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短編章 余暇
仲良しはお揃い! 護栄と浩然の休日【前編】
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蛍宮は東西南北、そして中央の五区画に分かれる。
各区にはいくつも商店街があり、薄珂と立珂はおやつを買いに南区の朝市広場へやって来ていた。
「おいしー!」
「あの屋台の水飴美味しいよな。味がなめらかっていうか」
「つるんてしてる! いちばんおいしい!」
薄珂と立珂が買ったのは立珂の大好きな水飴だ。
水飴を出す屋台はいくつもあるが、立珂はそのうちの一つを特に気に入っている。蛍宮では貴重な氷を台に赤青黄と色とりどりの水飴が宝石のように輝いていて、味もだが美しさに立珂は惹かれたようだった。
(良い店なんだろうな。値段も他の三倍はするし氷を台なんて使い捨てにできるのは富裕層だ。南区は大体そうだけど)
南区は富裕層の別宅や別荘が集中しているようで、流通している商品の価格自体が非常に高い。
立珂の羽根の買取価格と比べれば鼻で笑える額なので手が出ないなんてことはないが、普通の子供であればまず手が出ない。
そんな金銭事情は知らないだろうが、立珂は大好きな水飴をあむあむと頬張っている。
「あ、立珂髪の毛触っちゃ駄目だ。べたべただからな」
「んにゃっ! べたべた!」
立珂は指がべたべたするのも楽しいのか、ぺたぺたと指をくっつけあってくふくふと笑った。
髪を触らないよう立珂と手を繋ぐと、進む先からきゃあきゃあと女性がはしゃぐような声が聞こえてきた。方々から女性が走って来て女性の輪はどんどん広がっていく。
「凄い騒ぎだな。何してるんだろう」
「女の人ばっかりだね。あ! お洒落のお祭りかな!?」
「服の屋台とかか? 見に行ってみるか」
「見る見るぅ!」
女性の波を立珂に歩かせるのは不安で、薄珂はいつものように立珂を抱き上げた。
周りにべたべたな手で触らないよう薄珂の服をしっかり握らせ輪の中を覗いてみたが、女性陣が騒いでいる対象を見て薄珂と立珂は目を丸くした。
「あれ?」
「う?」
薄珂と立珂は顔を見合わせると、女性の視線を一身に浴びながら騒ぎの主に声をかけに行った。
話題の中心にいたのは薄珂と立珂にとっては騒ぐようなものではなかった。
「護栄様! 浩然様!」
「おや。こんなところで会うなんて珍しいですね」
「君たちは今日も仲良しだね。いいね、抱っこ。護栄様抱っこしてください」
「絶対嫌です」
女性の熱い視線をこれでもかというくらいに集めているのは宮廷で薄珂と立珂の面倒を見てくれている護栄と浩然だった。
護栄は三章六部の全てを牛耳っていると言っても良い立場で、浩然はその中でも護栄直轄の戸部を束ねている。
二人共そこそこ偉いが、決して女性に騒がれるような立場ではない。薄珂は不思議に思いきょろりと周囲を見回すが、女性は皆役者でも見るかのようにはしゃいでいる。
「もしかしてこれ二人を見物してる輪?」
「見世物になった覚えは無いんですけどね」
「護栄様は仕事で関わらない女性からの人気高いからね、顔が」
「万人を騙す外面の良さは浩然に負けますよ」
ふんっと護栄は鼻で笑って嫌味を流した。
森育ちで人と関わることがほとんど無かった薄珂と立珂は容姿の美醜というのはあまり分からなかった。
立珂はどんな服が似合うかの議論をよくするが、別段特定の容姿を嫌ったり嫌悪することは無い。薄珂も容姿で交流方法を変えようと思ったことは無かったが、女性の反応はそうじゃない。
「護栄様が髪を降ろしてらっしゃるなんて珍しい。素敵ね」
「浩然様はいつも綿のようで愛らしいわ。お二人に会えるなんて良い休日だわ!」
女性は護栄と浩然を見るといつでも色めき立つ。
立珂が有翼人専用服を売っている《りっかのおみせ》に護栄と浩然がやって来る時もそうだ。居合わせた女性客は黄色い悲鳴をあげ、二人を見るために来る客もいるほどだ。
けれど薄珂が面白く感じたのは護栄の軽い調子だ。浩然は宮廷で見る様子とあまり変わらないが、護栄が誰かと砕けた会話をすることは無い。
(護栄様も友達と外出なんてするんだな。意外)
仕事をしている以外で二人を見たことが無かったので新鮮だった。
普通の若者と同じように過ごす姿を見れたことは何だか嬉しく感じたが、立珂はじっと真剣な顔で護栄を見つめていた。
立珂の視線に気付いたのか、護栄は手拭いを取り出し立珂の口元を拭ってくれる。
「口が水飴でべたべたになって」
「素敵! 護栄様もそういう格好するんだね! 宮廷よりするんてしててとっても素敵!」
「服? ああ、はい。殿下がいない時は大体こんなものですよ」
各区にはいくつも商店街があり、薄珂と立珂はおやつを買いに南区の朝市広場へやって来ていた。
「おいしー!」
「あの屋台の水飴美味しいよな。味がなめらかっていうか」
「つるんてしてる! いちばんおいしい!」
薄珂と立珂が買ったのは立珂の大好きな水飴だ。
水飴を出す屋台はいくつもあるが、立珂はそのうちの一つを特に気に入っている。蛍宮では貴重な氷を台に赤青黄と色とりどりの水飴が宝石のように輝いていて、味もだが美しさに立珂は惹かれたようだった。
(良い店なんだろうな。値段も他の三倍はするし氷を台なんて使い捨てにできるのは富裕層だ。南区は大体そうだけど)
南区は富裕層の別宅や別荘が集中しているようで、流通している商品の価格自体が非常に高い。
立珂の羽根の買取価格と比べれば鼻で笑える額なので手が出ないなんてことはないが、普通の子供であればまず手が出ない。
そんな金銭事情は知らないだろうが、立珂は大好きな水飴をあむあむと頬張っている。
「あ、立珂髪の毛触っちゃ駄目だ。べたべただからな」
「んにゃっ! べたべた!」
立珂は指がべたべたするのも楽しいのか、ぺたぺたと指をくっつけあってくふくふと笑った。
髪を触らないよう立珂と手を繋ぐと、進む先からきゃあきゃあと女性がはしゃぐような声が聞こえてきた。方々から女性が走って来て女性の輪はどんどん広がっていく。
「凄い騒ぎだな。何してるんだろう」
「女の人ばっかりだね。あ! お洒落のお祭りかな!?」
「服の屋台とかか? 見に行ってみるか」
「見る見るぅ!」
女性の波を立珂に歩かせるのは不安で、薄珂はいつものように立珂を抱き上げた。
周りにべたべたな手で触らないよう薄珂の服をしっかり握らせ輪の中を覗いてみたが、女性陣が騒いでいる対象を見て薄珂と立珂は目を丸くした。
「あれ?」
「う?」
薄珂と立珂は顔を見合わせると、女性の視線を一身に浴びながら騒ぎの主に声をかけに行った。
話題の中心にいたのは薄珂と立珂にとっては騒ぐようなものではなかった。
「護栄様! 浩然様!」
「おや。こんなところで会うなんて珍しいですね」
「君たちは今日も仲良しだね。いいね、抱っこ。護栄様抱っこしてください」
「絶対嫌です」
女性の熱い視線をこれでもかというくらいに集めているのは宮廷で薄珂と立珂の面倒を見てくれている護栄と浩然だった。
護栄は三章六部の全てを牛耳っていると言っても良い立場で、浩然はその中でも護栄直轄の戸部を束ねている。
二人共そこそこ偉いが、決して女性に騒がれるような立場ではない。薄珂は不思議に思いきょろりと周囲を見回すが、女性は皆役者でも見るかのようにはしゃいでいる。
「もしかしてこれ二人を見物してる輪?」
「見世物になった覚えは無いんですけどね」
「護栄様は仕事で関わらない女性からの人気高いからね、顔が」
「万人を騙す外面の良さは浩然に負けますよ」
ふんっと護栄は鼻で笑って嫌味を流した。
森育ちで人と関わることがほとんど無かった薄珂と立珂は容姿の美醜というのはあまり分からなかった。
立珂はどんな服が似合うかの議論をよくするが、別段特定の容姿を嫌ったり嫌悪することは無い。薄珂も容姿で交流方法を変えようと思ったことは無かったが、女性の反応はそうじゃない。
「護栄様が髪を降ろしてらっしゃるなんて珍しい。素敵ね」
「浩然様はいつも綿のようで愛らしいわ。お二人に会えるなんて良い休日だわ!」
女性は護栄と浩然を見るといつでも色めき立つ。
立珂が有翼人専用服を売っている《りっかのおみせ》に護栄と浩然がやって来る時もそうだ。居合わせた女性客は黄色い悲鳴をあげ、二人を見るために来る客もいるほどだ。
けれど薄珂が面白く感じたのは護栄の軽い調子だ。浩然は宮廷で見る様子とあまり変わらないが、護栄が誰かと砕けた会話をすることは無い。
(護栄様も友達と外出なんてするんだな。意外)
仕事をしている以外で二人を見たことが無かったので新鮮だった。
普通の若者と同じように過ごす姿を見れたことは何だか嬉しく感じたが、立珂はじっと真剣な顔で護栄を見つめていた。
立珂の視線に気付いたのか、護栄は手拭いを取り出し立珂の口元を拭ってくれる。
「口が水飴でべたべたになって」
「素敵! 護栄様もそういう格好するんだね! 宮廷よりするんてしててとっても素敵!」
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