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第五章 多様変遷
第三十七話 あるべき姿へ(一)
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ついに蛍宮有翼人の国葬の日がやってきた。
国葬は基本的には自由参加だが宮廷職員は皆参加する。出欠を取るわけではないが、強要せずとも自然とこの日だけは派閥など関係無く協力がされる。
宮廷敷地内では天藍と護栄を始めとした宮廷職員の一部、主に有翼人狩りその日を経験している者が宮廷内国葬墓地に集まる。
その他職員は街の各広場に立てられた慰霊碑に集まり、国民も同じように集まる。慰霊碑前には並びきれないので国中のあちこちで国民が独自に祈りを捧げる姿が多く見られる。
昼になったら中央区中央広場に設置された壇上に天藍が立ち、国民への挨拶をし式自体は終了となる。だが天藍は国内慰霊碑と広場を周り、国民と交流をして過ごすのが毎年の様子だという。
薄珂と立珂は天藍と共に宮廷内墓地に参列し、その後の天藍挨拶周り全てに同行する。
理由はもちろん慰霊碑へ贈り物を捧げるためだ。毎年天藍が献花を行うが、今年は立珂の手で備えてほしいと天藍に頼まれそれを引き受けた。
そのため今日は朝から宮廷で準備に参加している。といっても、式典用に立珂が作った服に着替えるだけなのだが。
「天藍の服重そうだね」
「これでも軽くなったほうだ。さすが立珂の服は過ごしやすい」
「僕と薄珂はおそろいなの!」
「そうか。いつも通りだな」
「うんっ!」
立珂はえへへと幸せそうに笑って薄珂に抱き着いた。いつもの光景だ。この幸せな笑顔を眺めるのが薄珂の日常的な幸せだ。
しかし天藍は微笑んではいてもどこか苦しそうに見える。
(複雑なんだろうな。自分が殺しておいて国葬なんて、国民が知ったら暴動になるだろう)
あれから、有翼人狩りの真相を詳しく教えてもらった。
薄珂の考えていた通り、有翼人狩りに兵を割き解放軍への襲撃に対応できないようにし、かつ戦後全面的に世話をしなくてはならないのに生産性が低い有翼人総数を減らすことが目的だったという。世界的に有翼人は迫害傾向にある中で、蛍宮がその他国民を守り中立となるには有翼人が多すぎたのだ。それならば総数を減らし、その死を悼む演出をする方が心象が良い。
(でもそんなのは天藍の自己満足だ。明恭と協力する方法もあったのにそれをしなかった。何で護栄様はこんなことを――……)
有翼人狩りを強行したのは天藍だったが、肝心の策を練った護栄は終始反対していたという。美星も無事では済まない可能性があったからだ。
何故護栄がそこまで美星を大切にするのか、何故こんなことをする天藍を主と定めたのかまでは教えてもらえなかったが、これが全てだということだった。
これを聞けば国民は激怒するだろうが、薄珂が思ったことは自分でも薄情なものだった。
(終わったことは仕方ない。今の予算からしても有翼人を抱えるのは無理だっただろう)
ほんの一片だが戸部で国内や宮廷の金銭事情を知った。お金なんて作ったらいいのでは、くらいに思っていたが国の均衡を保つというのはそう簡単ではないようだった。
ざっくり言えば「ずるい」となる。一部が過剰に金を持てばそこだけが発展し、一般家庭は貧困層に転じる場合もあるという。
特に宋睿の代で問題になった一部種族への重税は廃止する必要があった。そのほとんどが有翼人を苦しめ国外へ追いやる目的で、全種族平等を掲げる天藍は撤廃せざるを得ない。しかしその税で成立していた宮廷予算もあり、それが一斉になくなると全種族に必要な政策もできなくなる可能性が高い。
加えて獣人の特別扱いを控えるというのも難しかった。未だに宋睿を敬愛する獣人、特に肉食獣人は団結力が高い。下手に機嫌を損ねれば彼らによる反乱も考えられ、そうなると獣人贔屓撤廃は少しずつやらなくてはならない。
こういった調停が非常に難しく、対処できるのは護栄だけだった。
しかし物理的に護栄の稼働には限界があった。明恭とのやりとりはどうしても護栄が立つ必要があり、ならば宮廷内部のことは部下に任せたい。そのために浩然を教育したけれど、それも五年かけてようやく一人だ。護栄が自由に動けるようになるにはまだまだ時間がかかる。
(英断なんて綺麗な言葉は使えないけど、最大数を生かすのは間違いなくこれだ)
自分が人の命を金銭で考えたことには薄珂もため息が出た。
