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第五章 多様変遷
第十四話 閃里(一)
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そして数日後、護栄が閃里に約束を取り付けてくれた。
込み入った話になるかもしれないということで、食堂で昼食をするのではなく夜に離宮で開催となった。立珂はちゃんとお礼を言うんだと新作のお洒落着に着替え、もちろん薄珂にもお揃いを用意してくれた。
いざ行かんと護栄に連れられ離宮へ行くと、そこには想像以上に多くの人が集まっていた。
護栄の横には浩然が座っていて、美星は食材の準備係りとして参加している。そして閃里はというと、薄珂も会ったことのない人物が数名連れて来ていた。規定服を見る限りでは全員獣人だ。
どういう人選か分からず、薄珂はこそっと浩然に耳打ちをした。
「誰ですかこの人達」
「立珂のご所望通り、薄珂を助けてくれた閃里殿とそのご友人だよ」
「ご友人は頼んでないんですけど」
「それはまあ護栄様だから」
ちらりと護栄を見るとぱああっと光を飛び散らせるような笑顔で出迎えている。
何かを企んでいるのは一目瞭然で、それは閃里達も感じ取っているようで明らかに警戒している。
「意味無いんじゃ?」
「意味無いと見せかけることが目的なんじゃないかな」
「なんのためにですか?」
「趣味でしょ。多分意味無いよ」
「趣味ですか……」
護栄が無意味なことをするとは思えないが、その腹を読むことなどできはしない。
それは閃里の側とて同じだろう。笑っているのは浩然だけだ。
薄珂にはさっぱりと分からないが、立珂がわくわくと目を輝かせているのならそれを叶えるまでだ。薄珂は挨拶したくてそわそわしている立珂を抱いて一歩前に出た。もう喋っていいぞ、と目配せすると、立珂は大きな丸い目をさらに大きく開けて微笑んだ。
「こんにちは! りっかです! 薄珂をたすけてくれてありがとうございました!」
「薬を作ったのは孔雀医師だ。礼なら彼に言ってくれ」
「いうよ! でも孔雀先生がなおせるっておしえてくれたもの! ありがとう!」
立珂はぎゅうっと薄珂を抱きしめた。うふふと笑って頬ずりをしてくれて、大好きなの、と自慢している。
「座って下さい。今日は立珂殿が皆様をもてなして下さるそうです」
「あのね! 僕がはさむからすきな具えらんでね! みんなはなにがすき?」
立珂は何でもこいと言わんばかりに両手を広げた。にこにこと嬉しそうだが、閃里達からは一言も返ってはこない。
「う?」
きょとんと立珂は首を傾げた。閃里が連れて来た職員達はいぶかし気に立珂を見つめている。
(反天藍派ならまあそうだよな)
薄珂と立珂は対外的には天藍が招いた国の来賓だ。宮廷を出てその立場は無くなったが、万人の認識が変わるわけでは無い。それどころか護栄が積極的に支援し教育までしているということでさらなる価値を見出した者も多い。
つまりいくら無邪気な子供でも天藍と敵対する者にとっては邪魔な存在でしかない。麺麭どうぞ、などと言って一緒に遊んでくれる相手ではないのだ。このままでは立珂は無視され続け悲しい想いをするだろう。
(でも閃里様は俺を欲しがった。なら立珂の機嫌を損ねるのは悪手だ)
ちらりと閃里を見るとぱちりと目線がぶつかった。すると閃里はふっと微笑み、椅子をぐっと前に押して机に身を寄せた。
「せっかくだ。君が選んでくれないか」
「いいよ! せんりさまは獣人? 人間? 有翼人?」
「獣人だが、何か関係あるのか?」
「おあじ! 獣人はちょーみりょーのお味ないほうがすきってきいたの。たまごすき? 食堂のたまごはとってもおいしいの! 麺麭もふかふかだよ!」
立珂は嬉しそうに食材の解説を始めた。特別なお食事なの、と言ったら料理人達が色々と用意してくれた。軽食ではなくちゃんとした一食になるよう料理が揃っている。特に今回最も需要な麺麭は上質で柔らかく、大口を開けてかぶりつかずに食べられるように小さく切ってくれている。
挟める量が少なくてつまらないと立珂は最初口を尖らせたが、自己満足ではなくより良い提供を考えるのが職人だと料理人に教えられ、自分も職人である自覚があるのか、ならこういう切り方が良いとお洒落するように相談をしていたのだ。
その経緯は知らないだろうが、閃里はせっせと挟む立珂を嬉しそうに眺めている。
「はいどーぞ!」
「有難う。さあ、お前達も頼みなさい」
「は、はあ」
閃里に言われ、ようやく他の職員も立珂と話しをし始めた。不満げな顔をしていた者も立珂につられて笑顔になっていく。立珂の笑顔もさらに輝き、薄珂は閃里に小さく頭を下げた。
「有難うございます」
「別にお前に礼を言われることではない。ただ……」
