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第五章 多様変遷
第二十七話 胎動(二)
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その夜、いつも通り響玄と美星と一緒に夕飯を食べていた。
薄珂がまだいつも通りに戻れていないこともあるが、立珂が成長期に入ってからというもの美星から離れたがらないのもあり、ずっと共に過ごしている。
響玄と美星は何も言わずいつも通りに接してくれるのはとても心地良く、薄珂はただ立珂を愛していれば良い日々に感謝した。
「そうだ。今日は二人に提案があるんだ」
「う?」
響玄はにこりと微笑み庭に目をやった。庭はとても広く、木々が鬱蒼としていて小さな林のようだ。
「お前たちそこに引っ越して来ないか」
「え? 庭に?」
「ああ。今の家よりも人の賑わいはうるさいだろうが、店と家を通らねば入れないから安全面は今よりもずっと良い。そろそろ植木屋に手入れして貰おうと思ってたんだが、そのままにすれば森のようだろう? そこなら天幕でも生活ができる」
「天幕!?」
がばっと勢いよく立ち上がったのは立珂だ。華理で天幕を楽しんでからというもの、蛍宮でも天幕を張りたがるようになっていた。おそらく響玄もそれに気付いてくれたのだろう。
美星は立珂に座るよう促すとそっと立珂の頭を撫でてくれた。
「井戸も薫衣草畑もあるので立珂様には不便が無いと思いますよ。それに今は私がお役に立てる時かと思います」
「そうなんだよね。立珂は」
「美星さんといっしょがいい!」
「だよな。今の家とどっちがいい?」
「ここがいい! 美星さんといっしょ!」
立珂はぴょんと美星に抱き着いた。いっしょ、いっしょ、と嬉しそうに頬ずりをしている。
立珂が喜ぶのなら薄珂の答えは決まっている。
「決まりだな。よし、立珂。引越しの準備するぞ。動きやすい服にお着替えだ!」
「はあい!」
*
元気いっぱいに走り出す立珂に手を引かれるとそれだけで薄珂の気持ちは幸せになった。
いつもなら抱っこしていくか手を引いていくけれど、今日は立珂の小さな手がとても心強く感じる。
「立珂は服を詰めてくれるか?」
「はあい!」
「お手伝いします」
小屋にある荷物はほぼ立珂の服だ。私物というほどの物はなく、精々食器と食べ物くらいだろう。といっても二人分なので両手で抱えるほどにもならない。
立珂は美星と二人で服を畳み始めたが、んー、と首を傾げている。
「どうした立珂」
「今までの服どうしよう。大きいの着れなくなっちゃった」
「とっておいたらいいんじゃないか? 大きくなれば着れるだろ」
「流行がおわったら着ないよ。今流行の服は今着ないと」
「う、うん? そうか?」
「では配給で配布してはいかがですか? 古着を出す者は多いですよ」
「う? なあにそれ」
「宮廷が国民へ物を提供する場所です。ちょうど昼の配給をしてる頃ですし行ってみましょうか」
立珂はまだ何のことか分かっていないようだったが、一しきり荷物をまとめると美星に抱きかかえられて広場へと向かった。
*
広場へ行くと大勢の人が集まっていた。
全員が大きな机に向かい列を作って並んでいるが、その先にあるのは野菜や肉、菓子類などたくさんの食材だった。弁当の状態で配布されている物もあり、鍋には汁物が入っている。
そこから少し離れた所には衣類が積み重ねてあり、一人一枚ずつ貰っているようだった。
「あれが配給です。収入が無い人に宮廷が配るんですよ」
「これ無料? 運営費ってどこから出てるの? お気持ちでできることじゃないよ」
「それは」
「僕がやりくりしたんだよ」
「浩然様」
「さすが目の付け所が良いや。ねえ美星」
「私に振らないでちょうだい。立珂様。屋台で腸詰を買いましょうか」
「かう!」
美星はつんっと浩然から顔を逸らし、立珂を抱いて一般の屋台へと向かった。
浩然はけらけらと笑っているが、やはり護栄を含めこの三人にはそれなりの過去があるのだろうことは感じられた。
「それで、こんな所で何してるの? 君らは配給必要無いと思うけど」
「着れなくなった服を古着に出そうかと思ったんです。立珂ちっちゃくなったから」
「ああ、なるほどね。でも争奪戦になりそうだよね。不平等になるのは困るかな」
「そっか。そうですよね」
配給をしている机を見ると、その人数は多い。古着に出したい服は十数着だが、列はとても数えられる人数じゃない。
それどころか今既にこちらを見ている者もいる。これでは古着に出すのは難しく思われた。
しかしその一点を見て薄珂はあることを思い立った。
「浩然様。せっかくだしちょっとやってみませんか」
