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第五章 多様変遷
第一話 ちっちゃな立珂のおっきな挑戦(三)
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案内された先は中央庭園を抜け離宮を二つ横切り、さらにその奥だった。
そこには背の低い草が一面に咲いているだけだった。閑散として職員は誰もいない。離宮からも離れているので侍女が清掃する音も聞こえず、風が吹きすさぶ様は寂しく感じる。
「ここ何?」
「国葬墓地だ。国が葬儀を上げた者が眠っている」
天藍はちらりと立珂を見ると、ふいっと目を逸らし中央に向かって歩き出した。
向かった先にあったのは大きな石碑だった。薄珂が両手を広げても掴めないほど大きい。よく磨かれていて美しかったが、気になったのは備えられている物だ。
「これって」
「『りっかのおみせ』のふくだ! ぼくのふく!」
「ああ。今までは花を手向けていたが、今彼らへ贈るべき品はこれだろうからな」
「彼ら?」
天藍と護栄は石碑の前に膝を付き、祈るように手を合わせた。何に祈っているか分からず石碑を見ると、そこには人の名前が刻まれていた。それも一人や二人ではない。石碑にびっしりと刻まれている。
とても数えることはできないそれを目で追っていると、天藍はそっと刻まれた名前を追うように撫でた。
「彼らは有翼人狩りで殺された有翼人だ」
「……え?」
「『蛍宮解放戦争』のことは知っているか?」
「天藍が先代皇を討った戦争だよね」
「そうだ。有翼人狩りはそのきっかけになった事件。しかも誰が持ち出したのか、遺体の多くが消失した」
天藍は悔しそうに拳を振りえさせた。護栄はまだ手を合わせ祈り続けている。立珂は薄珂の腕をぎゅっと握りしめ、くしゃりと悲しみで顔を歪ませていた。
「毎年追悼式典をしているんだが、そこで彼らに贈る品を用意する。これをお前に作って欲しいと思っていた。蛍宮有翼人に光を齎してくれたお前に。どうだろうか」
「うん! つくるよ! つくる! つくりたい!」
「……有難う」
立珂は薄珂の腕から天藍に飛び移り、ぎゅうぎゅうと抱きしめていた。豊かな羽を抱きしめる天藍の手は震えていて、目がほんの少し涙で潤んでいる。
それを見て護栄はようやく立ち上がり、立珂に深々と頭を下げていた。薄珂はすすっと護栄の横に立つと、こそりと耳打ちをした。
「これって宮廷名義? 天一名義なら費用請求は宮廷付けで契約書締結させてほしいんだけど」
「この状況でよくそんな話ができますね」
「親しい間柄こそ契約書を作ること。響玄先生の教えだよ」
「すっかり商人らしくなりましたね。もちろん宮廷付けですが細かい取り決めが必要です。あとで責任者を紹介しますよ」
薄珂と護栄がとても墓前に相応しくない話をしている間に、天藍は立珂を石碑に名を刻まれた者達へ立珂を紹介しているようだった。立珂はどんな品が良いか問いかけている。彼らから返事は返ってこないが、その明るい笑顔と声は天藍の涙をも消し去っていた。
そこには背の低い草が一面に咲いているだけだった。閑散として職員は誰もいない。離宮からも離れているので侍女が清掃する音も聞こえず、風が吹きすさぶ様は寂しく感じる。
「ここ何?」
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天藍はちらりと立珂を見ると、ふいっと目を逸らし中央に向かって歩き出した。
向かった先にあったのは大きな石碑だった。薄珂が両手を広げても掴めないほど大きい。よく磨かれていて美しかったが、気になったのは備えられている物だ。
「これって」
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「ああ。今までは花を手向けていたが、今彼らへ贈るべき品はこれだろうからな」
「彼ら?」
天藍と護栄は石碑の前に膝を付き、祈るように手を合わせた。何に祈っているか分からず石碑を見ると、そこには人の名前が刻まれていた。それも一人や二人ではない。石碑にびっしりと刻まれている。
とても数えることはできないそれを目で追っていると、天藍はそっと刻まれた名前を追うように撫でた。
「彼らは有翼人狩りで殺された有翼人だ」
「……え?」
「『蛍宮解放戦争』のことは知っているか?」
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「そうだ。有翼人狩りはそのきっかけになった事件。しかも誰が持ち出したのか、遺体の多くが消失した」
天藍は悔しそうに拳を振りえさせた。護栄はまだ手を合わせ祈り続けている。立珂は薄珂の腕をぎゅっと握りしめ、くしゃりと悲しみで顔を歪ませていた。
「毎年追悼式典をしているんだが、そこで彼らに贈る品を用意する。これをお前に作って欲しいと思っていた。蛍宮有翼人に光を齎してくれたお前に。どうだろうか」
「うん! つくるよ! つくる! つくりたい!」
「……有難う」
立珂は薄珂の腕から天藍に飛び移り、ぎゅうぎゅうと抱きしめていた。豊かな羽を抱きしめる天藍の手は震えていて、目がほんの少し涙で潤んでいる。
それを見て護栄はようやく立ち上がり、立珂に深々と頭を下げていた。薄珂はすすっと護栄の横に立つと、こそりと耳打ちをした。
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「この状況でよくそんな話ができますね」
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