じっと閃里は立珂を見つめた。しかしその目は立珂を通して、その向こうにいる誰かを想っているようにみえる。
込み入った話になるかもしれないということで、食堂で昼食をするのではなく夜に離宮で開催となった。立珂はちゃんとお礼を言うんだと新作のお洒落着に着替え、もちろん薄珂にもお揃いを用意してくれた。
いざ行かんと護栄に連れられ離宮へ行くと、そこには想像以上に多くの人が集まっていた。
護栄の横には浩然が座っていて、美星は食材の準備係りとして参加している。そして閃里はというと、薄珂も会ったことのない人物が数名連れて来ていた。規定服を見る限りでは全員獣人だ。
どういう人選か分からず、薄珂はこそっと浩然に耳打ちをした。
「誰ですかこの人達」
「立珂のご所望通り、薄珂を助けてくれた閃里殿とそのご友人だよ」
「ご友人は頼んでないんですけど」
「それはまあ護栄様だから」
ちらりと護栄を見るとぱああっと光を飛び散らせるような笑顔で出迎えている。
何かを企んでいるのは一目瞭然で、それは閃里達も感じ取っているようで明らかに警戒している。
「意味無いんじゃ?」
「意味無いと見せかけることが目的なんじゃないかな」
「なんのためにですか?」
「趣味でしょ。多分意味無いよ」
「趣味ですか……」
護栄が無意味なことをするとは思えないが、その腹を読むことなどできはしない。
それは閃里の側とて同じだろう。笑っているのは浩然だけだ。
薄珂にはさっぱりと分からないが、立珂がわくわくと目を輝かせているのならそれを叶えるまでだ。薄珂は挨拶したくてそわそわしている立珂を抱いて一歩前に出た。もう喋っていいぞ、と目配せすると、立珂は大きな丸い目をさらに大きく開けて微笑んだ。
「こんにちは! りっかです! 薄珂をたすけてくれてありがとうございました!」
「薬を作ったのは孔雀医師だ。礼なら彼に言ってくれ」
「いうよ! でも孔雀先生がなおせるっておしえてくれたもの! ありがとう!」
立珂はぎゅうっと薄珂を抱きしめた。うふふと笑って頬ずりをしてくれて、大好きなの、と自慢している。
「座って下さい。今日は立珂殿が皆様をもてなして下さるそうです」
「あのね! 僕がはさむからすきな具えらんでね! みんなはなにがすき?」
立珂は何でもこいと言わんばかりに両手を広げた。にこにこと嬉しそうだが、閃里達からは一言も返ってはこない。
「う?」
きょとんと立珂は首を傾げた。閃里が連れて来た職員達はいぶかし気に立珂を見つめている。
(反天藍派ならまあそうだよな)
薄珂と立珂は対外的には天藍が招いた国の来賓だ。宮廷を出てその立場は無くなったが、万人の認識が変わるわけでは無い。それどころか護栄が積極的に支援し教育までしているということでさらなる価値を見出した者も多い。
つまりいくら無邪気な子供でも天藍と敵対する者にとっては邪魔な存在でしかない。麺麭どうぞ、などと言って一緒に遊んでくれる相手ではないのだ。このままでは立珂は無視され続け悲しい想いをするだろう。
(でも閃里様は俺を欲しがった。なら立珂の機嫌を損ねるのは悪手だ)
ちらりと閃里を見るとぱちりと目線がぶつかった。すると閃里はふっと微笑み、椅子をぐっと前に押して机に身を寄せた。
「せっかくだ。君が選んでくれないか」
「いいよ! せんりさまは獣人? 人間? 有翼人?」
「獣人だが、何か関係あるのか?」
「おあじ! 獣人はちょーみりょーのお味ないほうがすきってきいたの。たまごすき? 食堂のたまごはとってもおいしいの! 麺麭もふかふかだよ!」
立珂は嬉しそうに食材の解説を始めた。特別なお食事なの、と言ったら料理人達が色々と用意してくれた。軽食ではなくちゃんとした一食になるよう料理が揃っている。特に今回最も需要な麺麭は上質で柔らかく、大口を開けてかぶりつかずに食べられるように小さく切ってくれている。
挟める量が少なくてつまらないと立珂は最初口を尖らせたが、自己満足ではなくより良い提供を考えるのが職人だと料理人に教えられ、自分も職人である自覚があるのか、ならこういう切り方が良いとお洒落するように相談をしていたのだ。
その経緯は知らないだろうが、閃里はせっせと挟む立珂を嬉しそうに眺めている。
「はいどーぞ!」
「有難う。さあ、お前達も頼みなさい」
「は、はあ」
閃里に言われ、ようやく他の職員も立珂と話しをし始めた。不満げな顔をしていた者も立珂につられて笑顔になっていく。立珂の笑顔もさらに輝き、薄珂は閃里に小さく頭を下げた。
「有難うございます」
「別にお前に礼を言われることではない。ただ……」
じっと閃里は立珂を見つめた。しかしその目は立珂を通して、その向こうにいる誰かを想っているようにみえる。
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