「何を?」
「それはもちろん、護栄様の喜ぶことを」
手元にあるのは立珂の古着十数着。それを持って薄珂は立珂を連れてある準備を始めた。
薄珂がまだいつも通りに戻れていないこともあるが、立珂が成長期に入ってからというもの美星から離れたがらないのもあり、ずっと共に過ごしている。
響玄と美星は何も言わずいつも通りに接してくれるのはとても心地良く、薄珂はただ立珂を愛していれば良い日々に感謝した。
「そうだ。今日は二人に提案があるんだ」
「う?」
響玄はにこりと微笑み庭に目をやった。庭はとても広く、木々が鬱蒼としていて小さな林のようだ。
「お前たちそこに引っ越して来ないか」
「え? 庭に?」
「ああ。今の家よりも人の賑わいはうるさいだろうが、店と家を通らねば入れないから安全面は今よりもずっと良い。そろそろ植木屋に手入れして貰おうと思ってたんだが、そのままにすれば森のようだろう? そこなら天幕でも生活ができる」
「天幕!?」
がばっと勢いよく立ち上がったのは立珂だ。華理で天幕を楽しんでからというもの、蛍宮でも天幕を張りたがるようになっていた。おそらく響玄もそれに気付いてくれたのだろう。
美星は立珂に座るよう促すとそっと立珂の頭を撫でてくれた。
「井戸も薫衣草畑もあるので立珂様には不便が無いと思いますよ。それに今は私がお役に立てる時かと思います」
「そうなんだよね。立珂は」
「美星さんといっしょがいい!」
「だよな。今の家とどっちがいい?」
「ここがいい! 美星さんといっしょ!」
立珂はぴょんと美星に抱き着いた。いっしょ、いっしょ、と嬉しそうに頬ずりをしている。
立珂が喜ぶのなら薄珂の答えは決まっている。
「決まりだな。よし、立珂。引越しの準備するぞ。動きやすい服にお着替えだ!」
「はあい!」
*
元気いっぱいに走り出す立珂に手を引かれるとそれだけで薄珂の気持ちは幸せになった。
いつもなら抱っこしていくか手を引いていくけれど、今日は立珂の小さな手がとても心強く感じる。
「立珂は服を詰めてくれるか?」
「はあい!」
「お手伝いします」
小屋にある荷物はほぼ立珂の服だ。私物というほどの物はなく、精々食器と食べ物くらいだろう。といっても二人分なので両手で抱えるほどにもならない。
立珂は美星と二人で服を畳み始めたが、んー、と首を傾げている。
「どうした立珂」
「今までの服どうしよう。大きいの着れなくなっちゃった」
「とっておいたらいいんじゃないか? 大きくなれば着れるだろ」
「流行がおわったら着ないよ。今流行の服は今着ないと」
「う、うん? そうか?」
「では配給で配布してはいかがですか? 古着を出す者は多いですよ」
「う? なあにそれ」
「宮廷が国民へ物を提供する場所です。ちょうど昼の配給をしてる頃ですし行ってみましょうか」
立珂はまだ何のことか分かっていないようだったが、一しきり荷物をまとめると美星に抱きかかえられて広場へと向かった。
*
広場へ行くと大勢の人が集まっていた。
全員が大きな机に向かい列を作って並んでいるが、その先にあるのは野菜や肉、菓子類などたくさんの食材だった。弁当の状態で配布されている物もあり、鍋には汁物が入っている。
そこから少し離れた所には衣類が積み重ねてあり、一人一枚ずつ貰っているようだった。
「あれが配給です。収入が無い人に宮廷が配るんですよ」
「これ無料? 運営費ってどこから出てるの? お気持ちでできることじゃないよ」
「それは」
「僕がやりくりしたんだよ」
「浩然様」
「さすが目の付け所が良いや。ねえ美星」
「私に振らないでちょうだい。立珂様。屋台で腸詰を買いましょうか」
「かう!」
美星はつんっと浩然から顔を逸らし、立珂を抱いて一般の屋台へと向かった。
浩然はけらけらと笑っているが、やはり護栄を含めこの三人にはそれなりの過去があるのだろうことは感じられた。
「それで、こんな所で何してるの? 君らは配給必要無いと思うけど」
「着れなくなった服を古着に出そうかと思ったんです。立珂ちっちゃくなったから」
「ああ、なるほどね。でも争奪戦になりそうだよね。不平等になるのは困るかな」
「そっか。そうですよね」
配給をしている机を見ると、その人数は多い。古着に出したい服は十数着だが、列はとても数えられる人数じゃない。
それどころか今既にこちらを見ている者もいる。これでは古着に出すのは難しく思われた。
しかしその一点を見て薄珂はあることを思い立った。
「浩然様。せっかくだしちょっとやってみませんか」
「何を?」
「それはもちろん、護栄様の喜ぶことを」
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