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第五章 多様変遷
第二十三話 麗亜の知る過去(三)
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「話を戻しましょう。私が探してるのは透珂様ではあるんですが、正しくは『現時点の正当な皇太子』です。皇位継承権を持っていたのは透珂殿と薄立殿で、二人には子供がいた。本来ならその子らが次の蛍宮皇となったはず」
「麗亜様も俺がそれと知ってて近付いたんだね」
「いいえ。同じ兄として感銘を受けたからです。これは本当に」
「じゃあ透珂の顔は知らない?」
「知りません。名前が似てるとは思いましたが蛍宮では珍しい名ではない。実際今まで名前を頼りに探して外れを引きっぱなしでしたし。哉珂はどうだか分かりませんが」
麗亜はにやりと笑い、哉珂を見ると面倒くさそうに舌打ちをしている。
哉珂は椅子に座り直すと、んー、と少し考え込んだ。
「まず聞きたいんだが、お前と立珂は誰を親だと認識してる?」
「薄立。でも長老様が俺は透珂の息子で立珂は薄立の子だって言ってた。立珂は涼音にそっくりなんだって」
「立珂殿が涼音殿に? 何ですかそれは。その長老とは誰です?」
「牙燕将軍。先々代皇に仕えてた人だよ」
「その方が立珂殿は薄立の子だと? それはおかしい。涼音様は透珂様の奥方。涼音様に似てるなら父親は透珂様のはずですよ」
「浮気したんだろ。夫以外の子を作るなんてよくある話だ」
「哉珂が言うと真実味ありますね」
「ああ、でもそうかもしれない。立珂は生まれた時から一緒なわけじゃないんだ。赤ん坊の頃に父さんが突然連れて来たんだよ」
「連れて来たってどこからだよ。場所は?」
「知らない。父さんはそういうこと何も教えてくれなかったから」
「へえ……」
「薄立様は今どこに? 現時点では薄立殿が正当な皇太子です」
「……多分死んでる。俺達は羽付き狩りに襲われたんだ。俺は立珂だけ連れて逃げた」
「遺体の確認は?」
「してない。天藍が探すって言ってくれてるよ」
はあ、と珍しくだらしのない声を漏らしたのは麗亜だ。麗亜と哉珂は目を見合わせて考え込むと、哉珂はまた椅子にずるずるともたれかかった。
「妙だな」
「すっきりとは噛み合わないね。薄珂殿はどう思います?」
「悪いけど興味無いよ。でも立珂の人生を邪魔する可能性が高いから手は打ちたい。そのために必要なのは過去の真相じゃないんだ」
薄珂は腰に下げていた鞄を開け小さく折りたたんであった紙を取り出した。
それを広げて麗亜の前に差し出すと、麗亜は一瞬驚いたようだったがすぐに声を上げて笑い出した。くつくつと肩を揺らして笑うと、哉珂に目で合図を送り何かを持って来させた。
「奇遇ですね。私も用意してたんですよ」
哉珂が取り出したのもまた紙だった。広げられた紙の左下にはすでに明恭皇の署名もされている。
「商談を始めましょう」
これは国の名を背負った紙――契約書だった。
「麗亜様も俺がそれと知ってて近付いたんだね」
「いいえ。同じ兄として感銘を受けたからです。これは本当に」
「じゃあ透珂の顔は知らない?」
「知りません。名前が似てるとは思いましたが蛍宮では珍しい名ではない。実際今まで名前を頼りに探して外れを引きっぱなしでしたし。哉珂はどうだか分かりませんが」
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「まず聞きたいんだが、お前と立珂は誰を親だと認識してる?」
「薄立。でも長老様が俺は透珂の息子で立珂は薄立の子だって言ってた。立珂は涼音にそっくりなんだって」
「立珂殿が涼音殿に? 何ですかそれは。その長老とは誰です?」
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「ああ、でもそうかもしれない。立珂は生まれた時から一緒なわけじゃないんだ。赤ん坊の頃に父さんが突然連れて来たんだよ」
「連れて来たってどこからだよ。場所は?」
「知らない。父さんはそういうこと何も教えてくれなかったから」
「へえ……」
「薄立様は今どこに? 現時点では薄立殿が正当な皇太子です」
「……多分死んでる。俺達は羽付き狩りに襲われたんだ。俺は立珂だけ連れて逃げた」
「遺体の確認は?」
「してない。天藍が探すって言ってくれてるよ」
はあ、と珍しくだらしのない声を漏らしたのは麗亜だ。麗亜と哉珂は目を見合わせて考え込むと、哉珂はまた椅子にずるずるともたれかかった。
「妙だな」
「すっきりとは噛み合わないね。薄珂殿はどう思います?」
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それを広げて麗亜の前に差し出すと、麗亜は一瞬驚いたようだったがすぐに声を上げて笑い出した。くつくつと肩を揺らして笑うと、哉珂に目で合図を送り何かを持って来させた。
「奇遇ですね。私も用意してたんですよ」
哉珂が取り出したのもまた紙だった。広げられた紙の左下にはすでに明恭皇の署名もされている。
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