しかし目の前で立珂が笑っているのも今の蛍宮があってこそだ。そう思うとこれ以上蛍宮の歴史に口を挟み正義を振りかざす気にはなれず、そんな自分にまた少し落胆した。
国葬は基本的には自由参加だが宮廷職員は皆参加する。出欠を取るわけではないが、強要せずとも自然とこの日だけは派閥など関係無く協力がされる。
宮廷敷地内では天藍と護栄を始めとした宮廷職員の一部、主に有翼人狩りその日を経験している者が宮廷内国葬墓地に集まる。
その他職員は街の各広場に立てられた慰霊碑に集まり、国民も同じように集まる。慰霊碑前には並びきれないので国中のあちこちで国民が独自に祈りを捧げる姿が多く見られる。
昼になったら中央区中央広場に設置された壇上に天藍が立ち、国民への挨拶をし式自体は終了となる。だが天藍は国内慰霊碑と広場を周り、国民と交流をして過ごすのが毎年の様子だという。
薄珂と立珂は天藍と共に宮廷内墓地に参列し、その後の天藍挨拶周り全てに同行する。
理由はもちろん慰霊碑へ贈り物を捧げるためだ。毎年天藍が献花を行うが、今年は立珂の手で備えてほしいと天藍に頼まれそれを引き受けた。
そのため今日は朝から宮廷で準備に参加している。といっても、式典用に立珂が作った服に着替えるだけなのだが。
「天藍の服重そうだね」
「これでも軽くなったほうだ。さすが立珂の服は過ごしやすい」
「僕と薄珂はおそろいなの!」
「そうか。いつも通りだな」
「うんっ!」
立珂はえへへと幸せそうに笑って薄珂に抱き着いた。いつもの光景だ。この幸せな笑顔を眺めるのが薄珂の日常的な幸せだ。
しかし天藍は微笑んではいてもどこか苦しそうに見える。
(複雑なんだろうな。自分が殺しておいて国葬なんて、国民が知ったら暴動になるだろう)
あれから、有翼人狩りの真相を詳しく教えてもらった。
薄珂の考えていた通り、有翼人狩りに兵を割き解放軍への襲撃に対応できないようにし、かつ戦後全面的に世話をしなくてはならないのに生産性が低い有翼人総数を減らすことが目的だったという。世界的に有翼人は迫害傾向にある中で、蛍宮がその他国民を守り中立となるには有翼人が多すぎたのだ。それならば総数を減らし、その死を悼む演出をする方が心象が良い。
(でもそんなのは天藍の自己満足だ。明恭と協力する方法もあったのにそれをしなかった。何で護栄様はこんなことを――……)
有翼人狩りを強行したのは天藍だったが、肝心の策を練った護栄は終始反対していたという。美星も無事では済まない可能性があったからだ。
何故護栄がそこまで美星を大切にするのか、何故こんなことをする天藍を主と定めたのかまでは教えてもらえなかったが、これが全てだということだった。
これを聞けば国民は激怒するだろうが、薄珂が思ったことは自分でも薄情なものだった。
(終わったことは仕方ない。今の予算からしても有翼人を抱えるのは無理だっただろう)
ほんの一片だが戸部で国内や宮廷の金銭事情を知った。お金なんて作ったらいいのでは、くらいに思っていたが国の均衡を保つというのはそう簡単ではないようだった。
ざっくり言えば「ずるい」となる。一部が過剰に金を持てばそこだけが発展し、一般家庭は貧困層に転じる場合もあるという。
特に宋睿の代で問題になった一部種族への重税は廃止する必要があった。そのほとんどが有翼人を苦しめ国外へ追いやる目的で、全種族平等を掲げる天藍は撤廃せざるを得ない。しかしその税で成立していた宮廷予算もあり、それが一斉になくなると全種族に必要な政策もできなくなる可能性が高い。
加えて獣人の特別扱いを控えるというのも難しかった。未だに宋睿を敬愛する獣人、特に肉食獣人は団結力が高い。下手に機嫌を損ねれば彼らによる反乱も考えられ、そうなると獣人贔屓撤廃は少しずつやらなくてはならない。
こういった調停が非常に難しく、対処できるのは護栄だけだった。
しかし物理的に護栄の稼働には限界があった。明恭とのやりとりはどうしても護栄が立つ必要があり、ならば宮廷内部のことは部下に任せたい。そのために浩然を教育したけれど、それも五年かけてようやく一人だ。護栄が自由に動けるようになるにはまだまだ時間がかかる。
(英断なんて綺麗な言葉は使えないけど、最大数を生かすのは間違いなくこれだ)
自分が人の命を金銭で考えたことには薄珂もため息が出た。
しかし目の前で立珂が笑っているのも今の蛍宮があってこそだ。そう思うとこれ以上蛍宮の歴史に口を挟み正義を振りかざす気にはなれず、そんな自分にまた少し落胆した。
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