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第五章 多様変遷
第二話 準備開始(二)
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しっかりと眠り始めた立珂を抱っこして戸部へ向かうと、執務室は異様な雰囲気に包まれていた。
戸部職員は頭を抱えて項垂れる者や長椅子で仮眠を取る者など全員がぐったりとしているようだった。積み上げられた書類の山に手を伸ばすのも億劫そうで、誰も彼もがため息を吐いている。
「……どうしたの?」
「月末月初はこうなんですよ。経費精算の提出は月初二営業日が締め切りなので月初から半ばで処理します」
「ふ、ふうん?」
「天一職員として何かする時はお父様からお金を貰いますよね。宮廷ではまず自分で払ってもらって後からお金を返します。その連絡をするのが経費精算です」
「へー……」
「露台へどうぞ。今横になれるよう布団をお持ちします」
「本当にいいの? みんなが使う場所なんでしょ?」
「大丈夫ですよ。残業になった時に息抜きをする程度ですから」
「残業なんてあるんだ」
「当然のようにありますね」
この状況で立珂だけすよすよと休ませるのは心苦しい気がしたが、それを察したのか戸部の長ともいえる護栄自ら立珂の足に毛布を掛けた。
「上半身が羽で温かい分足先が冷えて痛くなるそうです。靴下を持ち歩いた方が良い」
「そうなの? 護栄様も有翼人に詳しいの?」
「勉強中です。職員にも有翼人が増えましたから」
「違う違う。立珂をいじめて反省したんだよ」
「浩然様」
護栄の後ろからにゅっと現れたのは、護栄直属の部下である浩然だ。護栄の厳しい教育を受け生き残った貴重な人材だという。
一度は薄珂と揉めたが、和解して以来よく声を掛けてくれるようになっている。
「いや~、殿下に怒られてしょげた護栄様は見ものだったよ」
「浩然」
「美星にもこてんぱんにされて」
「浩然!」
「怒っても今更ですって。あはは」
浩然はけらけらと笑った。とても真面目で、色白で線が細いので薄珂から見れば儚げな印象だった。護栄があれほど信頼しているのなら、同じくらい気難しい人物なのかと思っていた。
だが浩然は上司でもあり誰もが恐れる護栄を愉快愉快と笑い飛ばしている。
(浩然様ってこういう人だったんだ)
まるで友達同士がじゃれ合ってるようで、護栄は悔しそうに唇を噛んで浩然を黙らせようとじたばたしていた。
見たことも無い護栄の一面はとても人間味があり、薄珂は思わずくすっと笑ってしまう。それに気付いたのか、護栄は急に服の乱れを正しこほんと咳払いをした。
「浩然が国葬の責任者です。あなたは補佐をして下さい」
「ほ、補佐?」
「護栄様。そんな堅苦しいこと言わないの。国葬を教材に宮廷の仕組を勉強すると思えばいいよ。教えてあげるから大丈夫」
「はい。よろしくお願いします」
浩然はぽんっと軽く薄珂の背を叩き、くるりと護栄を見るとにやりと笑った。それだけで浩然の言いたいことが分かったのか、護栄はぷいっと背を向け自分の机へと戻ってしまった。
「護栄様が教育すると十日で辞めちゃうからやらせないことにしてるんだ」
「厳しそうですもんね」
「必要以上にね。さて。じゃあまず宮廷の組織図から説明しよう」
戸部職員は頭を抱えて項垂れる者や長椅子で仮眠を取る者など全員がぐったりとしているようだった。積み上げられた書類の山に手を伸ばすのも億劫そうで、誰も彼もがため息を吐いている。
「……どうしたの?」
「月末月初はこうなんですよ。経費精算の提出は月初二営業日が締め切りなので月初から半ばで処理します」
「ふ、ふうん?」
「天一職員として何かする時はお父様からお金を貰いますよね。宮廷ではまず自分で払ってもらって後からお金を返します。その連絡をするのが経費精算です」
「へー……」
「露台へどうぞ。今横になれるよう布団をお持ちします」
「本当にいいの? みんなが使う場所なんでしょ?」
「大丈夫ですよ。残業になった時に息抜きをする程度ですから」
「残業なんてあるんだ」
「当然のようにありますね」
この状況で立珂だけすよすよと休ませるのは心苦しい気がしたが、それを察したのか戸部の長ともいえる護栄自ら立珂の足に毛布を掛けた。
「上半身が羽で温かい分足先が冷えて痛くなるそうです。靴下を持ち歩いた方が良い」
「そうなの? 護栄様も有翼人に詳しいの?」
「勉強中です。職員にも有翼人が増えましたから」
「違う違う。立珂をいじめて反省したんだよ」
「浩然様」
護栄の後ろからにゅっと現れたのは、護栄直属の部下である浩然だ。護栄の厳しい教育を受け生き残った貴重な人材だという。
一度は薄珂と揉めたが、和解して以来よく声を掛けてくれるようになっている。
「いや~、殿下に怒られてしょげた護栄様は見ものだったよ」
「浩然」
「美星にもこてんぱんにされて」
「浩然!」
「怒っても今更ですって。あはは」
浩然はけらけらと笑った。とても真面目で、色白で線が細いので薄珂から見れば儚げな印象だった。護栄があれほど信頼しているのなら、同じくらい気難しい人物なのかと思っていた。
だが浩然は上司でもあり誰もが恐れる護栄を愉快愉快と笑い飛ばしている。
(浩然様ってこういう人だったんだ)
まるで友達同士がじゃれ合ってるようで、護栄は悔しそうに唇を噛んで浩然を黙らせようとじたばたしていた。
見たことも無い護栄の一面はとても人間味があり、薄珂は思わずくすっと笑ってしまう。それに気付いたのか、護栄は急に服の乱れを正しこほんと咳払いをした。
「浩然が国葬の責任者です。あなたは補佐をして下さい」
「ほ、補佐?」
「護栄様。そんな堅苦しいこと言わないの。国葬を教材に宮廷の仕組を勉強すると思えばいいよ。教えてあげるから大丈夫」
「はい。よろしくお願いします」
浩然はぽんっと軽く薄珂の背を叩き、くるりと護栄を見るとにやりと笑った。それだけで浩然の言いたいことが分かったのか、護栄はぷいっと背を向け自分の机へと戻ってしまった。
「護栄様が教育すると十日で辞めちゃうからやらせないことにしてるんだ」
「厳しそうですもんね」
「必要以上にね。さて。じゃあまず宮廷の組織図から説明しよう」
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