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第一章

第十一話 客層

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 星宇さんも接客に立ってくれるようになって数日。とんでもないことが起こっていた。
 元々大きくない店内だ。接客の手は足りてるけど、それでも美月が手伝いに来てくれている。
 その理由は店の前にできた大行列の待機列整理だ。けど今日は新作発売日じゃないし立珂様が来ているわけでもない。
 目的は――

「無くならないわね、星宇列」
「うん……」

 うちに男性店員がいるというのは俄かに広がりはじめ、気が付けばこれだ。
 星宇さんが美形だというのが凄い勢いで知れ渡り、比例して女性客が爆増していた。開店前から列になっていて、閉店間際まで入店希望がある。一度店内に入れば長々と居座り星宇さんとお喋りをして帰るだけ。
 買ってくれるならまだしも買わない客が大半だ。それもそうだろう。急に増えた女性客はほぼ有翼人じゃない。有翼人専用服なんて必要無い人ばかりだ。
 さすがにこれには耐え切れず、私はがんっと作業台を叩いた。

「みんな星宇さん見て帰っちゃうんですけど!」
「だろうな」

 星宇さんは帳簿を付けながらしれっと答えた。
 自分が格好良いこと分かってるのよね星宇さんて……
 別に謝って欲しいわけではないから良いのだけど、こうも平然とされるとそれはそれで複雑な心境になる。
 でも星宇さんはいつも通りで、それどころかにやりと笑った。

「まあ良い傾向だ」
「どこがですか。買ってくれなきゃ広告役にもならないですよ」
「その一歩ができてるんだよ。客層が変わったのは分かってるか?」
「星宇さん目当ての若い女性が増えた」
「それは買わない客だろ。そうじゃなくて買う客だ」
「買う客?」
「店ってのは扱う商品に傾向がある。例えば天一は高級商品のみ、蒼玉は仕事着。あんたのは有翼人専用という分類だが、その中でも女性特化。ではどういう女性だと思う?」

 どういう女性? 私の作ってる商品に共感してくれるのは同じくらいの歳の人よね。

「私と同じくらいの年齢の女性ですよね」
「違う。年齢問わず『家事をする人』だ」
「……そっか。そうだ。家事をする人のために作ってるんだ私」
「そうだ。そう考えた場合喜ばしいのは最近増えた新たな客層だ。気付いてるか?」
「客層、ですか? 星宇さん目当ての人が多すぎてちょっと……」
「男性客だよ。この羽結い紐が男性客を集めてる。これは購入者の八割が男性だ」
「え。記録してるんですか?」
「分析は数字に基づいて行わなければ意味がない。何故男性だと思う?」
「何故って……え~……」
「消耗が激しいからだ。調理や洗濯では消耗しないが、腕と肩を使う力仕事は消耗する。すり減るんだ」
「あ、そっか。てことは何度も買う人がいるんですね」
「そうだ。これは種類を増やしても良いだろう。長期間もつなら多少高くても総合的な維持費を見た時に得だと考える。他にも日用品を増やすといいかもな」
「いいですね! 種類が増えればお客さんも増える! 作ってみます、男性用で丈夫な羽結い紐!」

 星宇さんの提案通り、私は羽結い紐を増やした。
 生地もだけど、大きさよね。体格の良い男性は羽が大きい人も多い。
 羽の大きさと体格の関係性については私もよく分からない。ただ男性は大きいような印象があり、観察してみるとやはり今の羽結い紐じゃ物足りない人が多そうだった。
 それに可愛い生地じゃ手に取り難そう。無地じゃつまらないと思ってたけど、男性はそういう方が良いのかもしれない。いかにも仕事用と分かるくらいいかつくても良いのかな。
 これには星宇さんからも意見を貰って作ったけれど、これは成功だった。

「おお。革か。いいな」
「力仕事でもしばらくはもちますよ。必ず布の部分を羽の下に通してください。でないと背に革がこすれるので」
「なるほど。これはいい」
「その服はこの店のか? 女性物だけかと思ってたが」
「最近取り扱いを始めました。構造は同じですよ」

 これも新たに始めた商品だ。女性物しかなかったけど、星宇さんが欲しいと思う服を商品にしてみた。
 今回は試験運用。まずは星宇さん寸法で作って、合わない人にはその場でお直し。これが良ければもっと男性物についても勉強して増やしていく。

「いいじゃん! 俺肌着だけ持ってるけどすげー楽なんだ! それいくら!?」
「一着銅二。羽根なら五枚と交換です」
「羽根? 羽根交換て、立珂様と同じ?」
「ええ。実は当店は天一の響玄様が支援して下さっているので立珂様の販売方針を取り入れさせて頂いています」
「立珂様!?」

 立珂様の名前を出す。これは、この前星宇さんがやろうと言い出した新たな試みだ。

「立珂様と縁があるのはさりげなく出していこう」
「え、それはちょっと……なんか、いやらしくないですか……」
「というか隠すのが無理だ。美星お嬢さんが出入りしたことでもう知られてる。何で隠してるんだって噂になってる」
「あ、そ、そうでしたっけ」
「あまり隠すとそれこそ売名に取られかねない。響玄殿の支援で立珂様を参考にしてる、程度は出していこう」

 そんなこと考えたことなかった。でもどれも事実だし、響玄様にもそれくらい言うのは構わないと許可を頂いた。
 響玄様の支援なら立珂様に繋がるのは当然。これならわざとらしくない。
 そうして男性客は次第に増え、女性客が星宇さんに見飽きたころには店内の客も男女半々になっていった。

「凄い! 本当に売れてる!」
「品の質は良いんだ。一度知ってもらえばこっちのもんさ。この調子で今の客層はしっかり掴んでおきたいな」
「あ、客層といえば相談があるんです」
「何だ?」
「このところ子供服の完売が増えてるんです。男性のお客様にお父さんが多いみたいで、子供服にも手を伸ばしてくれてるんですよ。成人用を子供寸法にお直しの要望も多いですし」
「ああ、なるほど」
「せっかくだし子供服も増やしてみようと思うんですけど、よければ妹さんに協力してもらいたいんです。どういう服が好きか、どうしたら便利か。きっと子供ならではの経験談があるはずです!」
「そうだな。それはいいかもしれない」
「もしよければ今度連れて来て下さい。実際に声を聞いてみたいから」
「ああ。妹も喜ぶ。なら明日連れてこよう」
「はい! よろしくお願いします!」
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