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第四章 翼衣專店
最終話(一)
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このところ宮廷は明るい雰囲気に満ちている。
職員は皆活気づいて、特に女性職員はうきうきと宮廷に華やかさを与えてくれていた。
そんな女性職員が多く集まる場所がある。隙あらば皆が立ち寄って、今日もぎっしりと満員だ。
彼女たちが集中している棚には小さな瓶が並んでいる。
「ああ、薫衣草の香りは売切れだわ」
「立珂様がお好みの香りはすぐになくなるわね」
「よければ取り置きしますよ。十日後に入荷予定なので」
「薄珂様!」
提供しているのは有翼人も使える天然材料のお香だ。
立珂の念願叶って取り扱えることになったが、ここは『りっかのおみせ』でも『はっかのおみせ』でもない。
薄珂と立珂の新店舗である。
これをやるに至ったのは、やはり立珂のお願いが始まりだった。
「くんくん」
「どうした、立珂。可愛いぞ」
「紅蘭さんからもらったお香。薄珂もくんくんしてみて」
「ん」
家でのんびりしていると、立珂が小瓶の香りを嗅ぎ始めた。
紅蘭の羽美容室に何度か通うと、立珂は嫌煙していたお香に興味を持ち始めた。
様々な香りがあるが、そのどれも有翼人が問題無く使用しているのだ。
言われるがままに小瓶に顔を近づけると、ふわりと薫衣草の良い香りがする。
「きらい?」
「俺は好きだ。あ、売りたいのか?」
「うん。でも嫌いな人もいるよね。そしたら『りっかのおみせは臭いぞ』って、僕のことも嫌いになっちゃうかもしれない」
「確かにな。商品にもにおいが移る」
「そうだよね。せっかく有翼人も使えるのになー」
うーん、と立珂は口を尖らせた。
商品として扱うことは難しくないが、それ自体が賛否分かれるので服と並列にはしにくい。
となると店を別に設ける必要が出てくるが、立珂は深い興味があるわけではない。専門的に追求しないのに店を設けるのはあまりにも効率が悪い。
けれど、立珂の言葉を聞いて薄珂は思い出すことがあった。
「そうだ!」
「う?」
薄珂は立珂を連れて護栄の元に向かった。
「宮廷で香を提供ですか。面白いですね」
「有翼人が使える香なら宮廷でも使えるよね。女の人は喜ぶと思うんだ」
「良いですね。あの苦情も片付きます」
護栄の目線の先にあるのは大量の封書だった。
薄珂と立珂が宮廷にいた頃に有翼人は香りに弱いと分かり、一括でお香の利用を禁止した。
しかし、香がお洒落として根付いいた宮廷では反発も多いようで、護栄は頭を抱えながらも後回しにしていた。
だがこれならそれも解消される。護栄の了承を得て、宮廷の一部屋を貰ってやり始めたのだ。
けれどここは単なる店ではない。いや、そもそも店ではない。ただの部屋だ。
しかし備品配布をする部屋は、職員の利用頻度が高い重要な場所でもある。
「でも驚きましたわね。まさか宮廷の備品で香が頂けるなんて」
「本当。しかも天然物なんて」
ここは宮廷職員が筆やら帳面といった仕事で使う備品を貰う場所だ。
今まで備品というと文具類しかなかったのだが、薄珂はここに香を並べたのだ。
これなら有翼人のいる宮廷でも使用できる。
「変わりにどれかお持ちになりますか?」
「ええ。どうしようかしら」
「薔薇はどう? お姉さんに似合うと思うよ!」
「立珂様! まあ、立珂様が選んで下さるの?」
「うんっ。お姉さんは豪華な香りが似合うと思うよ!」
「嬉しい。じゃあ薔薇にしようかしら」
「ずるいわ。立珂様、私も選んでくださいまし」
「いいよ! お姉さんはとっても爽やかだから檸檬はどう?」
「素敵! それにしますわ!」
女性職員の中に立珂がぴょこんと現れた。
こうして立珂は職員とお洒落談義をしながら提供し、頼まれれば店から服を持ってきたりもする。
