて、朗読始めました(*'ω'*) お休み前や何かの作業のお供に、耳から読書はいかがですか?📕 https://youtube.com/@yuachanRio

二人称・短編ホラー小説集 『あなた』

シルヴァ・レイシオン
ホラー
普通の小説に読み飽きたそこの『あなた』 そんな『あなた』にオススメします、二人称と言う「没入感」+ホラーの旋律にて、是非、戦慄してみて下さい・・・・・・ ※このシリーズ、短編ホラー・二人称小説『あなた』は、色んな"視点"のホラーを書きます。  様々な「死」「痛み」「苦しみ」「悲しみ」「因果」などを描きますので本当に苦手な方、なんらかのトラウマ、偏見などがある人はご遠慮下さい。  小説としては珍しい「二人称」視点をベースにしていきますので、例えば洗脳されやすいような方もご観覧注意、願います。

えっ!?屋敷の悪霊たちを鎮めていた私を解雇するんですか!?

永久保セツナ
ホラー
ドゥリドゥ家の屋敷でメイドをしているリザは突然、女主人のアン・ドゥリドゥから解雇を言い渡された。 でも、いいんですか……? 屋敷の悪霊たちを鎮めていたの、私なんですが……。

【1分読書】意味が分かると怖いおとぎばなし

響ぴあの
ホラー
【1分読書】 意味が分かるとこわいおとぎ話。 意外な事実や知らなかった裏話。 浦島太郎は神になった。桃太郎の闇。本当に怖いかちかち山。かぐや姫は宇宙人。白雪姫の王子の誤算。舌切りすずめは三角関係の話。早く人間になりたい人魚姫。本当は怖い眠り姫、シンデレラ、さるかに合戦、はなさかじいさん、犬の呪いなどなど面白い雑学と創作短編をお楽しみください。 どこから読んでも大丈夫です。1話完結ショートショート。

処理中です...