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第五章 多様変遷
最終話 それぞれの未来(二)
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「これからどうするの?」
「やることはかわらないさ。諸外国からしたら俺の肩書が変わり皇太子の仕事が孔雀に移っただけだ」
「護栄様は?」
「礼部の立て直しです。美星に任せるつもりで教育してたんですが当てが外れてしまった」
護栄はまた孔雀の方へ視線を移した。しかしその先にいるのは孔雀ではなく、立珂を抱いて微笑む美星だった。
美星は華理へ来てくれることになった。これはさすがの薄珂も熟考した方が良いと言ったのだが、美星の決心は固く響玄も背を押していた。
だが護栄は美星を守るために有翼人狩りや解放戦争すらも掌握した。何故身代わりとなった相手にそこまでするのかの理由は分からないが、見つめる瞳は潤んでいるように見える。
「引き留めないの?」
「……宋睿への復讐が美星の生きる糧だった。でも私達が宋睿を討ったことで復讐の標的を失い途方に暮れ、それでも宮廷に残ったのはいつか現れる有翼人の求心力を支えるため」
薄珂は宮廷へ入ったばかりの頃を思い出した。
まず最初に薄珂と立珂へ付いてくれたのは全侍女を束ねる彩寧だった。そして多忙な彩寧に代わり現場で最も多く立珂の世話を焼いてくれたのが美星だった。最初からずっと傍にいてくれたのだ。響玄と縁ができたのも偏に美星のおかげでもある。
そうなる日を五年も前から待ち続け、そして今、立珂と共に生きることを選んでくれた。
護栄は深々と薄珂に頭を下げた。
「美星をよろしくお願いします」
「俺は何もしないよ。何をするかは美星さんが自分で選ぶことだ」
「お前本当護栄そっくりになったな」
「四番弟子だからね。あ、生き残った三人て浩然様と美星さんだよね。あと一人は?」
「宮廷を離れるあなたに教える義理はありませんね。気になるなら残りなさい」
つんっと護栄はそっぽを向いた。
気になることはたくさんある。護栄と浩然の下で学びたいこともある。蛍宮に未練が無いと言えば嘘になるけれど、それでも薄珂は華理へ移住を決めた。
これについては立珂とも話し合った。それは華理滞在最後の日のことだ。
「なあ立珂。蛍宮と華理どっちが好きだ?」
「華理! ここだいすき!」
「じゃあ引っ越すか? お洒落もできるしお店開くこともできるし」
「……でもみんなとさよならするんだよね。天藍ともさよならになっちゃう」
「そうだな。でもよく考えてみろ。天藍と護栄様は今でも毎日会えるわけじゃない。その間が少し長くなるだけで、会いに行くことはできる」
「う? そうなの?」
「ああ。どのみち響玄先生には会わないといけないからふた月に一度は蛍宮へ行く。ずっとさよならじゃないんだ。それに……」
立珂は心配そうな顔をしている。立珂にはいつでも笑っていて欲しいし心配をかけたくない。
そう思っているのにそれはちっとも叶わない。それは自分の力だけで守りきれたことが無いからだ。
いつでも守られてきた。
「俺達が天藍と一緒にいられるのは全部天藍のおかげだよな。けど見捨てられたら傍にはいられなくなる。それは嫌だ。だから俺は天藍と対等になりたいんだ。そのために天藍と離れて勉強したいと思ってる。だから立珂も協力してくれるか?」
これは本当だ。立珂のためでもあるけれど、自分のためでもある選択だ。
「……いいの? 本当にいいの?」
「ああ。立珂の笑顔をいっぱい見れるのが俺の幸せなんだ。お引越しするか?」
「ひっこす! 華理がいい!」
「じゃあそうしよう。でもまだ他の人に言っちゃ駄目だぞ。しー、だ」
「うん! しーってする!」
立珂は大喜びだった。それは世界で一番幸せなんじゃないかと思えるほどで、その笑顔があるのなら自分が天藍と会えない時間が多くなる寂しさも我慢できた。
「いつ発つんだ?」
「ひと月は後かな。でもふた月に一度は来るよ。響玄先生と打ち合わせしなきゃいけないから」
「その時は俺の所にも来てくれよ」
「嫌だよ。予定合わせるの大変だもん」
「え……」
天藍も護栄も忙しい。今だってそうだ。会おうと思っても会えないことのほうが多い。
宮廷内を歩いていれば一方的に見かけることはあるが、伴侶契約なんて無意味だと確信する程度には距離があった。
それにこれからは薄珂も忙しくなる。当面は哉珂の世話になることになっているが、麗亜や華理国主とも関係を築く必要がある。華理自体が未知だから生き方を模索するところから始まる。やることはいっぱいだ。
「俺は会いに行かないよ。天藍が来るんだ。ついでに商談の一つも持ってきてよね」
「まったくお前という奴は。分かった。約束しよう」
天藍はそっと頭を撫でてくれた。
もうひと月すればこの手から離れることになる。それでも選択したのは薄珂自身だ。
「元皇太子にふさわしい商談を用意しとくよ」
「なら俺はお前に利益を与えられる役職を手に入れておこう」
薄珂は手を握り返すことはしなかった。ただ撫でてくれる手のぬくもりだけを心に刻み込んだ。
「感動してるところ申し訳ないですが、薄珂に手綱を握られただけですからね」
「こういう時くらい黙れお前は」
護栄は最後まで護栄らしくいてくれた。それはこの先も変わらないことを約束してくれているように思える。
