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第五章 多様変遷
第二十九話 子供達の選択(二)
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その翌日から烙玲と錐漣は慶都と共に仕事をし始めた。
それとなく様子を見ていてくれと護栄に言われて薄珂も立珂を連れて同行したが、立珂は慶都や烙玲、錐漣とお出かけ気分のようでにこにこだ。
「ここが有翼人保護区だ。有翼人は警戒心が強いから子供で守ることにしたんだ」
「兵が怖いの? 守ってくれるんだろ?」
「先代皇が有翼人狩りしたせいで宮廷自体が怖いんだ。武器そのものが怖いんだと思う」
「なら猫と鼠に見回り頼むか? 猫なんて可愛いだろ」
「あ、そうそう。それいい。華理はそうしてたから実績あるよ。それに野生は人件費かからないからすごくいい」
「なんだそれ」
「何するにもお金がかかるんだよ。けど大変じゃない?」
「大変じゃないよ。俺らは頼むだけで操作するわけじゃない。餌場と住処があれば勝手に居着くし」
「いいね。慶都それ上と相談してよ」
「分かった。でも玲章様だけにしとく。あんまりこの能力知られない方が良いと思うし」
「そうだな。うん。その辺も頼むよ」
「ああ!」
烙玲と錐漣は同種の獣と会話をし、あれこれと頼むことができる。
これは獣人の中でも特異で、誰しもがそうではない。むしろそんなことができるのはごく一部らしく、軍事利用を懸念した長老はそういった子供を守るために里を活用していたという。
(独立した部隊って思えば良いのかな。これなら長老様の傍にいたままできるし。それに)
烙玲と錐漣は楽しそうだった。立珂に有翼人のことを聞いてはどういう警備が良いかを考え、猫を介した交流で早くも有翼人と打ち解けている。
(楽しそうだ)
見守る長老は不安そうだった。しかし恐怖を乗り越え成長することが大きな幸せに繋がると知っている薄珂はやはり嬉しかった。
それから数日、そうして過ごしているうちに烙玲と錐漣は有翼人保護区の新たな警備員としてすっかり馴染んでいた。
特に猫は大いに喜ばれ、一人暮らしの有翼人には生活を共にする相棒のようにもなっている。生き物を飼うというのが教育にも良いと考える親も多く、もはや新たな生活の一部のようになっている。
二人が生き生きとしている様子を見て、里の大人は応援しようと言っている。こういう働き方は良いかもしれないとまで考えたらしく、実は俺も同じ能力を持っているんだと明かす者まで出て来た。
率先して蛍宮の生活へ参加する姿はとても嬉しかったけれど、やはり長老はまだ渋い顔をしていた。
そして改めて意向を確認しようと、長老を含め護栄と対面をすることになった。立珂は美星と慶都に任せ、薄珂も同席している。
「では改めて。お二人はいかがです」
「すごく楽しかった。猫とも仲良くしてくれたし、有翼人には愛玩できる相手が必要にも見えた。守る相手がいるって生きがいにもなるだろ? きっと役に立てることはいっぱいあると思う。俺は続けたいと思ってる」
「俺もだよ。でもやっぱり長老様を心配させたくない。俺達は長老様がいたから生きてこれたんだ。それに国の兵士になったら国を優先するんだろ? それはできない」
烙玲と錐漣はしょんぼりとうつむいた。それは明らかに自分の未来を諦めた悲しみが見える。
しかし長老も俯き言葉をかみ殺しているようだった。
「よく分かりました。では条件付きならどうです?」
「条件?」
「獣人保護区の警備を充実させようと思っているんです。先日の誘拐事件もありましたし、何より牙燕将軍――君達の長老様は国の要人。特別な警護が必要ですが、物々しいのはお嫌いのご様子。そこで君達にそれを頼みたい」
「俺たちに?」
