275 / 356
第五章 多様変遷
第七話 隠れ里の住民との再会(一)
しおりを挟む
獣人の隠れ里から全住人がやって来る日になった。
薄珂と立珂は引越しの手伝いをすることになっていて、港で到着を待つことにした。里の獣人の出迎えとなれば、当然参加者はもう一人いる。
「慶都ー!」
「立珂!」
港に着くと、先に着いていた慶都に向かって立珂は駆けだした。
薄珂がぎりぎりと歯ぎしりしているのに気付いているのかいないのか、二人はぎゅうぎゅうと抱き合いじゃれている。
「立珂の服新しいな!」
「よく分かったね! そうだよ。美星さんが作ってくれたんだ!」
「やっぱり立珂は黄色が似合うな。すごく可愛いぞ!」
立珂が笑顔ならそれだけで薄珂も幸せだしそれが望みだ。けれど大事な弟を取られるのは悔しいものだ。
「薄珂様。歯ぎしりは歯並びが悪くなりますよ」
「ぐぬぬ」
微笑ましそうに笑いながら、共に立珂を見守ってくれているのは美星だ。本来は宮廷侍女の仕事があるはずだが、立珂が成長期になってからは必ず側について来てくれている。
美星は立珂のはしゃぐ姿を嬉しそうに見ているが、やはり薄珂は複雑だ。
しかし立珂の笑顔はこの世の何よりも優先される。悔しさをかみ殺しながら何とか耐えていると、ふと薄珂の視界が揺れた。
「薄珂様!?」
「あれ……?」
「大丈夫ですか! どうなさったんです!?」
眩暈がして座り込んだことに気付いたのは美星に支えられてからだった。
少しの間視界がぐらついたが、薄珂はすぐに立ち上がった。
「ごめん。立ち眩み」
「具合がお悪いのですか? なら無理せずお休みになられて下さい」
「ううん。全然なんでも無い」
「そんな」
「本当に大丈夫だよ。立珂を取られて悔しかっただけ」
「……ならよろしいのですが」
美星は心配そうにしてくれていたけれど、眩暈がしただけで気分が悪いというようなことはなかった。
そんなことよりも立珂を抱っこできないことのほうがよっぽど問題だった。慶都とじゃれてる姿をじっと見つめていると、そこに一人の男性がやって来た。
「慶都。皆の案内が先ですよ」
「あ、とーちゃんいたの。お帰り」
「ついでですか……」
ため息を吐いて慶都を撫でたのは父親の慶真だ。その後ろでは慶都の母、白那がくすくすと笑っている。
「慶都も手伝いなさい。皆の荷物を持って」
「はーい! 立珂は美星さんと待ってるんだぞ!」
里最後の移住者は三家族、大人六名と子供四人の計十名だ。大人は期待より警戒してる者がほとんどだったが、それでも移住に踏み切ったのは里を守り続けた慶真の存在が大きいようで、皆を安心させるためここ数日慶真は里で生活をしていた。
けれど移住を楽しみにしていた者もいる。それが子供達だ。
「薄珂! 立珂!」
「烙玲! 錐漣!」
「おー……お? 立珂? 立珂だよな」
「ちっちゃくなった~」
「有翼人の成長期って一度ちっちゃくなるんだって」
「へー。でも立珂だな」
「うにゅ」
二人は立珂の頬をつんつんと突いてあははと笑った。
今回の子供四人のうち二名は烙玲と錐漣だ。二人は里を守るため訓練をされていて、最後まで長老である牙燕と共に遺っていた。
二人は薄珂が金剛と黒曜に掴まった時に活躍をした子供達だ。野生の獣と会話ができ動かすことができるという特殊な能力を持ち、宮廷へ来ないかと護栄に目を付けられている。薄珂は里にいた頃から仲良しというほどではないが、荒事に慣れ牙燕将軍という政治的立場を踏まえているので話しやすい相手ではあった。
慶都も久しぶりに会う里の面々との再会を喜んでいる。最近は大人顔負けの活躍を見ることが多かったが、こうしていると素っ裸で走り回っていたころを思い出させる。それが嬉しいのか、慶真はくすりと笑うと薄珂に顔を向けた。
「薄珂君。入居手続きが終わるまで子供達をお願いできますか」
「うん。獣人保護区の広場で遊んでるよ」
「よろしくお願いします」
薄珂と立珂は引越しの手伝いをすることになっていて、港で到着を待つことにした。里の獣人の出迎えとなれば、当然参加者はもう一人いる。
「慶都ー!」
「立珂!」
港に着くと、先に着いていた慶都に向かって立珂は駆けだした。
薄珂がぎりぎりと歯ぎしりしているのに気付いているのかいないのか、二人はぎゅうぎゅうと抱き合いじゃれている。
「立珂の服新しいな!」
「よく分かったね! そうだよ。美星さんが作ってくれたんだ!」
「やっぱり立珂は黄色が似合うな。すごく可愛いぞ!」
立珂が笑顔ならそれだけで薄珂も幸せだしそれが望みだ。けれど大事な弟を取られるのは悔しいものだ。
「薄珂様。歯ぎしりは歯並びが悪くなりますよ」
「ぐぬぬ」
微笑ましそうに笑いながら、共に立珂を見守ってくれているのは美星だ。本来は宮廷侍女の仕事があるはずだが、立珂が成長期になってからは必ず側について来てくれている。
美星は立珂のはしゃぐ姿を嬉しそうに見ているが、やはり薄珂は複雑だ。
しかし立珂の笑顔はこの世の何よりも優先される。悔しさをかみ殺しながら何とか耐えていると、ふと薄珂の視界が揺れた。
「薄珂様!?」
「あれ……?」
「大丈夫ですか! どうなさったんです!?」
眩暈がして座り込んだことに気付いたのは美星に支えられてからだった。
少しの間視界がぐらついたが、薄珂はすぐに立ち上がった。
「ごめん。立ち眩み」
「具合がお悪いのですか? なら無理せずお休みになられて下さい」
「ううん。全然なんでも無い」
「そんな」
「本当に大丈夫だよ。立珂を取られて悔しかっただけ」
「……ならよろしいのですが」
美星は心配そうにしてくれていたけれど、眩暈がしただけで気分が悪いというようなことはなかった。
そんなことよりも立珂を抱っこできないことのほうがよっぽど問題だった。慶都とじゃれてる姿をじっと見つめていると、そこに一人の男性がやって来た。
「慶都。皆の案内が先ですよ」
「あ、とーちゃんいたの。お帰り」
「ついでですか……」
ため息を吐いて慶都を撫でたのは父親の慶真だ。その後ろでは慶都の母、白那がくすくすと笑っている。
「慶都も手伝いなさい。皆の荷物を持って」
「はーい! 立珂は美星さんと待ってるんだぞ!」
里最後の移住者は三家族、大人六名と子供四人の計十名だ。大人は期待より警戒してる者がほとんどだったが、それでも移住に踏み切ったのは里を守り続けた慶真の存在が大きいようで、皆を安心させるためここ数日慶真は里で生活をしていた。
けれど移住を楽しみにしていた者もいる。それが子供達だ。
「薄珂! 立珂!」
「烙玲! 錐漣!」
「おー……お? 立珂? 立珂だよな」
「ちっちゃくなった~」
「有翼人の成長期って一度ちっちゃくなるんだって」
「へー。でも立珂だな」
「うにゅ」
二人は立珂の頬をつんつんと突いてあははと笑った。
今回の子供四人のうち二名は烙玲と錐漣だ。二人は里を守るため訓練をされていて、最後まで長老である牙燕と共に遺っていた。
二人は薄珂が金剛と黒曜に掴まった時に活躍をした子供達だ。野生の獣と会話ができ動かすことができるという特殊な能力を持ち、宮廷へ来ないかと護栄に目を付けられている。薄珂は里にいた頃から仲良しというほどではないが、荒事に慣れ牙燕将軍という政治的立場を踏まえているので話しやすい相手ではあった。
慶都も久しぶりに会う里の面々との再会を喜んでいる。最近は大人顔負けの活躍を見ることが多かったが、こうしていると素っ裸で走り回っていたころを思い出させる。それが嬉しいのか、慶真はくすりと笑うと薄珂に顔を向けた。
「薄珂君。入居手続きが終わるまで子供達をお願いできますか」
「うん。獣人保護区の広場で遊んでるよ」
「よろしくお願いします」
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。

ニケの宿
水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。
しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。
異なる種族同士の、共同生活。
※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。
キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。
苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

あの日の記憶の隅で、君は笑う。
15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。
その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。
唐突に始まります。
身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません!
幸せになってくれな!

拝啓お父様。私は野良魔王を拾いました。ちゃんとお世話するので飼ってよいでしょうか?
ミクリ21
BL
ある日、ルーゼンは野良魔王を拾った。
ルーゼンはある理由から、領地で家族とは離れて暮らしているのだ。
そして、父親に手紙で野良魔王を飼っていいかを伺うのだった。

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる