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第五章 多様変遷
第四話 創樹との再会(一)
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護栄に言われて戸部で少し待った。そのわずかな間に立珂は職員と仲良くなり、その証として羽根を渡している。
(前よりもずっと交流できるようになったな。匂いにも強くなった)
匂いだけでなく、森に無かった物は戸惑うことが多かった。だがそれも生活するうちに慣れていった。
やたらと羽を触られると嫌そうな顔をするが、仲良くなってしまえば気にならないようだ。
(でも相手は選別してるように見える。接触を許すのは護栄様の部下、それも護栄様が一緒にいる時だけだ)
立珂が考えてやっているかは分からないが、美月が『りっかのおみせ』を襲撃した一件から人をよく観察するようになったように思えた。
心を許す選定基準は思いのほかはっきりしていて、たとえ天藍や美星、響玄の知人であっても距離を取る。だが護栄が接触に問題を感じない相手ならば立珂も良しとする。自分で善悪の判断がつかないので、その判断を護栄に委ねているのだろう。
(こんな成長するとは思わなかったな。やっぱり蛍宮に来たのは正解だった)
それは獣人の隠れ里で天藍に教えて貰ったことだ。狭い世界で保身を図るより、危険を見極め防御方法さえ身に付ければ立珂の世界はどんどん広がって行く。交流が増えればお洒落の発想も広がり、それが立珂の新たな目標になっていく。
(けど宮廷じゃ限界あるんだよな。職員と侍女は年が離れているから可愛がるに留まる。もっと愛憐みたいに気兼ねなく遊べる同じ歳の友達が欲しい)
薄珂と立珂の周りには大人ばかりだ。自分達にそれなりの価値ができてしまったことで加速している。自ら縁を築かないと対等にいてくれる友達が自然にできることは無くなってしまった。
(天藍はこうなることを見越してたのかもしれない。だから最初にあいつを連れて来てくれたんだ)
それは宮廷に来たばかりの頃、護栄と莉雹が礼儀作法を求め立珂が病んだ時のことだ。
あの時に護栄は過剰接待だとして薄珂と立珂から引き離した人物がいて、その存在が今となっては非常に惜しい。
そんなことを考え込んでいると護栄が戻ってきた。その後ろに誰かを連れ沿っていて、ひょこりと顔を見せてくれたのはまさにその人物だった。
「薄珂! 立珂!」
「創樹!?」
「あ! そーじゅだ!」
狼獣人の創樹。薄珂と同じくらいの歳で、今は小さくなってしまったが当時の立珂にも歳の近い少年だった。慶都よりも年が上のため、今までにない縁だったのだ。
薄珂は思わず立ち上がると、立珂もとととっと駆け寄って来た。
「そーじゅー!」
「あれ? 立珂こんなだったか?」
「成長期なんだ。有翼人は一度小さくなってから大きくなるんだって」
「へえ。不思議だなあ」
まじまじと創樹は立珂を見つめた。
創樹は立珂と話す時、抱き上げたりせず膝を付いて目線を合わせてくれている。これは薄珂と立珂にとって有難いことだった。
(抱き上げられるのも見上げるのも、ちょっとした動作でも羽に振り回されて負担になる。触るなって言い難いから困るんだけど、創樹は自分で気づいてくれた)
まだ初対面から数日しただけの頃、立珂は触れられるのが嫌いなのかと訊ねてくれたのだ。甘やかしてくれる侍女ばかりだったあの頃に、たった一人気付いたのが創樹だった。それ以来、立珂が手を伸ばしてこない限りは自分から触れることもしなかった。
(創樹って程好いんだよな。常識的だけど創樹自身も難しい言葉を知らないから会話の程度が立珂とそう変わらない。追い出されてから一度も来なかったのを見るに、護栄様には逆らっちゃいけないことも分かってるんだろう。何より狼獣人だから攻守自衛手段も備わってる。天藍が選んだ理由はこういうとこなんだろうな)
しかし創樹は宮廷職員ではないし、特別な家柄というわけでもないようだった。
天藍がどこで見つけて来たのかは知らないが、少年ばかりを取り立てる性癖だという悪評と、全職員の労働環境も考えなければいけない護栄からしたら来賓の側仕えに置いて良い人材ではなかった。
そういう経緯もあるため、こうして護栄が創樹を連れて来たのはありえないことでもあった。