「あなた方の業務は牙燕将軍の警護、及び獣人保護区全域の警戒。雇用形態は正規ではなく一ヶ月更新の契約。有期雇用は軍事訓練参加義務はありませんが希望があれば参加を許可します。特務ですので配属は玲章殿の直下。それならどうです?」
「……うん?」
「何だって?」
烙玲と錐漣は首をひねった。
薄珂と立珂もそうだったが、護栄の話や使う単語は人里で教育を受けていない者には難しい。立珂に至っては聞きながら寝てしまう始末だ。
「この前みたいに猫と鼠で保護区内を気にしてて欲しいんだ。それさえしてくれれば常に長老様の側にいて皆を守ってていい。これを期間限定でやらないか、ってこと。嫌だったらいつでも止められるよ」
「え、それで訓練もやらせてもらえんの?」
「ええ。職員ですから給与も出ますし活躍もちゃんと知れ渡る。正しく評価をしてもらえます」
護栄は以前持ち帰った勲章を二人の前に差し出した。職員になるならばこれは正式に二人へ与えられるだろう。
烙玲と錐漣は恐る恐る長老を見ると、長老はようやく、ほんの少しだけ微笑んだ。
「何ごとも経験だ。やりたいのならやってみなさい」
「う、うん!」
「有難う長老様!」
「決まりですね。これが規定服です。使い時は慶都殿に聞いて下さい」
「はい! やったあ!」
「すげー。これ立珂が考えたんだよな」
「うん。というかもう用意してたの?」
「宮廷には規定服くらい余分にありますよ」
「その割に俺の規定服届くの遅かったね」
「たまたま寸法が合わなかったんですよ」
きっと用意したのは二人に目を付けてすぐだろう。勲章だって与えるつもりがないならわざわざ作ったりしない。
他にどんな根回しをしていたのか聞いてみたい。
(本当よくやるよな、護栄様って……あれ?)
ふうと息を吐くと、ふと窓の外から視線を感じた。
振り返るとそこにいたのは――
(閃里様?)
こちらの様子を窺っていたのは閃里だった。
華理へ行ったり父の死が告げられたりとばたばたしていたが、獣人保護区は閃里の管轄だ。当然この話を知らないはずはないだろう。
じっと見つめているとその視線に気付いたのか、閃里はふいっと目を逸らし立ち去ってしまった。
薄珂は何となく気にかかり、慌ててその後を追った。
それとなく様子を見ていてくれと護栄に言われて薄珂も立珂を連れて同行したが、立珂は慶都や烙玲、錐漣とお出かけ気分のようでにこにこだ。
「ここが有翼人保護区だ。有翼人は警戒心が強いから子供で守ることにしたんだ」
「兵が怖いの? 守ってくれるんだろ?」
「先代皇が有翼人狩りしたせいで宮廷自体が怖いんだ。武器そのものが怖いんだと思う」
「なら猫と鼠に見回り頼むか? 猫なんて可愛いだろ」
「あ、そうそう。それいい。華理はそうしてたから実績あるよ。それに野生は人件費かからないからすごくいい」
「なんだそれ」
「何するにもお金がかかるんだよ。けど大変じゃない?」
「大変じゃないよ。俺らは頼むだけで操作するわけじゃない。餌場と住処があれば勝手に居着くし」
「いいね。慶都それ上と相談してよ」
「分かった。でも玲章様だけにしとく。あんまりこの能力知られない方が良いと思うし」
「そうだな。うん。その辺も頼むよ」
「ああ!」
烙玲と錐漣は同種の獣と会話をし、あれこれと頼むことができる。
これは獣人の中でも特異で、誰しもがそうではない。むしろそんなことができるのはごく一部らしく、軍事利用を懸念した長老はそういった子供を守るために里を活用していたという。
(独立した部隊って思えば良いのかな。これなら長老様の傍にいたままできるし。それに)
烙玲と錐漣は楽しそうだった。立珂に有翼人のことを聞いてはどういう警備が良いかを考え、猫を介した交流で早くも有翼人と打ち解けている。
(楽しそうだ)
見守る長老は不安そうだった。しかし恐怖を乗り越え成長することが大きな幸せに繋がると知っている薄珂はやはり嬉しかった。
それから数日、そうして過ごしているうちに烙玲と錐漣は有翼人保護区の新たな警備員としてすっかり馴染んでいた。
