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episode3-2
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ゴミ捨て場は外から入れてしまう造りのため不安があり、入居者からオートロックにする事を求められている。
主張はごもっともだが、それを作る費用があるかは別の話だ。
父も祖父もそこまでする必要はないと言い、苦情の矢面に立たされる母は困り果てていた。
「ほんっとありえないゴミが捨てられてるのよお」
「はあ……」
美咲が来てからはここぞとばかりに訴えられているのだが、いつも大したことではない。
ゴミ袋が少し破けてるだの閉め方が緩くてにおいが漏れてるだの、そんな程度のことばかりなのだ。
(そんなに気になるなら自分でやりなさいよゴミ番長)
美咲は心の中で毒づいたが、女性の指差す先を見て今回ばかりは息を呑んだ。
「……アンドロイド?」
それは華やかで整った顔立ちの男性型アンドロイドだった。
手足のアタッチメントは細くしなやかで、髪は黒めのブルーグリーンというデフォルトでは見ないカラーだった。
服はボロボロなのに見惚れてしまうほど美しいビジュアルで、美咲は思わず膝をついて顔を覗き込んだ。
「綺麗……」
美咲はほうっと息を吐いて見つめた。
けれど女性は全く興味無いようで、呆れたようなため息を吐いた。
「こんなの捨ててくなんて非常識よねえ。アンドロイドって廃棄手続き必要じゃない」
「ああ、そうですね。でも持ち主がやらないと」
「じゃあ持ち主探して廃棄してもらって下さい。よろしくね」
「え!?」
何だかもっともな返しをされてしまい、美咲が黙ってしまったその隙に女性はサァッと去って行った。
あまりにも見事な立ち去り方でいっそ尊敬する。
けれど今回ばかりは嫌ではない。押し付けてくれたことに感謝したくなるほど捨てられたアンドロイドは美しかった。
美咲は再びアンドロイドを見つめ、全身を見回す。
「ひどい。破損欠損のオンパレードじゃない」
外見で分かる限りでもひびだらけで、両腕の肘から先に関していえばまるっと無くなっている。
とても正常に稼働する事はできないだろう。
「エンタメ用かな。ちょっと顔立ち古いけど」
アンドロイドは用途によって造りが違う。
外見が整ったアンドロイドを日常生活で見る事はあまりなく、主にエンターテインメント領域で活躍している。
一般でも需要はあるのだが、見た目重視のパーツを用いると眼球の稼働領域が狭かったり、細いアタッチメントでは重い物を持つ事ができないといった実働面のデメリットがある。そのため家庭用として出回る事はあまり無い。
流通しない理由はその金額にもある。
動物型ロボットは一機十万円前後が相場で、アンドロイドは何に特化しているかで上下するが百万円以上五百万円以下というところだ。
しかしオーダーメイドやカスタマイズ機能が豊富な見目麗しいアンドロイドは一機数千万円を超える。
エンターテインメント用であればそれも付加価値となり芸能人としての価値も高くなるが、一般家庭では到底無理な金額だ。
加えて、市販のアンドロイドは購入情報に紐づく個人情報を保有していることが多い。
一般人が出入りする場所に放置するのは個人情報漏洩から犯罪にも繋がる。
そのため廃棄は専門ショップや販売元、製造元が実施する事が義務付けられている。こんな風に放置して良い物では無いのだ。
恐らく何か手続きが必要だろうとは推測できるが、これほど美しいアンドロイドを見るのは初めてだった。
その美しさは仕事のストレスで疲弊した心に光を与え、枯れきった神経は好奇心で潤い始めてしまった。
「調べてから廃棄でもいいわよね」
美咲はにやりと笑みを浮かべると、写真を撮ってから一先ずスタッフルームに押し込んだ。
会社にはアンドロイドに関する資料が多く揃っている。
そして悲しいかな、できる業務がほぼ無い美咲は自由研究という名目の時間が多い。
その時間に調べれば、それもまた研究と言い張れる。美咲は意気揚々と出勤の準備を始めた。
主張はごもっともだが、それを作る費用があるかは別の話だ。
父も祖父もそこまでする必要はないと言い、苦情の矢面に立たされる母は困り果てていた。
「ほんっとありえないゴミが捨てられてるのよお」
「はあ……」
美咲が来てからはここぞとばかりに訴えられているのだが、いつも大したことではない。
ゴミ袋が少し破けてるだの閉め方が緩くてにおいが漏れてるだの、そんな程度のことばかりなのだ。
(そんなに気になるなら自分でやりなさいよゴミ番長)
美咲は心の中で毒づいたが、女性の指差す先を見て今回ばかりは息を呑んだ。
「……アンドロイド?」
それは華やかで整った顔立ちの男性型アンドロイドだった。
手足のアタッチメントは細くしなやかで、髪は黒めのブルーグリーンというデフォルトでは見ないカラーだった。
服はボロボロなのに見惚れてしまうほど美しいビジュアルで、美咲は思わず膝をついて顔を覗き込んだ。
「綺麗……」
美咲はほうっと息を吐いて見つめた。
けれど女性は全く興味無いようで、呆れたようなため息を吐いた。
「こんなの捨ててくなんて非常識よねえ。アンドロイドって廃棄手続き必要じゃない」
「ああ、そうですね。でも持ち主がやらないと」
「じゃあ持ち主探して廃棄してもらって下さい。よろしくね」
「え!?」
何だかもっともな返しをされてしまい、美咲が黙ってしまったその隙に女性はサァッと去って行った。
あまりにも見事な立ち去り方でいっそ尊敬する。
けれど今回ばかりは嫌ではない。押し付けてくれたことに感謝したくなるほど捨てられたアンドロイドは美しかった。
美咲は再びアンドロイドを見つめ、全身を見回す。
「ひどい。破損欠損のオンパレードじゃない」
外見で分かる限りでもひびだらけで、両腕の肘から先に関していえばまるっと無くなっている。
とても正常に稼働する事はできないだろう。
「エンタメ用かな。ちょっと顔立ち古いけど」
アンドロイドは用途によって造りが違う。
外見が整ったアンドロイドを日常生活で見る事はあまりなく、主にエンターテインメント領域で活躍している。
一般でも需要はあるのだが、見た目重視のパーツを用いると眼球の稼働領域が狭かったり、細いアタッチメントでは重い物を持つ事ができないといった実働面のデメリットがある。そのため家庭用として出回る事はあまり無い。
流通しない理由はその金額にもある。
動物型ロボットは一機十万円前後が相場で、アンドロイドは何に特化しているかで上下するが百万円以上五百万円以下というところだ。
しかしオーダーメイドやカスタマイズ機能が豊富な見目麗しいアンドロイドは一機数千万円を超える。
エンターテインメント用であればそれも付加価値となり芸能人としての価値も高くなるが、一般家庭では到底無理な金額だ。
加えて、市販のアンドロイドは購入情報に紐づく個人情報を保有していることが多い。
一般人が出入りする場所に放置するのは個人情報漏洩から犯罪にも繋がる。
そのため廃棄は専門ショップや販売元、製造元が実施する事が義務付けられている。こんな風に放置して良い物では無いのだ。
恐らく何か手続きが必要だろうとは推測できるが、これほど美しいアンドロイドを見るのは初めてだった。
その美しさは仕事のストレスで疲弊した心に光を与え、枯れきった神経は好奇心で潤い始めてしまった。
「調べてから廃棄でもいいわよね」
美咲はにやりと笑みを浮かべると、写真を撮ってから一先ずスタッフルームに押し込んだ。
会社にはアンドロイドに関する資料が多く揃っている。
そして悲しいかな、できる業務がほぼ無い美咲は自由研究という名目の時間が多い。
その時間に調べれば、それもまた研究と言い張れる。美咲は意気揚々と出勤の準備を始めた。
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