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第五章 多様変遷
第十九話 華理(一)
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立珂の着替えが終わると、美星は世話になる宮廷侍女へ挨拶するため天藍と共に宮廷へ向かった。
そして薄珂達は港を出ると、哉珂の案内で国内を見て回った。しかし街中よりも先に連れて来てくれたのは華理の大自然だった。森林公園と銘打たれていたが、その中は完全に森だった。
そして入った途端、立珂がびょんっと飛び上がった。
「きゃ―――――――――――――――――――――――!」
「落ち着け立珂。落ち着け」
「川だ! はいる!」
立珂は爆発したように走り出した。止める間もなく慶都と二人で川へ飛び込みきゃあきゃあとはしゃぎ続けている。
「待て待て立珂ちょっと待て! 入っていいか確かめてからだ!」
「大丈夫だ薄珂。ここは有翼人の子供の遊び場だ」
「え?」
問題無い、と断言したのは哉珂ではなく慶都だ。慶都は川の付近を指差すと、警備と思われる大人が子供達を見守っていた。川の一部には柵で囲われている場所もあり、そこは『深い! 入ちゃだめ!』と子供がおぼれている絵が描いてある。そこにも警備が立っていて、子供が安全に遊べる体勢が整っているようだった。
よく見れば周りにも子供がいて、立珂ほどではないが嬉しそうに遊んでいる。
「よく分かったな、慶都」
「警備体制ってのはどの国も基本的には変わらないんだ。立珂! 俺も遊ぶ!」
慶都はけろりと言って立珂を追いかけた。薄珂は気付いてもいなかったことを教えられ、哉珂も驚いている。
それからしばらく立珂と慶都は川で遊び続け、数十分すると立珂がびしょ濡れのまま飛びついてきた。お腹がぐうぐうと音を立てていて、立珂は恥ずかしそうに笑っている。
「腸詰食べるか」
「うん!」
薄珂は美星が作ってくれた弁当を開け、その中から腸詰をつまんで立珂の口元に運んだ。いつも通り立珂はぱくりと頬張り、二本三本とどんどん食べていく。遊んだ分だけお腹が空いたのか、いつもより食べる速度が速い。
「立珂は水鳥の血が入ってるのかもな。どの辺が気に入ったんだ?」
「前いた森にそっくりなの! あのへんに天幕はるとそっくり!」
「森――……」
立珂が嬉しそうに指差した先は大きな木だった。
薄珂はあまり気にして見ていなかったが、言われれば記憶にある景色によく似ている。
「本当だ。木が同じだ」
「お前達どこに住んでたんだ?」
「場所は分からない。けど多分東。断崖絶壁で高いとこだよ」
「崖なら深都あたりかもな。気候も植物もここと似てる」
「このはっぱ知ってる! 夏にしろいおはながさくやつ! これも知ってる! おいしいやつ!」
立珂はつんつんと自生している植物を突いて慶都に説明していった。森では当然自給自足だった。畑を作っていたが、自生している植物も食べていた。蛍宮では見なかったのでそんな食生活は忘れていたが、立珂は後で食べようと引っこ抜いて集めている。
(蛍宮でも森を喜んでた。やっぱり森に帰りたいのか)
薄珂達は好きで森を出たわけではない。命を狙われ仕方なくだ。里に居着くつもりだったが、結局それも危険だと分かり蛍宮へ移住した。
そうしてようやく穏やかな日々を手に入れたが、今度は犯罪や政治的問題に巻き込まれている。
結局のところどこにいても危険がある。立珂は蛍宮で病気にもなった。それが良くなったのは慶都を始め護栄や美星など、立珂を愛してくれる人たちのおかげであり、蛍宮という国自体が何をしてくれたわけでもない。
立珂は植物と土にまみれてはしゃいでいる。水浴びをしなければいけないだろうが、ここならいつでもできる。人目を気にする必要もない。
眩しい笑顔に魅入っているいると、あ、と立珂が驚き両手を振って呼びかけてきた。
「薄珂! あそこ天幕はってる!」
「天幕?」
「居住区だな。あの柵の向こうは住むための場所なんだ」
「森に住めるの!?」
「住めるも何も、華理は土地の半分以上が森林だ。自分で開拓しない限り森住まいしかできない。川が多いから飲み水も風呂も全部川だ」
「すごい。有翼人の天国みたいだ」
「だから華理は有翼人の数が増えたんだ。立珂。家を見に行くか?」
