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第五章 多様変遷
第十話 衝突(一)
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薄珂が倒れてから五日ほどが経過した。
その間立珂は付きっ切りで、一日ずっと薄珂を抱きしめてくれていた。孔雀が言う通り眠ることが多く、最初は一日三回の薬と食事以外はほぼ眠っていた。今は普段通りに戻り、やたらと動き回ったり運動をしなければ一日普通に過ごすことができている。
だが立珂は薄珂から離れようとしなかった。薄珂が目を覚ますと腕の中には必ず立珂がいて、にこにこと愛らしい笑顔を見せてくれている。
「おはよう薄珂! おくすりのもう!」
「おはよう。飲ませてくれるか?」
「うん! ちゅってするよ!」
「ん」
立珂は手早く薬の瓶を手に取った。孔雀が数日分まとめて作り小分けにし、これを朝昼晩と立珂の口移しで飲んでいる。
赤ん坊の頃から立珂の具合が悪くなるとこうして薬を飲ませたり食事をさせていた。しかし鳥としての本能なのか、立珂の可愛さも相まって口移しは薄珂を癒してくれた。
「立珂の羽根は薬にもなるんだな。すごいな」
「そうだよ。だから薄珂はずっと僕と一緒にいなきゃ駄目だよ」
「羽がなくても一緒じゃなきゃ駄目だ」
「そうだね。そうだよ。いっしょだよ」
薄珂はぎゅっと立珂を抱きしめ、立珂もぎゅうぎゅうと抱き返してくれた。
「立珂のおかげでもう元気だ。仕事もできそうだけど」
「駄目ですよ。殿下から休むよう言われているでしょう」
「美星さん。おはよう」
「おはようございます。仕事仕事とそんなところまで護栄様に倣わなくていいんですよ。疲労で吐血なんて無理をしている証拠です」
「あはは」
美星は立珂と共に付きっ切りで看病をしてくれている。薄珂の症状については、慣れない仕事で疲れたのだろうという説明がされた。しかし実際はそうではない。
(言えないよな。鳥獣人の成長期の初期症状だなんて)
これは養父薄立から教わった数少ない獣人の知識だった。
獣人は人間と獣体の差異が大きければ大きいほど成長期で体内の変化が大きいらしいが、ほぼすべての獣人にあることだ。
(さすがに血を吐くとは思ってなかった。やっぱり公佗児は身体が大きいからかな)
駆けつけた孔雀は慌てていたけれど、慶真は全く驚いていなかった。それどころかおめでとうと祝ってくれた。
何でも、これは獣人としての異物を体内から取り除いているところらしい。特に鳥獣人は空を飛ぶという生物の中でも特異な種だ。成長期による身体の変化がどの獣種よりも強いらしく、吐血は珍しくないらしい。
(不要物を外に出してるんだっけ。何も吐血じゃなくてもいいのに)
獣人に育てられていない薄珂は自分のことすらよく分からない。けれど慶真と白那がよかったよかったと笑ってくれて、立珂も泣きながら安心していた。
特に寝込まなければいけないことではないらしいけれど、美星と響玄は薄珂が獣人であることを知らないから説明もできていない。だからこうして付きっ切りで心配してくれている。
(響玄先生と美星さんには言っておかなきゃいけないのかもしれない。でも……)
まだその決心ができずにいた。どこで公佗児獣人とばれて狙われることになるか分からないし、今度は皇族問題まで出て来てしまった。
(下手に巻き込みたくない。もう少し様子を見よう)
美星を見ると、立珂が不安にならないように気を配ってくれているのだろう、すぐ良くなりますよ、と微笑んでくれている。
他にも、天藍はもちろん護栄や玲章も見舞いに来てくれている。こんな風にして貰うことは初めてで気恥ずかしかったが、一つだけ気になることがあった。
「孔雀先生今日も忙しいって?」
「ええ。獣人保護区の方が色々あるようで」
「そっか。全然お礼言えないや」
「そのうちお会いできますよ。それより侍女が皆心配していましたよ。起きて大丈夫なら顔を見せてやって下さいませ」
