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第五章 多様変遷
第十一話 全てを知る者(一)
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「伴侶? 伴侶っつったか今」
「いや、それは、その」
閃里の高笑いに天藍はたじろいだ。あわあわとおたつく様子を見て思うのは護栄の呆れ顔だ。
はあとため息を吐くと、くいくいと立珂に袖を引かれた。
「ばれちゃだめなんじゃないっけ」
「そのはずなんだけど」
「何でばれちゃだめなんだっけ」
「大人の事情だって護栄様が言ってた」
ふうん、と立珂は首を傾げた。権力を求める醜い争いの中でも変わらない立珂の可愛さだけが救いだ。
侍女は驚いてはいるものの、はたと我に返りささっと再び立珂を守るように傍へ並んでくれる。
「ようやく合点がいった。護栄の奴、何を急に動き始めたかと思ったらそういうことか! 強力な駒を愛情で握ったか!」
「おい!」
「そうだろう! 本人がどう考えようが薄珂の利用価値は高い。護栄め、どこまで用意周到だ!」
「違う! 薄珂は俺が」
「いい加減になさい!」
浩然が護栄を連れて来るまで収集が付かないと思われたが、一括しその場を治めたのは女性だった。
侍女の後ろからしずしずと現れたのは――
「彩寧さん?」
「ふん。何も知らない者は黙っていろ!」
閃里は一瞬彩寧を見たが、眼中にもないのか怒鳴りつけるとすぐに天藍に視線を戻した。
しかし彩寧は怯むことなく閃里と薄珂の間に立ちはだかる。
「薄珂様が透珂様の嫡子であろうことなど、先々代の頃を知る者は皆とっくに気付いておりましたよ」
「え!? そうなの!?」
「はい。立珂様付きの侍女に選ばれたのはそれに気付いた者です」
彩寧はにこりと微笑み侍女達を見やった。侍女は皆、申し訳なさそうに微笑みながらも立珂を守ってくれている。
「馬鹿な。何故何も言わなかった」
「言われなければそんなことも分かりませんか。あの方に相当毒されたご様子ですこと」
「……何だと?」
閃里は天藍を睨むよりも鋭い目つきで彩寧を睨んだ。彩寧はただただ呆れたように深いため息を吐いている。
(あの方?)
彩寧の事情は分からない。これまで共に過ごした中で意味深な素振りをされたことはなかった。ただ侍女が立珂を大切にしてくれていたのは彩寧がそうであることに倣っていたからだ。
有翼人狩りを経験した美星が真っ先に立珂付き侍女となったのも、もしかすれば彩寧が全て察して配慮してくれたからなのかもしれない。
「お下がりなさい。これ以上この子らを巻き込むことは許しません!」
彩寧は手を広げ薄珂を背に庇った。侍女も数名それに並び、薄珂と立珂を守ってくれる。中には若い侍女もいるが、それは今もなお先々代皇の歴史が語り継がれていることを知らしめているようだった。
薄珂はぎゅっと立珂を抱きしめると、よしよしと頭を撫でた。
「お話してくるからちょっと待っててくれ」
「うん!」
「美星さん、立珂見てて」
「承知致しました」
薄珂は立珂を美星に任せると、とんっと彩寧の肩を叩いた。
「彩寧さん、有難う。でも透珂が皇族ってのはなんとなく気付いてたんだ。実は結構前から」
「え?」
「何だと!?」
「いや、それは、その」
閃里の高笑いに天藍はたじろいだ。あわあわとおたつく様子を見て思うのは護栄の呆れ顔だ。
はあとため息を吐くと、くいくいと立珂に袖を引かれた。
「ばれちゃだめなんじゃないっけ」
「そのはずなんだけど」
「何でばれちゃだめなんだっけ」
「大人の事情だって護栄様が言ってた」
ふうん、と立珂は首を傾げた。権力を求める醜い争いの中でも変わらない立珂の可愛さだけが救いだ。
侍女は驚いてはいるものの、はたと我に返りささっと再び立珂を守るように傍へ並んでくれる。
「ようやく合点がいった。護栄の奴、何を急に動き始めたかと思ったらそういうことか! 強力な駒を愛情で握ったか!」
「おい!」
「そうだろう! 本人がどう考えようが薄珂の利用価値は高い。護栄め、どこまで用意周到だ!」
「違う! 薄珂は俺が」
「いい加減になさい!」
浩然が護栄を連れて来るまで収集が付かないと思われたが、一括しその場を治めたのは女性だった。
侍女の後ろからしずしずと現れたのは――
「彩寧さん?」
「ふん。何も知らない者は黙っていろ!」
閃里は一瞬彩寧を見たが、眼中にもないのか怒鳴りつけるとすぐに天藍に視線を戻した。
しかし彩寧は怯むことなく閃里と薄珂の間に立ちはだかる。
「薄珂様が透珂様の嫡子であろうことなど、先々代の頃を知る者は皆とっくに気付いておりましたよ」
「え!? そうなの!?」
「はい。立珂様付きの侍女に選ばれたのはそれに気付いた者です」
彩寧はにこりと微笑み侍女達を見やった。侍女は皆、申し訳なさそうに微笑みながらも立珂を守ってくれている。
「馬鹿な。何故何も言わなかった」
「言われなければそんなことも分かりませんか。あの方に相当毒されたご様子ですこと」
「……何だと?」
閃里は天藍を睨むよりも鋭い目つきで彩寧を睨んだ。彩寧はただただ呆れたように深いため息を吐いている。
(あの方?)
彩寧の事情は分からない。これまで共に過ごした中で意味深な素振りをされたことはなかった。ただ侍女が立珂を大切にしてくれていたのは彩寧がそうであることに倣っていたからだ。
有翼人狩りを経験した美星が真っ先に立珂付き侍女となったのも、もしかすれば彩寧が全て察して配慮してくれたからなのかもしれない。
「お下がりなさい。これ以上この子らを巻き込むことは許しません!」
彩寧は手を広げ薄珂を背に庇った。侍女も数名それに並び、薄珂と立珂を守ってくれる。中には若い侍女もいるが、それは今もなお先々代皇の歴史が語り継がれていることを知らしめているようだった。
薄珂はぎゅっと立珂を抱きしめると、よしよしと頭を撫でた。
「お話してくるからちょっと待っててくれ」
「うん!」
「美星さん、立珂見てて」
「承知致しました」
薄珂は立珂を美星に任せると、とんっと彩寧の肩を叩いた。
「彩寧さん、有難う。でも透珂が皇族ってのはなんとなく気付いてたんだ。実は結構前から」
「え?」
「何だと!?」
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