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第四章 翼衣專店
第三十六話 薄珂の次なる選択(一)
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有翼人保護区の試験運用が始まりひと月ほど経ち、薄珂と立珂の生活も安定を取り戻した。
『りっかのおみせ』は美月に、『天一有翼人店』は美星に任せ、薄珂と立珂は日替わりで顔を出している。
「いらっしゃいましー!」
今日は『りっかのおみせ』に顔を出している。
立珂が店に立つ日は決まって行列になるので、美月は入店予約制を導入していた。しかし予約時間の合間に入店できることもあるため、それを狙う列は絶えないらしい。
薄珂もこれはさすがに申し訳なくて待機客に声を掛けて回ったが、つんっと後頭部を突かれた。振り向くと、そこにいたのは柳だ。
「なーにしてんだ」
「柳さん。どうしたの?」
「ちゃんと見たくてね。保護区にも出店するんだろ?」
「あー……どうかなあ……」
「何だ。気乗りしないのか」
「だって立珂は店を大きくしたいわけじゃないし」
「ふうん? じゃあこの店の経営目標はなんなんだ?」
「立珂が楽しい」
「なら店でかくしないと駄目だろ。保護区ができたら類似の店が増えて客来なくなるぞ」
「え!? それは困る!」
「だろ。なら目標を数字で持て、数字で」
「お客さんの数を増やすってこと?」
「そう。そうすれば『立珂が楽しい』も保たれる。じゃあどうやって客を増やすか」
「え、えーっと……」
薄珂は店の客を増やすためにあれこれとやったことはあまりない。
宮廷で何かをすることの方が多く、今では美月に任せきりだ。
立珂も今は有翼人保護区の新しい娯楽探しに気持ちが向いているので『りっかのおみせ』の新しい展開というのはあまり着手していない。
(先生ならどうするかな)
店の経営は響玄に見てもらっている。薄珂も立珂も社会の常識に疎いため、分からないことが多いのだ。
けれど柳はから出てきた言葉はその真逆だった。
「響玄殿から答えは出ないぞ」
「えっ」
「前も言ったが、響玄殿はお前の師に不適切だ。あの人は小売業者じゃない」
「そんなことない。商人だよ」
「その『商人』ってのは何を指してるんだよ。商売には色々ある。細分化すれば多種多様だ」
「え? えーっと……」
薄珂は知識に乏しいが、言われた言葉自体は知っていた。
卸についても響玄から聞いたが、そういうものがあるという事しか知らない。
響玄が何かと問われると、そういやなんだろう、と薄珂は首を傾げた。
柳はこれみよがしなため息を吐く。
「一体何を学んでんだお前は。いいか。商売は大きく二種類に分かれる。客が企業か消費者かだ。響玄殿は対企業でお前は対個人消費者。そもそもが違う。響玄殿の店に客は来るか?」
「来ない。あそこは窓口のようなものだって言ってた」
「そう。それは響玄殿の客が企業だからだ。客を呼ばない響玄殿から客の呼び方を学べるか?」
「あ」
言われて店の様子を思い出す。
ごくたまに客は来るが、ほとんどは響玄の知人が仕入れの話をして帰って行く。
店と言うより打ち合わせの場所になっていることがほとんどだ。
店に客を集めない以上、響玄から得られる知識は薄珂の目的に沿わないということだ。
「教えてやろうか」
「え?」
「客の呼び方さ。麗亜が認めた経営手腕、気にならないか?」
麗亜がどれだけの人物か薄珂は良く知らない。
けれど護栄が認めた人物でもある。
「……教えて」
柳はにやりと笑みを浮かべた。
「奥で話そう」
『りっかのおみせ』は美月に、『天一有翼人店』は美星に任せ、薄珂と立珂は日替わりで顔を出している。
「いらっしゃいましー!」
今日は『りっかのおみせ』に顔を出している。
立珂が店に立つ日は決まって行列になるので、美月は入店予約制を導入していた。しかし予約時間の合間に入店できることもあるため、それを狙う列は絶えないらしい。
薄珂もこれはさすがに申し訳なくて待機客に声を掛けて回ったが、つんっと後頭部を突かれた。振り向くと、そこにいたのは柳だ。
「なーにしてんだ」
「柳さん。どうしたの?」
「ちゃんと見たくてね。保護区にも出店するんだろ?」
「あー……どうかなあ……」
「何だ。気乗りしないのか」
「だって立珂は店を大きくしたいわけじゃないし」
「ふうん? じゃあこの店の経営目標はなんなんだ?」
「立珂が楽しい」
「なら店でかくしないと駄目だろ。保護区ができたら類似の店が増えて客来なくなるぞ」
「え!? それは困る!」
「だろ。なら目標を数字で持て、数字で」
「お客さんの数を増やすってこと?」
「そう。そうすれば『立珂が楽しい』も保たれる。じゃあどうやって客を増やすか」
「え、えーっと……」
薄珂は店の客を増やすためにあれこれとやったことはあまりない。
宮廷で何かをすることの方が多く、今では美月に任せきりだ。
立珂も今は有翼人保護区の新しい娯楽探しに気持ちが向いているので『りっかのおみせ』の新しい展開というのはあまり着手していない。
(先生ならどうするかな)
店の経営は響玄に見てもらっている。薄珂も立珂も社会の常識に疎いため、分からないことが多いのだ。
けれど柳はから出てきた言葉はその真逆だった。
「響玄殿から答えは出ないぞ」
「えっ」
「前も言ったが、響玄殿はお前の師に不適切だ。あの人は小売業者じゃない」
「そんなことない。商人だよ」
「その『商人』ってのは何を指してるんだよ。商売には色々ある。細分化すれば多種多様だ」
「え? えーっと……」
薄珂は知識に乏しいが、言われた言葉自体は知っていた。
卸についても響玄から聞いたが、そういうものがあるという事しか知らない。
響玄が何かと問われると、そういやなんだろう、と薄珂は首を傾げた。
柳はこれみよがしなため息を吐く。
「一体何を学んでんだお前は。いいか。商売は大きく二種類に分かれる。客が企業か消費者かだ。響玄殿は対企業でお前は対個人消費者。そもそもが違う。響玄殿の店に客は来るか?」
「来ない。あそこは窓口のようなものだって言ってた」
「そう。それは響玄殿の客が企業だからだ。客を呼ばない響玄殿から客の呼び方を学べるか?」
「あ」
言われて店の様子を思い出す。
ごくたまに客は来るが、ほとんどは響玄の知人が仕入れの話をして帰って行く。
店と言うより打ち合わせの場所になっていることがほとんどだ。
店に客を集めない以上、響玄から得られる知識は薄珂の目的に沿わないということだ。
「教えてやろうか」
「え?」
「客の呼び方さ。麗亜が認めた経営手腕、気にならないか?」
麗亜がどれだけの人物か薄珂は良く知らない。
けれど護栄が認めた人物でもある。
「……教えて」
柳はにやりと笑みを浮かべた。
「奥で話そう」
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