人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

文字の大きさ
上 下
343 / 356
第五章 多様変遷

第三十七話 あるべき姿へ(二)

しおりを挟む
「ここが国葬墓地だ」

 そんなことを考えているうちに国葬墓地へ到着した。天藍を始め参列している全員が黙とうし祈りを捧げ、薄珂と立珂も真似て手を合わせる。
 国葬は宋睿の有翼人狩りで犠牲になった者の弔いと銘打たれている。
 この美しい嘘のおかげで国民が団結し未来へ向かうことができるなら、真相は闇に葬るのが正解なのかもしれない。

「立珂。贈り物を皆に渡してくれるか」
「うんっ!」

 立珂は手に持っていた品を広げた。有翼人専用服だ。

「美しい服だ」
「愛憐ちゃんが選んでくれた生地だよ。とっても涼しい生地なの」

 これは立珂が考え、愛憐が作ってくれた物だ。
 有翼人保護区で今最も喜ばれているのが氷の無料配布だ。これは全て明恭から提供され、今後は専用予算を組むことになっている。浩然が無茶言うなと頭を抱えていたけれど、護栄が任せたのなら実現できるということだろう。
 立珂は服を広げ慰霊碑に向かって語った。

「これはばらばらにしてくみたてながら着るの。羽出せるしひとりでおきがえもできるんだ。羽がこちょこちょしないからひふえんもないんだよ。背中だけとっても薄い生地なのは涼しくするためだよ。肌着はからだにぴったりして汗かいてもだいじょうぶなの」

 立珂は小さな手で服を畳むと、そっと慰霊碑の前に置いた。

「いっぱい着てね。お店にはもっといろいろあるから見に来てね」

 立珂がにっこりと笑顔でそう言うと天藍は俯いた。

「……すまない」

 顔を隠していたけれど、天藍より背の低い薄珂にはその表情が見えてしまった。
 ぽつりとそうこぼした天藍の目には涙が浮かんでいた。護栄はいつも通り凛と澄ましている。まるで何も無かったようないつもの表情だ。
 天藍は膝を付き、もう一度手を合わせた。涙が乾くのを待っているのかもしれない。
 薄珂もその隣に膝をつき手を合わせ、周りから見えないようにそっと小さな布を渡した。小さくなった立珂は口を開けて寝ること多く、涎を垂らすので持ち歩いている。

「未使用だから」
「……有難う」

 天藍はそれでぐっと目を抑えると、ふうと深呼吸をして立ち上がり職員たちを振り返った。

「それじゃあ中央広場へ行こう。騒ぎになるかもしれないが、どうか力を貸してくれ」
「当然だ。我らの悲願が叶う時だからな」
「盛大に祝ってやろう」

 笑いながらそう言ったのは先代皇宋睿を敬愛する者達だ。
 先代皇派だの反天藍派だのと呼ばれるが、彼等の目下の目標は天藍を引きずり下ろすことだった。彼等の力ではないけれど、それが今日達成する。嬉しくないはずがない。

(政治の決定権は彼等も平等に持つようになり皇太子には孔雀先生が立つ。国民はどう思うだろう)

 先代皇派は驚くほど孔雀が皇太子になることに興味を示さなかった。元々宋睿が蛍宮皇だの皇太子だのという地位に興味がなかったからだという。
 それを聞くと宋睿は本当に先々代皇の悪政から国民を開放したかっただけなのかもしれない。ならばあの頃に透珂と薄立がいればこうして天藍が立つこともなかったのかもしれない。
 皇族のつけを皇族が払うのは当然だと誰かが言った。嫌味だったのかもしれないけれど、孔雀はただそれに頷いていた。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。  キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。  苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

あの日の記憶の隅で、君は笑う。

15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。 その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。 唐突に始まります。 身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません! 幸せになってくれな!

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

金の野獣と薔薇の番

むー
BL
結季には記憶と共に失った大切な約束があった。 ❇︎❇︎❇︎❇︎❇︎ 止むを得ない事情で全寮制の学園の高等部に編入した結季。 彼は事故により7歳より以前の記憶がない。 高校進学時の検査でオメガ因子が見つかるまでベータとして養父母に育てられた。 オメガと判明したがフェロモンが出ることも発情期が来ることはなかった。 ある日、編入先の学園で金髪金眼の皇貴と出逢う。 彼の纒う薔薇の香りに発情し、結季の中のオメガが開花する。 その薔薇の香りのフェロモンを纏う皇貴は、全ての性を魅了し学園の頂点に立つアルファだ。 来るもの拒まずで性に奔放だが、番は持つつもりはないと公言していた。 皇貴との出会いが、少しずつ結季のオメガとしての運命が動き出す……? 4/20 本編開始。 『至高のオメガとガラスの靴』と同じ世界の話です。 (『至高の〜』完結から4ヶ月後の設定です。) ※シリーズものになっていますが、どの物語から読んでも大丈夫です。 【至高のオメガとガラスの靴】  ↓ 【金の野獣と薔薇の番】←今ココ  ↓ 【魔法使いと眠れるオメガ】

処理中です...