「いくぅ!」
立珂はまたぴょんぴょんと飛び跳ねて、はやくはやくと薄珂の手を引き走り始めた。
そして薄珂達は港を出ると、哉珂の案内で国内を見て回った。しかし街中よりも先に連れて来てくれたのは華理の大自然だった。森林公園と銘打たれていたが、その中は完全に森だった。
そして入った途端、立珂がびょんっと飛び上がった。
「きゃ―――――――――――――――――――――――!」
「落ち着け立珂。落ち着け」
「川だ! はいる!」
立珂は爆発したように走り出した。止める間もなく慶都と二人で川へ飛び込みきゃあきゃあとはしゃぎ続けている。
「待て待て立珂ちょっと待て! 入っていいか確かめてからだ!」
「大丈夫だ薄珂。ここは有翼人の子供の遊び場だ」
「え?」
問題無い、と断言したのは哉珂ではなく慶都だ。慶都は川の付近を指差すと、警備と思われる大人が子供達を見守っていた。川の一部には柵で囲われている場所もあり、そこは『深い! 入ちゃだめ!』と子供がおぼれている絵が描いてある。そこにも警備が立っていて、子供が安全に遊べる体勢が整っているようだった。
よく見れば周りにも子供がいて、立珂ほどではないが嬉しそうに遊んでいる。
「よく分かったな、慶都」
「警備体制ってのはどの国も基本的には変わらないんだ。立珂! 俺も遊ぶ!」
慶都はけろりと言って立珂を追いかけた。薄珂は気付いてもいなかったことを教えられ、哉珂も驚いている。
それからしばらく立珂と慶都は川で遊び続け、数十分すると立珂がびしょ濡れのまま飛びついてきた。お腹がぐうぐうと音を立てていて、立珂は恥ずかしそうに笑っている。
「腸詰食べるか」
「うん!」
薄珂は美星が作ってくれた弁当を開け、その中から腸詰をつまんで立珂の口元に運んだ。いつも通り立珂はぱくりと頬張り、二本三本とどんどん食べていく。遊んだ分だけお腹が空いたのか、いつもより食べる速度が速い。
「立珂は水鳥の血が入ってるのかもな。どの辺が気に入ったんだ?」
「前いた森にそっくりなの! あのへんに天幕はるとそっくり!」
「森――……」
立珂が嬉しそうに指差した先は大きな木だった。
薄珂はあまり気にして見ていなかったが、言われれば記憶にある景色によく似ている。
「本当だ。木が同じだ」
「お前達どこに住んでたんだ?」
「場所は分からない。けど多分東。断崖絶壁で高いとこだよ」
「崖なら深都あたりかもな。気候も植物もここと似てる」
「このはっぱ知ってる! 夏にしろいおはながさくやつ! これも知ってる! おいしいやつ!」
立珂はつんつんと自生している植物を突いて慶都に説明していった。森では当然自給自足だった。畑を作っていたが、自生している植物も食べていた。蛍宮では見なかったのでそんな食生活は忘れていたが、立珂は後で食べようと引っこ抜いて集めている。
(蛍宮でも森を喜んでた。やっぱり森に帰りたいのか)
薄珂達は好きで森を出たわけではない。命を狙われ仕方なくだ。里に居着くつもりだったが、結局それも危険だと分かり蛍宮へ移住した。
そうしてようやく穏やかな日々を手に入れたが、今度は犯罪や政治的問題に巻き込まれている。
結局のところどこにいても危険がある。立珂は蛍宮で病気にもなった。それが良くなったのは慶都を始め護栄や美星など、立珂を愛してくれる人たちのおかげであり、蛍宮という国自体が何をしてくれたわけでもない。
立珂は植物と土にまみれてはしゃいでいる。水浴びをしなければいけないだろうが、ここならいつでもできる。人目を気にする必要もない。
眩しい笑顔に魅入っているいると、あ、と立珂が驚き両手を振って呼びかけてきた。
「薄珂! あそこ天幕はってる!」
「天幕?」
「居住区だな。あの柵の向こうは住むための場所なんだ」
「森に住めるの!?」
「住めるも何も、華理は土地の半分以上が森林だ。自分で開拓しない限り森住まいしかできない。川が多いから飲み水も風呂も全部川だ」
「すごい。有翼人の天国みたいだ」
「だから華理は有翼人の数が増えたんだ。立珂。家を見に行くか?」
「いくぅ!」
立珂はまたぴょんぴょんと飛び跳ねて、はやくはやくと薄珂の手を引き走り始めた。
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