そうして薄珂と立珂は華理へ発ったのだった。
「やることはかわらないさ。諸外国からしたら俺の肩書が変わり皇太子の仕事が孔雀に移っただけだ」
「護栄様は?」
「礼部の立て直しです。美星に任せるつもりで教育してたんですが当てが外れてしまった」
護栄はまた孔雀の方へ視線を移した。しかしその先にいるのは孔雀ではなく、立珂を抱いて微笑む美星だった。
美星は華理へ来てくれることになった。これはさすがの薄珂も熟考した方が良いと言ったのだが、美星の決心は固く響玄も背を押していた。
だが護栄は美星を守るために有翼人狩りや解放戦争すらも掌握した。何故身代わりとなった相手にそこまでするのかの理由は分からないが、見つめる瞳は潤んでいるように見える。
「引き留めないの?」
「……宋睿への復讐が美星の生きる糧だった。でも私達が宋睿を討ったことで復讐の標的を失い途方に暮れ、それでも宮廷に残ったのはいつか現れる有翼人の求心力を支えるため」
薄珂は宮廷へ入ったばかりの頃を思い出した。
まず最初に薄珂と立珂へ付いてくれたのは全侍女を束ねる彩寧だった。そして多忙な彩寧に代わり現場で最も多く立珂の世話を焼いてくれたのが美星だった。最初からずっと傍にいてくれたのだ。響玄と縁ができたのも偏に美星のおかげでもある。
そうなる日を五年も前から待ち続け、そして今、立珂と共に生きることを選んでくれた。
護栄は深々と薄珂に頭を下げた。
「美星をよろしくお願いします」
「俺は何もしないよ。何をするかは美星さんが自分で選ぶことだ」
「お前本当護栄そっくりになったな」
「四番弟子だからね。あ、生き残った三人て浩然様と美星さんだよね。あと一人は?」
「宮廷を離れるあなたに教える義理はありませんね。気になるなら残りなさい」
つんっと護栄はそっぽを向いた。
気になることはたくさんある。護栄と浩然の下で学びたいこともある。蛍宮に未練が無いと言えば嘘になるけれど、それでも薄珂は華理へ移住を決めた。
これについては立珂とも話し合った。それは華理滞在最後の日のことだ。
「なあ立珂。蛍宮と華理どっちが好きだ?」
「華理! ここだいすき!」
「じゃあ引っ越すか? お洒落もできるしお店開くこともできるし」
「……でもみんなとさよならするんだよね。天藍ともさよならになっちゃう」
「そうだな。でもよく考えてみろ。天藍と護栄様は今でも毎日会えるわけじゃない。その間が少し長くなるだけで、会いに行くことはできる」
「う? そうなの?」
「ああ。どのみち響玄先生には会わないといけないからふた月に一度は蛍宮へ行く。ずっとさよならじゃないんだ。それに……」
立珂は心配そうな顔をしている。立珂にはいつでも笑っていて欲しいし心配をかけたくない。
そう思っているのにそれはちっとも叶わない。それは自分の力だけで守りきれたことが無いからだ。
いつでも守られてきた。
「俺達が天藍と一緒にいられるのは全部天藍のおかげだよな。けど見捨てられたら傍にはいられなくなる。それは嫌だ。だから俺は天藍と対等になりたいんだ。そのために天藍と離れて勉強したいと思ってる。だから立珂も協力してくれるか?」
これは本当だ。立珂のためでもあるけれど、自分のためでもある選択だ。
「……いいの? 本当にいいの?」
「ああ。立珂の笑顔をいっぱい見れるのが俺の幸せなんだ。お引越しするか?」
「ひっこす! 華理がいい!」
「じゃあそうしよう。でもまだ他の人に言っちゃ駄目だぞ。しー、だ」
「うん! しーってする!」
立珂は大喜びだった。それは世界で一番幸せなんじゃないかと思えるほどで、その笑顔があるのなら自分が天藍と会えない時間が多くなる寂しさも我慢できた。
「いつ発つんだ?」
「ひと月は後かな。でもふた月に一度は来るよ。響玄先生と打ち合わせしなきゃいけないから」
「その時は俺の所にも来てくれよ」
「嫌だよ。予定合わせるの大変だもん」
「え……」
天藍も護栄も忙しい。今だってそうだ。会おうと思っても会えないことのほうが多い。
宮廷内を歩いていれば一方的に見かけることはあるが、伴侶契約なんて無意味だと確信する程度には距離があった。
それにこれからは薄珂も忙しくなる。当面は哉珂の世話になることになっているが、麗亜や華理国主とも関係を築く必要がある。華理自体が未知だから生き方を模索するところから始まる。やることはいっぱいだ。
「俺は会いに行かないよ。天藍が来るんだ。ついでに商談の一つも持ってきてよね」
「まったくお前という奴は。分かった。約束しよう」
天藍はそっと頭を撫でてくれた。
もうひと月すればこの手から離れることになる。それでも選択したのは薄珂自身だ。
「元皇太子にふさわしい商談を用意しとくよ」
「なら俺はお前に利益を与えられる役職を手に入れておこう」
薄珂は手を握り返すことはしなかった。ただ撫でてくれる手のぬくもりだけを心に刻み込んだ。
「感動してるところ申し訳ないですが、薄珂に手綱を握られただけですからね」
「こういう時くらい黙れお前は」
護栄は最後まで護栄らしくいてくれた。それはこの先も変わらないことを約束してくれているように思える。
そうして薄珂と立珂は華理へ発ったのだった。
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