特に猫は大いに喜ばれ、一人暮らしの有翼人には生活を共にする相棒のようにもなっている。生き物を飼うというのが教育にも良いと考える親も多く、もはや新たな生活の一部のようになっている。
二人が生き生きとしている様子を見て、里の大人は応援しようと言っている。こういう働き方は良いかもしれないとまで考えたらしく、実は俺も同じ能力を持っているんだと明かす者まで出て来た。
率先して蛍宮の生活へ参加する姿はとても嬉しかったけれど、やはり長老はまだ渋い顔をしていた。
そして改めて意向を確認しようと、長老を含め護栄と対面をすることになった。立珂は美星と慶都に任せ、薄珂も同席している。
「では改めて。お二人はいかがです」
「すごく楽しかった。猫とも仲良くしてくれたし、有翼人には愛玩できる相手が必要にも見えた。守る相手がいるって生きがいにもなるだろ? きっと役に立てることはいっぱいあると思う。俺は続けたいと思ってる」
「俺もだよ。でもやっぱり長老様を心配させたくない。俺達は長老様がいたから生きてこれたんだ。それに国の兵士になったら国を優先するんだろ? それはできない」
烙玲と錐漣はしょんぼりとうつむいた。それは明らかに自分の未来を諦めた悲しみが見える。
しかし長老も俯き言葉をかみ殺しているようだった。
「よく分かりました。では条件付きならどうです?」
「条件?」
「獣人保護区の警備を充実させようと思っているんです。先日の誘拐事件もありましたし、何より牙燕将軍――君達の長老様は国の要人。特別な警護が必要ですが、物々しいのはお嫌いのご様子。そこで君達にそれを頼みたい」
「俺たちに?」
「あなた方の業務は牙燕将軍の警護、及び獣人保護区全域の警戒。雇用形態は正規ではなく一ヶ月更新の契約。有期雇用は軍事訓練参加義務はありませんが希望があれば参加を許可します。特務ですので配属は玲章殿の直下。それならどうです?」
「……うん?」
「何だって?」
烙玲と錐漣は首をひねった。
薄珂と立珂もそうだったが、護栄の話や使う単語は人里で教育を受けていない者には難しい。立珂に至っては聞きながら寝てしまう始末だ。
「この前みたいに猫と鼠で保護区内を気にしてて欲しいんだ。それさえしてくれれば常に長老様の側にいて皆を守ってていい。これを期間限定でやらないか、ってこと。嫌だったらいつでも止められるよ」
「え、それで訓練もやらせてもらえんの?」
「ええ。職員ですから給与も出ますし活躍もちゃんと知れ渡る。正しく評価をしてもらえます」
護栄は以前持ち帰った勲章を二人の前に差し出した。職員になるならばこれは正式に二人へ与えられるだろう。
烙玲と錐漣は恐る恐る長老を見ると、長老はようやく、ほんの少しだけ微笑んだ。
「何ごとも経験だ。やりたいのならやってみなさい」
「う、うん!」
「有難う長老様!」
「決まりですね。これが規定服です。使い時は慶都殿に聞いて下さい」
「はい! やったあ!」
「すげー。これ立珂が考えたんだよな」
「うん。というかもう用意してたの?」
「宮廷には規定服くらい余分にありますよ」
「その割に俺の規定服届くの遅かったね」
「たまたま寸法が合わなかったんですよ」
きっと用意したのは二人に目を付けてすぐだろう。勲章だって与えるつもりがないならわざわざ作ったりしない。
他にどんな根回しをしていたのか聞いてみたい。
(本当よくやるよな、護栄様って……あれ?)
ふうと息を吐くと、ふと窓の外から視線を感じた。
振り返るとそこにいたのは――
(閃里様?)
こちらの様子を窺っていたのは閃里だった。
華理へ行ったり父の死が告げられたりとばたばたしていたが、獣人保護区は閃里の管轄だ。当然この話を知らないはずはないだろう。
じっと見つめているとその視線に気付いたのか、閃里はふいっと目を逸らし立ち去ってしまった。
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