人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第五章 多様変遷

第七話 隠れ里の住民との再会(一)

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 獣人の隠れ里から全住人がやって来る日になった。
 薄珂と立珂は引越しの手伝いをすることになっていて、港で到着を待つことにした。里の獣人の出迎えとなれば、当然参加者はもう一人いる。

「慶都ー!」
「立珂!」

 港に着くと、先に着いていた慶都に向かって立珂は駆けだした。
 薄珂がぎりぎりと歯ぎしりしているのに気付いているのかいないのか、二人はぎゅうぎゅうと抱き合いじゃれている。

「立珂の服新しいな!」
「よく分かったね! そうだよ。美星さんが作ってくれたんだ!」
「やっぱり立珂は黄色が似合うな。すごく可愛いぞ!」

 立珂が笑顔ならそれだけで薄珂も幸せだしそれが望みだ。けれど大事な弟を取られるのは悔しいものだ。

「薄珂様。歯ぎしりは歯並びが悪くなりますよ」
「ぐぬぬ」

 微笑ましそうに笑いながら、共に立珂を見守ってくれているのは美星だ。本来は宮廷侍女の仕事があるはずだが、立珂が成長期になってからは必ず側について来てくれている。
 美星は立珂のはしゃぐ姿を嬉しそうに見ているが、やはり薄珂は複雑だ。
 しかし立珂の笑顔はこの世の何よりも優先される。悔しさをかみ殺しながら何とか耐えていると、ふと薄珂の視界が揺れた。

「薄珂様!?」
「あれ……?」
「大丈夫ですか! どうなさったんです!?」

 眩暈がして座り込んだことに気付いたのは美星に支えられてからだった。
 少しの間視界がぐらついたが、薄珂はすぐに立ち上がった。

「ごめん。立ち眩み」
「具合がお悪いのですか? なら無理せずお休みになられて下さい」
「ううん。全然なんでも無い」
「そんな」
「本当に大丈夫だよ。立珂を取られて悔しかっただけ」
「……ならよろしいのですが」

 美星は心配そうにしてくれていたけれど、眩暈がしただけで気分が悪いというようなことはなかった。
 そんなことよりも立珂を抱っこできないことのほうがよっぽど問題だった。慶都とじゃれてる姿をじっと見つめていると、そこに一人の男性がやって来た。

「慶都。皆の案内が先ですよ」
「あ、とーちゃんいたの。お帰り」
「ついでですか……」

 ため息を吐いて慶都を撫でたのは父親の慶真だ。その後ろでは慶都の母、白那がくすくすと笑っている。

「慶都も手伝いなさい。皆の荷物を持って」
「はーい! 立珂は美星さんと待ってるんだぞ!」

 里最後の移住者は三家族、大人六名と子供四人の計十名だ。大人は期待より警戒してる者がほとんどだったが、それでも移住に踏み切ったのは里を守り続けた慶真の存在が大きいようで、皆を安心させるためここ数日慶真は里で生活をしていた。
 けれど移住を楽しみにしていた者もいる。それが子供達だ。

「薄珂! 立珂!」
「烙玲! 錐漣!」
「おー……お? 立珂? 立珂だよな」
「ちっちゃくなった~」
「有翼人の成長期って一度ちっちゃくなるんだって」
「へー。でも立珂だな」
「うにゅ」

 二人は立珂の頬をつんつんと突いてあははと笑った。
 今回の子供四人のうち二名は烙玲と錐漣だ。二人は里を守るため訓練をされていて、最後まで長老である牙燕と共に遺っていた。
 二人は薄珂が金剛と黒曜に掴まった時に活躍をした子供達だ。野生の獣と会話ができ動かすことができるという特殊な能力を持ち、宮廷へ来ないかと護栄に目を付けられている。薄珂は里にいた頃から仲良しというほどではないが、荒事に慣れ牙燕将軍という政治的立場を踏まえているので話しやすい相手ではあった。
 慶都も久しぶりに会う里の面々との再会を喜んでいる。最近は大人顔負けの活躍を見ることが多かったが、こうしていると素っ裸で走り回っていたころを思い出させる。それが嬉しいのか、慶真はくすりと笑うと薄珂に顔を向けた。

「薄珂君。入居手続きが終わるまで子供達をお願いできますか」
「うん。獣人保護区の広場で遊んでるよ」
「よろしくお願いします」
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