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episode6-1
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「とはいえ、こっから先は機体見ないと分からんから今日は終わり。ここに持って来い」
「どうやってですか? 壊れたアンドロイドなんて持って歩くの無理です」
「宅配便に決まってんだろ。メール室でアンドロイド宅急便BOX自宅に送ってくれるよう頼んどけ」
「あそっか。はーい」
メール室というのは全社員の宅配便や郵便の授受と配達、備品の手配まで全てやってくれる部署だ。
地味だが重量のある資材運搬が多い開発部にとって無くてはならない有難い存在だ。
彼らは開発をするわけではないが、アンドロイド一般取扱資格を持っているから開発部を率いる漆原専属のチームまである。なのでメール室に一言言えばアンドロイド配送の手配をしてくれるのだ。
美咲はメール室へ向かい窓口を覗き込み、すみません、と声をかけると即座に女性社員がやってきた。
「アンドロイド専用の宅急便BOX欲しいんですけど」
「はーい。アンドロイド用は稟議承認必要なんで、ここに部署と名前と送り先登録して下さい。承認されたら用意しますんで」
アンドロイドの持ち出しと持ち込みはいくつか規則がある。
基本的には持ち出し厳禁。美作社員が手掛けたアンドロイドなんて美作の重要な情報本体と言ってもいい。開発したら何かしらの形でリリースされるか廃棄かだ。
持ち込みは目的に応じて許可される。これは各部署の上長が承認するが、美咲場合は漆原だ。この許可を得るために稟議を取得する。
メール室社員から渡されたタブレット端末に登録すると、女性社員はあれ、と不思議そうな顔をして首を傾げた。
「不備ありました?」
「いえ、第一なのに何でわざわざ来たのかなって」
「第一は何かあるんですか?」
「だってうち販売管理部――漆原さんの部署だから最終承認は漆原さんだよ。BOX使う人の上長と漆原さんの承認が必要だから稟議になってるだけで、第一は結局漆原さんとこ戻るよ」
「へ?」
漆原朔也の逸話の一つに、入社一年で三部署のマネージャーとなったというがある。
一つは開発で、あと二つはセキュリティ管理部と販売管理部だ。
これの後者二つは不人気部署のツートップで、厄介事を押し付けられて可哀そうにという声があったらしい。
だがこれは押し付けられたのではなく、漆原が立候補してやり始めたのだという。
なんでも、手付かずで放置された部署というのは改善の余地ありという事でもあり実績を立てやすいかららしく、部署を自らの実績に利用するような言動は少なからず反感を買ったらしい。
けれどそれも今では笑い話となった。それくらい漆原の手掛ける部署は必要とされる部署に成長していく。
このメール室もその一つで、地味だと言われていたのに今や無くてはならない部署へと成長した。
それはともかくだ。
「何でわざわざ行かせたんだあの人は……!」
女性社員はくすくすと笑ったが、タブレットを見ると、ああ、と急に笑顔になった。
「そっか。久世さんてあの久世さんか」
「『あの』って何ですか……まさか初日の悪評が広まって……?」
「違う違う。漆原さんのとこで女の子が三日以上続くの初めてだから皆びっくりしてるんだよ。凄い快挙だよ!」
「へ?」
てっきり漆原に悪態を叫んだことが広まっているのかと思っていた。
何しろ世界的にも評価の高い有望な社員相手に啖呵を切ったなんて、インターンをクビになってもおかしくない。
それも恩情を貰えたのだろうと思っていたが、どうせその悪評が社内には知れ渡っているに違いない――そう思っていただけに褒められるとは思ってもいなかった。
「まあ、でも私は辞めるほどの仕事してないですし……」
「それが凄いんだって。漆原さんはインターンのために業務調整なんてしないよ。特別扱いだよ」
「え、いや、それはないと……思いますけど……」
「そうかなあ。わざわざ足を運ばせたのって会社の内部を知って成長しろってことじゃない? BOX手配なんて漆原さんがチャットくれれば終わるのに」
「それは、たぶん嫌がらせですよ」
「そんな面倒な嫌がらせしないわよ。やるなら直接的にやるわ」
「それもどうなんだか……」
だが確かにそうだ。これはそもそも美咲個人の問題であって、本来なら無視しても良い話だ。
仮に美作内部の問題であったとしても、A-RGRYは回収がかかっている。
ならば所有権は当然メーカーに戻り、その後は美作のセキュリティ関係の社員がやる。
漆原が美咲にやらせる必要はないのだ。
(特別……)
急にそんなことを言われ、心臓がどきどきと跳ね始めた。
漆原はメディアで見るのとはイメージが全く違ったし、仕事も華やかどころか力仕事ばかりで綺麗な服を着ることもできない。
けれどそれと引き換えに、何かしら評価を得られているのかも知れないと思うと悪くはない気がした。
「じゃあ漆原さんの期待に応えるためにも、ちょーっと教えてあげちゃおっかな」
「は、はい!」
「これ何で漆原さんの承認必要だと思う? BOXなんてこっちで勝手に送っちゃえばよくない?」
「あー……そういやそうですよね……」
「実はね、これは色々決まりがあるの」
女性社員はラミネートされたA4の紙を取り出すと、そこには宅配便に関する様々な情報が書いてあった。
通常の宅配便やパソコン専用BOX、そしてアンドロイド専用BOXについてだ。
アンドロイド専用BOXは多種多様だ。素材や大きさ形など、どんなアンドロイドにも対応できるようバリエーション豊富に用意されている。
「どれを使うかはある資格所持者が決めないといけないって配送業者の規則にあるんだ。知ってる?」
「あ、アンドロイド管理資格三級」
「そう。正解」
一般的に、パソコン専用BOXは破損や紛失に対してある程度の補償がある。
だがアンドロイド開発素人の宅配業者では取り扱い方法が分からない事が多い。何をしたら駄目なのか、そんな細かい事までは分からないのだ。そのうえあまりにも高額商品のため宅配業者は責任を持ちたくない。
そのため、どのBOXを使うかはお客さん側で専門家のオッケー貰ってくれ、こちらでは責任を持たないから、という事になっている。
「メール室はみんな三級持ってるけど派遣社員なの。でも配送業者は正社員じゃないと駄目って規則になってるんだ。だから社員の承認が必要。だから上長の漆原さんが承認するってわけね」
「ほー……」
「けど漆原さん忙しいから承認いっつも後回しなの。ちょっと突いといて」
「分かりました。有難うございます、色々教えてくれて」
「どういたしまして。漆原さん落とせたら教えてね♪」
「そ、そんなことしにインターンしてません」
「またまたぁ」
「じゃ、じゃあよろしくお願いします!」
美咲は顔が熱くなるのを感じて、ばたばたとその場を走り去った。
「どうやってですか? 壊れたアンドロイドなんて持って歩くの無理です」
「宅配便に決まってんだろ。メール室でアンドロイド宅急便BOX自宅に送ってくれるよう頼んどけ」
「あそっか。はーい」
メール室というのは全社員の宅配便や郵便の授受と配達、備品の手配まで全てやってくれる部署だ。
地味だが重量のある資材運搬が多い開発部にとって無くてはならない有難い存在だ。
彼らは開発をするわけではないが、アンドロイド一般取扱資格を持っているから開発部を率いる漆原専属のチームまである。なのでメール室に一言言えばアンドロイド配送の手配をしてくれるのだ。
美咲はメール室へ向かい窓口を覗き込み、すみません、と声をかけると即座に女性社員がやってきた。
「アンドロイド専用の宅急便BOX欲しいんですけど」
「はーい。アンドロイド用は稟議承認必要なんで、ここに部署と名前と送り先登録して下さい。承認されたら用意しますんで」
アンドロイドの持ち出しと持ち込みはいくつか規則がある。
基本的には持ち出し厳禁。美作社員が手掛けたアンドロイドなんて美作の重要な情報本体と言ってもいい。開発したら何かしらの形でリリースされるか廃棄かだ。
持ち込みは目的に応じて許可される。これは各部署の上長が承認するが、美咲場合は漆原だ。この許可を得るために稟議を取得する。
メール室社員から渡されたタブレット端末に登録すると、女性社員はあれ、と不思議そうな顔をして首を傾げた。
「不備ありました?」
「いえ、第一なのに何でわざわざ来たのかなって」
「第一は何かあるんですか?」
「だってうち販売管理部――漆原さんの部署だから最終承認は漆原さんだよ。BOX使う人の上長と漆原さんの承認が必要だから稟議になってるだけで、第一は結局漆原さんとこ戻るよ」
「へ?」
漆原朔也の逸話の一つに、入社一年で三部署のマネージャーとなったというがある。
一つは開発で、あと二つはセキュリティ管理部と販売管理部だ。
これの後者二つは不人気部署のツートップで、厄介事を押し付けられて可哀そうにという声があったらしい。
だがこれは押し付けられたのではなく、漆原が立候補してやり始めたのだという。
