人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

文字の大きさ
上 下
293 / 356
第五章 多様変遷

第十五話 閃里の違和感(一)

しおりを挟む
 約束通り、閃里とその部下数名を連れて有翼人保護区へやって来た。
 天藍と護栄、浩然も誘ったのだが物々しくなるので同行しない方が良いだろうと断られたが、立珂は閃里だけいればそれでいいと笑っていた。結局いつも通り美星と、保護区の様子見も兼ねて響玄も参加してくれた。もちろん慶都も連れて、ならば料理を担当しようと母の白那も付いて来てくれた。
 仲の良い人がたくさん集まってくれて、立珂はにこにこと満面の笑みだ。
 そして有翼人保護区に入ると、立珂はきゃあと叫んではしりだした。

「みんなー!」
「まあまあ。立珂様」
「りっかちゃんだ!」
「あそびにきたよー!」

 立珂はぴょんと有翼人の子供と抱き合った。有翼人保護区ができあがり、想像以上に子供が多いことを知った。
 全種族平等を謳ってはいるが、もし万が一迫害を受けたら子供は対処ができない。親世代は有翼人狩りを経験している者も多いので外出を控える傾向にあったという。
 だが立珂の活躍により有翼人保護区は安全だと伝わり、子供もどんどん外へ出てきたのだ。立珂も同じ歳頃の有翼人と友達になれたことを喜び、よく遊びに来るようになっている。
 立珂は閃里の手を握ると、みんなの前にぐいぐいと引っ張り出した。

「このひとがせんりさまだよ! 薄珂をたすけてくれたの!」
「ええ、ええ。聞いていますとも。閃里様、本当に有難う御座いました」
「ん? あなたはこの子らの親族か?」
「いいえ。でも立珂様と薄珂様は我ら有翼人の大切な方ですもの。有難う御座いました」

 立珂と閃里の周りにはあっという間に人が集まり、想像以上の人数に閃里も部下数名もおろおろと困り果てている。自分達は何もしていないと真実を告げているが、それも謙虚で思いやりがあると捕らえられている。
 気が付けば広場に輪ができ、大勢での野外食事会が始まっていた。立珂が閃里と部下達の前を歩いて回り。麺麭と食材を何にするか相談し立珂が挟むという流れだ。立珂の隣には美星と、美星が食材を詰めてくれた籠を持った慶都がいる。

「おにーさんは肉食獣人なんだよね。じゃあおにくいっぱい!」
「駄目だ。肉食獣人にはお野菜いっぱいがいいぞ」
「でもお肉食べたいよ」
「栄養が偏るんだ。獣人も半分は人間だろ? 人間の部分は肉以外の栄養も必要なんだ。本能のままに食べてちゃ駄目なんだ」
「……う?」
「健康でいるためには何でも食べようってことだ。みんな元気がいいだろ? なら肉以外も入れてあげなきゃいけないんだ」
「けんこう! うん! じゃあ葉っぱも!」
「立珂も食べるんだぞ。立珂が元気じゃないとみんな悲しいからな」
「うん! たべる!」

 慶都の教えに従い、立珂は色々な食材を挟み始めた。彩りが綺麗になると栄養が良いらしいぞ、と慶都はやけに詳しい話を始めていた。
 立珂は何だか分からないようだったが、薄珂もこういった話は知らなかった。響玄と護栄から学ぶのは政治や商売についてだけなのだ。

「あれおばさんが教えたの?」
「孔雀先生よ。もうずーっと張り付いてたのよ」
「栄養について?」
「肉体作り全般ですって。戦うには腕力が必要で、その為には強靭な肉体が必要――らしいわよ」
「へえ。俺考えたことなかった」
「立珂ちゃんを守れなくて悔しかったのよ。これでちょっとは役に立つんじゃない?」

 慶都を見ると、美星を立珂の真横に立たせ自分は立珂の背後にいた。周辺をちらちら見回しながら立珂とお喋りもし、時折周辺警備の学生に目配せで何か指示を出している様子だった。

(立珂の側にいない時間が増えた。でも自力で受勲し有翼人保護区の警備を任された)

 さらに周辺を見回すと、慶都が決めた宅配拠点と氷の配布拠点があった。そこには有翼人が大勢集まり、下働きと手を繋いで歩いている者もいる。

(宅配が円滑なのは慶都の決めた営業所拠点が的確だったからだ。下働きを生活に密着させることで有翼人の精神的負担が軽くなった。伴侶契約を結んで家族になった人だっている。それも慶都の発案があったからだ)

 有翼人保護区が出来てすぐに区内は活気にあふれた。それは物流が円滑なおかげだった。必要な物はすぐ手に入るので生活には困らないし、一人じゃないから何かに怯えることがあっても心の支えになってくれる。
 対外的な評価は明恭の助力のおかげだとなっているが、有翼人保護区内で讃えられるのは明恭ではなく慶都率いる学生警備隊と下働きだ。だから有翼人保護区では慶都も高い支持を受けている。

(それに立珂を一番に助けてくれてる。役になんて、とっくに立ってる)

 慶都は立珂が大好きなんだと笑ってべったり傍にいてくれる。里にいた時からそれは変わらなくて、変わったのは慶都が身に着けた知識と技術だ。
 薄珂はぐっと拳を握った。自分には持っていない物を幾つも持っている慶都はとても頼もしかった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

リナリアの夢

冴月希衣@商業BL販売中
BL
嶋村乃亜(しまむらのあ)。考古資料館勤務。三十二歳。 研究ひと筋の堅物が本気の恋に落ちた相手は、六歳年下の金髪灰眼のカメラマンでした。 ★花吐き病の設定をお借りして、独自の解釈を加えています。シリアス進行ですが、お気軽に読める短編です。 作中、軽くですが嘔吐表現がありますので、予め、お含みおきください。 ◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。  キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。  苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

あの日の記憶の隅で、君は笑う。

15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。 その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。 唐突に始まります。 身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません! 幸せになってくれな!

それ以上近づかないでください。

ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」 地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。 まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。 転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。 ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。 「本当に可愛い。」 「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」 かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。 「お願いだから、僕にもう近づかないで」

処理中です...