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第五章 多様変遷
第六話 護栄の教え(二)
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「ならもっと早くに保護区作ればよかったじゃないですか! 響玄先生がいればできましたよ!」
「できない事情があったんです。何だと思いますか?」
「えー……」
「信頼です。関係各位の信頼関係が無かったんです。先代皇派は殿下を敵視する。狩りの対象だった有翼人は『宮廷』という存在自体を恐れる。その恐怖を即座に払しょくできるほど、皇太子になったばかりの殿下は国民と絆を築けていなかったんです」
「それは保護区作っても入ってくれないね……」
「ええ。だから私達には有翼人の求心力が必要だった。宮廷からも有翼人からも信頼される架け橋となる者が」
「……立珂?」
架け橋、と護栄はよくその言葉を使う。護栄だけでなく莉雹や他の者からも聞くことがあり、最も求められているものなのだろうというのは何となく察せられた。
けれど護栄はくすっと笑った。
「だからあなたが必要なんです」
護栄は嬉しいのか悔しいのか、入り混じったような顔を見せた。
護栄の話は難しい。理解できるようになったかと思えばするりと違うところへ流れていく。それは人知れず流れる川のようだった。
「色々考えなきゃいけないんですね」
「何ごとも計算して動かないといけませんよ」
「勉強します」
「勉強はいいが、これ以上護栄みたいにならないでくれよ」
こんっと後ろから頭を小突かれた。振り向くとそこにいたのは天藍だった。天藍はくすくすと笑い、護栄は不満げな顔を見せた。
「私みたにとはどういう意味です」
「俺にはお前がいれば良いって意味だよ」
天藍はぐりぐりと護栄の頭を撫でた。天藍は時折護栄を子ども扱いするようなことがある。
浩然といい、やはり解放戦争を共にやり抜いた者同士の絆には割って入れないものがあるようだった。護栄もだが天藍が友人と笑うような姿を見ることはあまりなく、それをこうして見せ付けられるのはほんの少しだけ寂しい気持ちにさせられた。
「それで、何か用?」
「ああ。牙燕将軍のことでちょっとな」
「里に何かあったの!?」
「悪いことじゃない。全員蛍宮へ移住を決めたそうだ。将軍は職務にも復帰して下さる」
「そうなの? 職務って軍?」
「ああ。ご自身のご意向なんだが、まさかお戻りになるとは思わなかった」
「そうですね。穏やかな生活を望み退かれたんですし、それには私も手を尽くすつもりだったんですが」
「きっとお前達のことを心配して下さったんだろう。色々あった」
「……そうだね。長老様は最初から俺達を守ってくれてた」
獣人の里へ逃げ込んだ当初、薄珂と立珂は里の住人に歓迎されていなかった。だが金剛に狙われていると分かると里の中へ入れてくれた。薄珂に文字の読み書きを教えてくれて本を読ませ、考える力を与えてくれたのは長老だった。
それから蛍宮へ移住する者もぱらぱらいたようだが、里へ残る者も少なくはなかった。それを見棄てることをするはずもなく、ずっと里に留まっていた。誰よりも安寧を大切にしていたのに、それを自分が邪魔をするようなことはしたくなかった。
「でも無理させたくない。里のみんなは長老様と一緒にいたいだろうし」
「ああ。だからお前達には彼らの様子を見ててやってほしいんだ。戸惑う者も多いだろう」
「もちろんだよ。いつ来るの?」
「次の連絡船だから十日後だな。孔雀と慶真が付き添ってるから協力してやってくれ」
「うん、分かった」
孔雀も慶真も、里の皆が頼りにしていた相手だ。その二人も薄珂と立珂が巻き込んだ。自分の意思だと言ってくれているが、それでも薄珂と立珂がいなければ里で平和にくらしていただろう。
薄珂はぎゅっと拳を握りしめた。
(今度は俺が守る番だ。俺がみんなを)
「できない事情があったんです。何だと思いますか?」
「えー……」
「信頼です。関係各位の信頼関係が無かったんです。先代皇派は殿下を敵視する。狩りの対象だった有翼人は『宮廷』という存在自体を恐れる。その恐怖を即座に払しょくできるほど、皇太子になったばかりの殿下は国民と絆を築けていなかったんです」
「それは保護区作っても入ってくれないね……」
「ええ。だから私達には有翼人の求心力が必要だった。宮廷からも有翼人からも信頼される架け橋となる者が」
「……立珂?」
架け橋、と護栄はよくその言葉を使う。護栄だけでなく莉雹や他の者からも聞くことがあり、最も求められているものなのだろうというのは何となく察せられた。
けれど護栄はくすっと笑った。
「だからあなたが必要なんです」
護栄は嬉しいのか悔しいのか、入り混じったような顔を見せた。
護栄の話は難しい。理解できるようになったかと思えばするりと違うところへ流れていく。それは人知れず流れる川のようだった。
「色々考えなきゃいけないんですね」
「何ごとも計算して動かないといけませんよ」
「勉強します」
「勉強はいいが、これ以上護栄みたいにならないでくれよ」
こんっと後ろから頭を小突かれた。振り向くとそこにいたのは天藍だった。天藍はくすくすと笑い、護栄は不満げな顔を見せた。
「私みたにとはどういう意味です」
「俺にはお前がいれば良いって意味だよ」
天藍はぐりぐりと護栄の頭を撫でた。天藍は時折護栄を子ども扱いするようなことがある。
浩然といい、やはり解放戦争を共にやり抜いた者同士の絆には割って入れないものがあるようだった。護栄もだが天藍が友人と笑うような姿を見ることはあまりなく、それをこうして見せ付けられるのはほんの少しだけ寂しい気持ちにさせられた。
「それで、何か用?」
「ああ。牙燕将軍のことでちょっとな」
「里に何かあったの!?」
「悪いことじゃない。全員蛍宮へ移住を決めたそうだ。将軍は職務にも復帰して下さる」
「そうなの? 職務って軍?」
「ああ。ご自身のご意向なんだが、まさかお戻りになるとは思わなかった」
「そうですね。穏やかな生活を望み退かれたんですし、それには私も手を尽くすつもりだったんですが」
「きっとお前達のことを心配して下さったんだろう。色々あった」
「……そうだね。長老様は最初から俺達を守ってくれてた」
獣人の里へ逃げ込んだ当初、薄珂と立珂は里の住人に歓迎されていなかった。だが金剛に狙われていると分かると里の中へ入れてくれた。薄珂に文字の読み書きを教えてくれて本を読ませ、考える力を与えてくれたのは長老だった。
それから蛍宮へ移住する者もぱらぱらいたようだが、里へ残る者も少なくはなかった。それを見棄てることをするはずもなく、ずっと里に留まっていた。誰よりも安寧を大切にしていたのに、それを自分が邪魔をするようなことはしたくなかった。
「でも無理させたくない。里のみんなは長老様と一緒にいたいだろうし」
「ああ。だからお前達には彼らの様子を見ててやってほしいんだ。戸惑う者も多いだろう」
「もちろんだよ。いつ来るの?」
「次の連絡船だから十日後だな。孔雀と慶真が付き添ってるから協力してやってくれ」
「うん、分かった」
孔雀も慶真も、里の皆が頼りにしていた相手だ。その二人も薄珂と立珂が巻き込んだ。自分の意思だと言ってくれているが、それでも薄珂と立珂がいなければ里で平和にくらしていただろう。
薄珂はぎゅっと拳を握りしめた。
(今度は俺が守る番だ。俺がみんなを)
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