人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

文字の大きさ
上 下
245 / 356
第四章 翼衣專店

第三十二話 美星の怒り(二)

しおりを挟む
「護栄は愛情が分からないんだよ」
「そ、そんなことはないでしょう」
「いえ、そうです。感情を優先したことがないんですよね。薄珂と立珂殿に学ぼうと思ったんですが無理でした」

 護栄はあれからも時間を縫って『天一』で働いているが、美星に怒鳴られてばかりらしい。
 愛情がない思いやりがない、やる気も見えない、お客様が不安になるから帰れと追い出されることもあるという。
 残念ながら実を結ばなかったようだ。

「しかし有翼人という側面に限れば私と同じ側の者が多いと思います。この世界に有翼人の幸せを望む者がどれだけいると思いますか」

 再び全員が黙った。護栄が私情で誹謗中傷したからではなく真実だからだ。
 全種族平等を謳いはするが、有翼人に興味のない者は『国がやるだろう』と無関心なのだ。
 否定も迫害もしないが協力的な関係性は築けていない。

「これは有翼人に限ったことではありません。どんな市場でも賛否はある。けれどどんな市場でも必ず成功する人もいます。それが柳殿です」

 護栄の紹介を受け、柳はにっと笑った。
 麗亜はその補足をするように語り始める。

「私の政治手腕が認められるのは柳の力も大きいんです。服飾や芸能、家具、飲食、不動産、製造業……あらゆる事業で多大な実績を誇ります。特に娯楽産業は明恭でも随一」
「へー」
「もうちょい感動しろよ」
「だってよく分からないし。護栄様の方が凄いよ」
「こんな怪物と比較しないでくれ。大体土俵が違う」

 薄珂の軽い返事に柳は不満を見せたが、立珂に至っては何も分からないようできょとーんとしている。
 これほどやりがいの無い相手もそういないだろう。

「有翼人への愛情は薄珂が立珂殿の服で可視化した。そこに柳殿の治験があれば有翼人保護区は絶対に成功します」
「俺の利益になるなら何でもお手伝いしますよ。ただし条件を付けさせてほしい」
「条件? そんな話は聞いていませんが」
「気が変わったんですよ」

 柳はにやりと笑い、薄珂をぴっと指差した。

「薄珂を俺にくれ。そうすれば有翼人保護区の成功は確実だ」
「断る」

 麗亜含め全員が驚いたが、間髪入れず拒否したのは天藍だ。
 不愉快さを顕わに柳を睨みつけている。

「国民を取引材料にする気はない。却下だ」
「先代皇を蹂躙した方が随分甘いことを言う。成功を逃しますよ」
「問題無い。響玄統括のもと成功へ向かっている」
「それは遠からず墜落します。現場の頭と組織の頭はやることが違う。商人じゃ役不足だ」

 柳は自信満々に笑み、臆することなく天藍を睨み返した。

「区長に俺を据え補佐に薄珂をよこせ。そうすれば」
「ふざけないで!!」

 一同があっけに取られているところに女性の怒号が響いた。
 振り向くと、そこには遅れてやって来た紅蘭と随伴の美星がいた。
 怒りをぶつけたのは紅蘭ではなく、美星だった。
しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

青少年病棟

BL
性に関する診察・治療を行う病院。 小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。 ※性的描写あり。 ※患者・医師ともに全員男性です。 ※主人公の患者は中学一年生設定。 ※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【運命】に捨てられ捨てたΩ

雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」 秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。 「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」 秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。 【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。 なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。 右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。 前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。 ※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。 縦読みを推奨します。

ニケの宿

水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。 しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。 異なる種族同士の、共同生活。 ※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。  キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。  苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない

豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。 とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ! 神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。 そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。 □チャラ王子攻め □天然おとぼけ受け □ほのぼのスクールBL タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。 ◆…葛西視点 ◇…てっちゃん視点 pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。 所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様

くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。 無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。 そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。 見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。 元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。 ※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】I adore you

ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。 そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。 ※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

あの日の記憶の隅で、君は笑う。

15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。 その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。 唐突に始まります。 身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません! 幸せになってくれな!

見ぃつけた。

茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは… 他サイトにも公開しています

処理中です...