ちらりと護栄を見ると、薄珂の考えていることを察したのか、ぽんっと創樹の肩を優しく叩いた。
(前よりもずっと交流できるようになったな。匂いにも強くなった)
匂いだけでなく、森に無かった物は戸惑うことが多かった。だがそれも生活するうちに慣れていった。
やたらと羽を触られると嫌そうな顔をするが、仲良くなってしまえば気にならないようだ。
(でも相手は選別してるように見える。接触を許すのは護栄様の部下、それも護栄様が一緒にいる時だけだ)
立珂が考えてやっているかは分からないが、美月が『りっかのおみせ』を襲撃した一件から人をよく観察するようになったように思えた。
心を許す選定基準は思いのほかはっきりしていて、たとえ天藍や美星、響玄の知人であっても距離を取る。だが護栄が接触に問題を感じない相手ならば立珂も良しとする。自分で善悪の判断がつかないので、その判断を護栄に委ねているのだろう。
(こんな成長するとは思わなかったな。やっぱり蛍宮に来たのは正解だった)
それは獣人の隠れ里で天藍に教えて貰ったことだ。狭い世界で保身を図るより、危険を見極め防御方法さえ身に付ければ立珂の世界はどんどん広がって行く。交流が増えればお洒落の発想も広がり、それが立珂の新たな目標になっていく。
(けど宮廷じゃ限界あるんだよな。職員と侍女は年が離れているから可愛がるに留まる。もっと愛憐みたいに気兼ねなく遊べる同じ歳の友達が欲しい)
薄珂と立珂の周りには大人ばかりだ。自分達にそれなりの価値ができてしまったことで加速している。自ら縁を築かないと対等にいてくれる友達が自然にできることは無くなってしまった。
(天藍はこうなることを見越してたのかもしれない。だから最初にあいつを連れて来てくれたんだ)
それは宮廷に来たばかりの頃、護栄と莉雹が礼儀作法を求め立珂が病んだ時のことだ。
あの時に護栄は過剰接待だとして薄珂と立珂から引き離した人物がいて、その存在が今となっては非常に惜しい。
そんなことを考え込んでいると護栄が戻ってきた。その後ろに誰かを連れ沿っていて、ひょこりと顔を見せてくれたのはまさにその人物だった。
「薄珂! 立珂!」
「創樹!?」
「あ! そーじゅだ!」
狼獣人の創樹。薄珂と同じくらいの歳で、今は小さくなってしまったが当時の立珂にも歳の近い少年だった。慶都よりも年が上のため、今までにない縁だったのだ。
薄珂は思わず立ち上がると、立珂もとととっと駆け寄って来た。
「そーじゅー!」
「あれ? 立珂こんなだったか?」
「成長期なんだ。有翼人は一度小さくなってから大きくなるんだって」
「へえ。不思議だなあ」
まじまじと創樹は立珂を見つめた。
創樹は立珂と話す時、抱き上げたりせず膝を付いて目線を合わせてくれている。これは薄珂と立珂にとって有難いことだった。
(抱き上げられるのも見上げるのも、ちょっとした動作でも羽に振り回されて負担になる。触るなって言い難いから困るんだけど、創樹は自分で気づいてくれた)
まだ初対面から数日しただけの頃、立珂は触れられるのが嫌いなのかと訊ねてくれたのだ。甘やかしてくれる侍女ばかりだったあの頃に、たった一人気付いたのが創樹だった。それ以来、立珂が手を伸ばしてこない限りは自分から触れることもしなかった。
(創樹って程好いんだよな。常識的だけど創樹自身も難しい言葉を知らないから会話の程度が立珂とそう変わらない。追い出されてから一度も来なかったのを見るに、護栄様には逆らっちゃいけないことも分かってるんだろう。何より狼獣人だから攻守自衛手段も備わってる。天藍が選んだ理由はこういうとこなんだろうな)
しかし創樹は宮廷職員ではないし、特別な家柄というわけでもないようだった。
天藍がどこで見つけて来たのかは知らないが、少年ばかりを取り立てる性癖だという悪評と、全職員の労働環境も考えなければいけない護栄からしたら来賓の側仕えに置いて良い人材ではなかった。
そういう経緯もあるため、こうして護栄が創樹を連れて来たのはありえないことでもあった。
ちらりと護栄を見ると、薄珂の考えていることを察したのか、ぽんっと創樹の肩を優しく叩いた。
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