人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第三十三話 有翼人の本能(三)

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「個室建築費をより多く確保するためのその他予算削減案」
「ほお。それは何故」
「有翼人は人目を避け親しい数名での行動を好むようです。ですが個室の建築費が節約で補填できる額じゃなくてですね……」

 うーん、と浩然は腕を組んで目を宙に泳がせた。
 護栄は助け船も出さずしれっとしている。

「現実的で良いな。後でゆっくり話そう。紅蘭殿は」
「あたしも予算だな。保護区のために瑠璃宮の維持費を削られちゃたまらん」
「響玄殿は?」
「私は……」

 響玄は美星の肩をぎゅっと強く抱きしめた。

「私は羽を失った有翼人の気持ちを知りたい。慌てずしっかりと絆を築きたいと思っている」
「……なるほど。お嬢さんも同じかな」
「はい。そのためにも『天一有翼人店』を大きくする方法を考えたいです」
「『りっかのおみせ』ではなく『天一有翼人店』?」
「はい。『天一有翼人店』は客の七割が人間ですが、ほぼ全てが羽を失った有翼人です」
「そう、なんですか」

 全員が驚いたが、真っ先に口を開いたのは護栄だった。
 珍しく動揺を顕わにしている。

「皆が口を揃えてこう言います。『立珂様が先代皇の時代にいたらよかったのに』と」
「あたしも同意見だ。だがこれは莉雹にも聞くべきだな」
「莉雹殿? 何故です」

 ここでも護栄は動揺していた。
 動揺というよりも何か焦っているように見える。

「有翼人を守った最大の功労者だからさ。先代皇陛下が有翼人狩りをする時に宮廷は人員を増やした。これを連れて来たのは莉雹だが、これが羽を失った有翼人なのさ」
「……どういうことです」
「簡単な話さ。狩る側になれば狩られない。軽度の罪で投獄もした。冤罪もふっかけた。異なる罪の判決を待つことで命を守ったんだ」
「莉雹殿がそれを率いたと!?」

 護栄はついに立ち上がり、その勢いで椅子は床に倒れ転がった。
 立珂は驚きの余り薄珂にぎゅっとしがみ付く。

「だからあいつは投獄された。それでも首が繋がった理由はお前が一番よく知ってるな」
「っ……」
「政治に偶然なんざ無いんだよ、青二才」

 護栄はぎりぎりと拳を握りしめ、唇をきつく噛みしめていた。
 誰も声を掛ける事はできずにいる中で、天藍だけがぽんぽんと護栄の肩を叩いて落ち着かせている。
 その様子には薄珂など到底割って入ることのできない絆を感じさせた。
 それが羨ましくもあり、恐ろしくもあった。
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