なんでも、手付かずで放置された部署というのは改善の余地ありという事でもあり実績を立てやすいかららしく、部署を自らの実績に利用するような言動は少なからず反感を買ったらしい。
けれどそれも今では笑い話となった。それくらい漆原の手掛ける部署は必要とされる部署に成長していく。
このメール室もその一つで、地味だと言われていたのに今や無くてはならない部署へと成長した。
それはともかくだ。
「何でわざわざ行かせたんだあの人は……!」
女性社員はくすくすと笑ったが、タブレットを見ると、ああ、と急に笑顔になった。
「そっか。久世さんてあの久世さんか」
「『あの』って何ですか……まさか初日の悪評が広まって……?」
「違う違う。漆原さんのとこで女の子が三日以上続くの初めてだから皆びっくりしてるんだよ。凄い快挙だよ!」
「へ?」
てっきり漆原に悪態を叫んだことが広まっているのかと思っていた。
何しろ世界的にも評価の高い有望な社員相手に啖呵を切ったなんて、インターンをクビになってもおかしくない。
それも恩情を貰えたのだろうと思っていたが、どうせその悪評が社内には知れ渡っているに違いない――そう思っていただけに褒められるとは思ってもいなかった。
「まあ、でも私は辞めるほどの仕事してないですし……」
「それが凄いんだって。漆原さんはインターンのために業務調整なんてしないよ。特別扱いだよ」
「え、いや、それはないと……思いますけど……」
「そうかなあ。わざわざ足を運ばせたのって会社の内部を知って成長しろってことじゃない? BOX手配なんて漆原さんがチャットくれれば終わるのに」
「それは、たぶん嫌がらせですよ」
「そんな面倒な嫌がらせしないわよ。やるなら直接的にやるわ」
「それもどうなんだか……」
だが確かにそうだ。これはそもそも美咲個人の問題であって、本来なら無視しても良い話だ。
仮に美作内部の問題であったとしても、A-RGRYは回収がかかっている。
ならば所有権は当然メーカーに戻り、その後は美作のセキュリティ関係の社員がやる。
漆原が美咲にやらせる必要はないのだ。
(特別……)
急にそんなことを言われ、心臓がどきどきと跳ね始めた。
漆原はメディアで見るのとはイメージが全く違ったし、仕事も華やかどころか力仕事ばかりで綺麗な服を着ることもできない。
けれどそれと引き換えに、何かしら評価を得られているのかも知れないと思うと悪くはない気がした。
「じゃあ漆原さんの期待に応えるためにも、ちょーっと教えてあげちゃおっかな」
「は、はい!」
「これ何で漆原さんの承認必要だと思う? BOXなんてこっちで勝手に送っちゃえばよくない?」
「あー……そういやそうですよね……」
「実はね、これは色々決まりがあるの」
女性社員はラミネートされたA4の紙を取り出すと、そこには宅配便に関する様々な情報が書いてあった。
通常の宅配便やパソコン専用BOX、そしてアンドロイド専用BOXについてだ。
アンドロイド専用BOXは多種多様だ。素材や大きさ形など、どんなアンドロイドにも対応できるようバリエーション豊富に用意されている。
「どれを使うかはある資格所持者が決めないといけないって配送業者の規則にあるんだ。知ってる?」
「あ、アンドロイド管理資格三級」
「そう。正解」
一般的に、パソコン専用BOXは破損や紛失に対してある程度の補償がある。
だがアンドロイド開発素人の宅配業者では取り扱い方法が分からない事が多い。何をしたら駄目なのか、そんな細かい事までは分からないのだ。そのうえあまりにも高額商品のため宅配業者は責任を持ちたくない。
そのため、どのBOXを使うかはお客さん側で専門家のオッケー貰ってくれ、こちらでは責任を持たないから、という事になっている。
「メール室はみんな三級持ってるけど派遣社員なの。でも配送業者は正社員じゃないと駄目って規則になってるんだ。だから社員の承認が必要。だから上長の漆原さんが承認するってわけね」
「ほー……」
「けど漆原さん忙しいから承認いっつも後回しなの。ちょっと突いといて」
「分かりました。有難うございます、色々教えてくれて」
「どういたしまして。漆原さん落とせたら教えてね♪」
「そ、そんなことしにインターンしてません」
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「じゃ、じゃあよろしくお願いします!」
美咲は顔が熱くなるのを感じて、ばたばたとその場を走り去った。
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