「有難う。よし、じゃ皆のとこ行くか」
「いくー! ちっちゃくなってからあってない人にあいたい!」
その間立珂は付きっ切りで、一日ずっと薄珂を抱きしめてくれていた。孔雀が言う通り眠ることが多く、最初は一日三回の薬と食事以外はほぼ眠っていた。今は普段通りに戻り、やたらと動き回ったり運動をしなければ一日普通に過ごすことができている。
だが立珂は薄珂から離れようとしなかった。薄珂が目を覚ますと腕の中には必ず立珂がいて、にこにこと愛らしい笑顔を見せてくれている。
「おはよう薄珂! おくすりのもう!」
「おはよう。飲ませてくれるか?」
「うん! ちゅってするよ!」
「ん」
立珂は手早く薬の瓶を手に取った。孔雀が数日分まとめて作り小分けにし、これを朝昼晩と立珂の口移しで飲んでいる。
赤ん坊の頃から立珂の具合が悪くなるとこうして薬を飲ませたり食事をさせていた。しかし鳥としての本能なのか、立珂の可愛さも相まって口移しは薄珂を癒してくれた。
「立珂の羽根は薬にもなるんだな。すごいな」
「そうだよ。だから薄珂はずっと僕と一緒にいなきゃ駄目だよ」
「羽がなくても一緒じゃなきゃ駄目だ」
「そうだね。そうだよ。いっしょだよ」
薄珂はぎゅっと立珂を抱きしめ、立珂もぎゅうぎゅうと抱き返してくれた。
「立珂のおかげでもう元気だ。仕事もできそうだけど」
「駄目ですよ。殿下から休むよう言われているでしょう」
「美星さん。おはよう」
「おはようございます。仕事仕事とそんなところまで護栄様に倣わなくていいんですよ。疲労で吐血なんて無理をしている証拠です」
「あはは」
美星は立珂と共に付きっ切りで看病をしてくれている。薄珂の症状については、慣れない仕事で疲れたのだろうという説明がされた。しかし実際はそうではない。
(言えないよな。鳥獣人の成長期の初期症状だなんて)
これは養父薄立から教わった数少ない獣人の知識だった。
獣人は人間と獣体の差異が大きければ大きいほど成長期で体内の変化が大きいらしいが、ほぼすべての獣人にあることだ。
(さすがに血を吐くとは思ってなかった。やっぱり公佗児は身体が大きいからかな)
駆けつけた孔雀は慌てていたけれど、慶真は全く驚いていなかった。それどころかおめでとうと祝ってくれた。
何でも、これは獣人としての異物を体内から取り除いているところらしい。特に鳥獣人は空を飛ぶという生物の中でも特異な種だ。成長期による身体の変化がどの獣種よりも強いらしく、吐血は珍しくないらしい。
(不要物を外に出してるんだっけ。何も吐血じゃなくてもいいのに)
獣人に育てられていない薄珂は自分のことすらよく分からない。けれど慶真と白那がよかったよかったと笑ってくれて、立珂も泣きながら安心していた。
特に寝込まなければいけないことではないらしいけれど、美星と響玄は薄珂が獣人であることを知らないから説明もできていない。だからこうして付きっ切りで心配してくれている。
(響玄先生と美星さんには言っておかなきゃいけないのかもしれない。でも……)
まだその決心ができずにいた。どこで公佗児獣人とばれて狙われることになるか分からないし、今度は皇族問題まで出て来てしまった。
(下手に巻き込みたくない。もう少し様子を見よう)
美星を見ると、立珂が不安にならないように気を配ってくれているのだろう、すぐ良くなりますよ、と微笑んでくれている。
他にも、天藍はもちろん護栄や玲章も見舞いに来てくれている。こんな風にして貰うことは初めてで気恥ずかしかったが、一つだけ気になることがあった。
「孔雀先生今日も忙しいって?」
「ええ。獣人保護区の方が色々あるようで」
「そっか。全然お礼言えないや」
「そのうちお会いできますよ。それより侍女が皆心配していましたよ。起きて大丈夫なら顔を見せてやって下さいませ」
「有難う。よし、じゃ皆のとこ行くか」
「いくー! ちっちゃくなってからあってない人にあいたい!」
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