おかげで立珂は毎日楽しく、何よりお金を貰わずに配れるというのが嬉しいようだった。
どんどん職員が立珂に群がり、それを見てははっと笑う声がした。
職員は皆活気づいて、特に女性職員はうきうきと宮廷に華やかさを与えてくれていた。
そんな女性職員が多く集まる場所がある。隙あらば皆が立ち寄って、今日もぎっしりと満員だ。
彼女たちが集中している棚には小さな瓶が並んでいる。
「ああ、薫衣草の香りは売切れだわ」
「立珂様がお好みの香りはすぐになくなるわね」
「よければ取り置きしますよ。十日後に入荷予定なので」
「薄珂様!」
提供しているのは有翼人も使える天然材料のお香だ。
立珂の念願叶って取り扱えることになったが、ここは『りっかのおみせ』でも『はっかのおみせ』でもない。
薄珂と立珂の新店舗である。
これをやるに至ったのは、やはり立珂のお願いが始まりだった。
「くんくん」
「どうした、立珂。可愛いぞ」
「紅蘭さんからもらったお香。薄珂もくんくんしてみて」
「ん」
家でのんびりしていると、立珂が小瓶の香りを嗅ぎ始めた。
紅蘭の羽美容室に何度か通うと、立珂は嫌煙していたお香に興味を持ち始めた。
様々な香りがあるが、そのどれも有翼人が問題無く使用しているのだ。
言われるがままに小瓶に顔を近づけると、ふわりと薫衣草の良い香りがする。
「きらい?」
「俺は好きだ。あ、売りたいのか?」
「うん。でも嫌いな人もいるよね。そしたら『りっかのおみせは臭いぞ』って、僕のことも嫌いになっちゃうかもしれない」
「確かにな。商品にもにおいが移る」
「そうだよね。せっかく有翼人も使えるのになー」
うーん、と立珂は口を尖らせた。
商品として扱うことは難しくないが、それ自体が賛否分かれるので服と並列にはしにくい。
となると店を別に設ける必要が出てくるが、立珂は深い興味があるわけではない。専門的に追求しないのに店を設けるのはあまりにも効率が悪い。
けれど、立珂の言葉を聞いて薄珂は思い出すことがあった。
「そうだ!」
「う?」
薄珂は立珂を連れて護栄の元に向かった。
「宮廷で香を提供ですか。面白いですね」
「有翼人が使える香なら宮廷でも使えるよね。女の人は喜ぶと思うんだ」
「良いですね。あの苦情も片付きます」
護栄の目線の先にあるのは大量の封書だった。
薄珂と立珂が宮廷にいた頃に有翼人は香りに弱いと分かり、一括でお香の利用を禁止した。
しかし、香がお洒落として根付いいた宮廷では反発も多いようで、護栄は頭を抱えながらも後回しにしていた。
だがこれならそれも解消される。護栄の了承を得て、宮廷の一部屋を貰ってやり始めたのだ。
けれどここは単なる店ではない。いや、そもそも店ではない。ただの部屋だ。
しかし備品配布をする部屋は、職員の利用頻度が高い重要な場所でもある。
「でも驚きましたわね。まさか宮廷の備品で香が頂けるなんて」
「本当。しかも天然物なんて」
ここは宮廷職員が筆やら帳面といった仕事で使う備品を貰う場所だ。
今まで備品というと文具類しかなかったのだが、薄珂はここに香を並べたのだ。
これなら有翼人のいる宮廷でも使用できる。
「変わりにどれかお持ちになりますか?」
「ええ。どうしようかしら」
「薔薇はどう? お姉さんに似合うと思うよ!」
「立珂様! まあ、立珂様が選んで下さるの?」
「うんっ。お姉さんは豪華な香りが似合うと思うよ!」
「嬉しい。じゃあ薔薇にしようかしら」
「ずるいわ。立珂様、私も選んでくださいまし」
「いいよ! お姉さんはとっても爽やかだから檸檬はどう?」
「素敵! それにしますわ!」
女性職員の中に立珂がぴょこんと現れた。
こうして立珂は職員とお洒落談義をしながら提供し、頼まれれば店から服を持ってきたりもする。
おかげで立珂は毎日楽しく、何よりお金を貰わずに配れるというのが嬉しいようだった。
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