246 / 356
第四章 翼衣專店
第三十二話 美星の怒り(三)
しおりを挟む
「役不足ですって!? お父様がどれだけ有翼人を助けて来たかも知らず何を偉そうに!」
「知ってるさ。非合法でも恐れず己の財で守った逸話は有名だ」
「では守った具体的な方法を言ってみなさい」
「住民登録のない者を手持ちの不動産に入れてやったんだろう? 生活に必要な全てを与えて回ったと」
「ええそうよ。でもその前にやったことがある。それは?」
「その前? いや……」
美星は柳をぎろりと睨み、かつんかつんと足音を響かせた。
「現在存命である蛍宮生まれの有翼人人口をご存知ですか」
「数百だろう。移住の方が多い」
「いいえ。千八百九十七人です。移住が先住を上回ったのはここ数年の話」
「聞いたことない数字だな。何だそれは」
「先代皇の有翼人狩りで大勢が殺されました。けれど一部の者はある方法で生き延びた。千八百九十七人はその人数です。ですが彼らは今なお有翼人国民に数えられない。どうしてだと思います」
「……何故だ」
美星はこちらに背を向けると、突如衣を脱ぎだした。
「み、美星さん!」
全員がぎょっとした。
薄珂は止めようと立ち上がったが、見えた美星の背を見て全員が固まった。
「……う?」
「その背は……」
白く美しい背には何かが付着していた。
人差し指ほどの白い何かが左右の肩甲骨の少し上に付着している。
「美星さん、それ、まさか」
薄珂はこれが何だか知っている。
それは毎日見ている立珂の羽の付け根にそっくりだった。
「私は有翼人。有翼人狩りから生き延びるため、羽を落とした有翼人」
「羽を……!?」
「お父様は有翼人の羽を落として回り、そうすることで皆生き延びた」
美星は服を直すと、柳に詰め寄り柳の胸ぐらをつかんだ。
「羽を落とす苦しみと幸福があなたに分かりますか!」
柳はびくりと震え、これには言葉を失った。
美星は言い返すこともできない柳を捨てるように手を離した。
「お父様は有翼人保護区を誰よりも願っていた。いつか踏み出すため長年考えてきた!」
「考えたから出来るとは限らない。必要な技術が違うんだ」
「だとしてもあなたにはできない。あなたには決定的なものが欠けている!」
「何?」
「私の羽は去年まで小指の爪程もありませんでした。でも今また生え始めた。その理由が分かりますか」
「……いや」
美星は薄珂と立珂の後ろに回った。
「薄珂様と立珂様です。お二人が有翼人も愛し愛され幸せになって良いと体現して下さった。だから私は有翼人として生きたいと思うようになった……」
美星はぎゅっと立珂を抱きしめた。
「羽はこころ。有翼人であることを望む私のこころが羽を蘇らせた」
立珂の大きな羽は美星を守るようにふわりと揺れる。
白く輝くそれは愛情の証だ。
「有翼人が求めるのは愛し愛される場所。愛の無いあなたでは役不足よ!」
「同感だな」
がつんと足音を立てたのは紅蘭だ。守るようにそっと美星の肩を抱きよせている。
「知ってるさ。非合法でも恐れず己の財で守った逸話は有名だ」
「では守った具体的な方法を言ってみなさい」
「住民登録のない者を手持ちの不動産に入れてやったんだろう? 生活に必要な全てを与えて回ったと」
「ええそうよ。でもその前にやったことがある。それは?」
「その前? いや……」
美星は柳をぎろりと睨み、かつんかつんと足音を響かせた。
「現在存命である蛍宮生まれの有翼人人口をご存知ですか」
「数百だろう。移住の方が多い」
「いいえ。千八百九十七人です。移住が先住を上回ったのはここ数年の話」
「聞いたことない数字だな。何だそれは」
「先代皇の有翼人狩りで大勢が殺されました。けれど一部の者はある方法で生き延びた。千八百九十七人はその人数です。ですが彼らは今なお有翼人国民に数えられない。どうしてだと思います」
「……何故だ」
美星はこちらに背を向けると、突如衣を脱ぎだした。
「み、美星さん!」
全員がぎょっとした。
薄珂は止めようと立ち上がったが、見えた美星の背を見て全員が固まった。
「……う?」
「その背は……」
白く美しい背には何かが付着していた。
人差し指ほどの白い何かが左右の肩甲骨の少し上に付着している。
「美星さん、それ、まさか」
薄珂はこれが何だか知っている。
それは毎日見ている立珂の羽の付け根にそっくりだった。
「私は有翼人。有翼人狩りから生き延びるため、羽を落とした有翼人」
「羽を……!?」
「お父様は有翼人の羽を落として回り、そうすることで皆生き延びた」
美星は服を直すと、柳に詰め寄り柳の胸ぐらをつかんだ。
「羽を落とす苦しみと幸福があなたに分かりますか!」
柳はびくりと震え、これには言葉を失った。
美星は言い返すこともできない柳を捨てるように手を離した。
「お父様は有翼人保護区を誰よりも願っていた。いつか踏み出すため長年考えてきた!」
「考えたから出来るとは限らない。必要な技術が違うんだ」
「だとしてもあなたにはできない。あなたには決定的なものが欠けている!」
「何?」
「私の羽は去年まで小指の爪程もありませんでした。でも今また生え始めた。その理由が分かりますか」
「……いや」
美星は薄珂と立珂の後ろに回った。
「薄珂様と立珂様です。お二人が有翼人も愛し愛され幸せになって良いと体現して下さった。だから私は有翼人として生きたいと思うようになった……」
美星はぎゅっと立珂を抱きしめた。
「羽はこころ。有翼人であることを望む私のこころが羽を蘇らせた」
立珂の大きな羽は美星を守るようにふわりと揺れる。
白く輝くそれは愛情の証だ。
「有翼人が求めるのは愛し愛される場所。愛の無いあなたでは役不足よ!」
「同感だな」
がつんと足音を立てたのは紅蘭だ。守るようにそっと美星の肩を抱きよせている。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。
リナリアの夢
冴月希衣@商業BL販売中
BL
嶋村乃亜(しまむらのあ)。考古資料館勤務。三十二歳。
研究ひと筋の堅物が本気の恋に落ちた相手は、六歳年下の金髪灰眼のカメラマンでした。
★花吐き病の設定をお借りして、独自の解釈を加えています。シリアス進行ですが、お気軽に読める短編です。
作中、軽くですが嘔吐表現がありますので、予め、お含みおきください。
◆本文、画像の無断転載禁止◆ No reproduction or republication without written permission.

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。

ニケの宿
水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。
しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。
異なる種族同士の、共同生活。
※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。
キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。
苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

あの日の記憶の隅で、君は笑う。
15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。
その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。
唐突に始まります。
身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません!
幸せになってくれな!

それ以上近づかないでください。
ぽぽ
BL
「誰がお前のことなんか好きになると思うの?」
地味で冴えない小鳥遊凪は、ある日、憧れの人である蓮見馨に不意に告白をしてしまい、2人は付き合うことになった。
まるで夢のような時間――しかし、その恋はある出来事をきっかけに儚くも終わりを迎える。
転校を機に、馨のことを全てを忘れようと決意した凪。もう二度と彼と会うことはないはずだった。
ところが、あることがきっかけで馨と再会することになる。
「本当に可愛い。」
「凪、俺以外のやつと話していいんだっけ?」
かつてとはまるで別人のような馨の様子に戸惑う凪。
「お願いだから、僕にもう近づかないで」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる