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第四章 翼衣專店
第三十二話 美星の怒り(一)
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全員の顔合わせが終わり、暁明を中心に有翼人の生態を踏まえた新たな服の検討が進められた。
その間にもう一つ進み始めたことがある。
「薄珂かっこい~!」
「立珂の考えた規定服だから当然だ」
今日は宮廷に来ている。
薄珂は宮廷職員として参加するため規定服を着ているが、立珂はその姿にめろめろになっている。
幸せいっぱいに兄弟が抱き合う姿はその場の全員が穏やかに微笑み見守っている。
その顔触れは天藍と護栄。そして麗亜と柳だ。
「紅蘭はどうした」
「遅れます。瑠璃宮がごたついてるらしくて」
侍女が全員に茶を出し部屋を出ると、護栄はさて、と一同を見回した。
「では始めます。有翼人保護区に設ける店について」
今日の議題は有翼人保護区だ。
薄珂と立珂があれが良いこれが良いと言ってもその全てが実現できるわけではない。
大筋の柱を立て、そこから細かなことが決まっていく。今回はその柱の一つであり、薄珂と立珂が有識者として参加する『有翼人の娯楽産業』の実態を明確にするのだ。
服や劇団による芸能など、有翼人が楽しく快適な生活を送るにはどんな街が良いかを考えようということだ。
どんな話が始まるのか薄珂も立珂もわくわくしているが、護栄はこほんと小さく咳払いをすると神妙な顔をして口を開いた。
「はっきり申し上げます。私は有翼人保護区で何をすべきか分かりません!」
どどんと言い切る護栄に全員が黙った。
「……護栄様ができないなら誰もできないよ」
「できないとは言っていません。何が理想なのかが分からないんです」
護栄を始め、宮廷は有翼人保護区に無関心だったわけではない。
当初護栄は豊富な水を中心にした区画整理を検討していたが、水道水は有翼人の健康を害すると分かり中止された。
立珂の騒動で香りが駄目で羽はこころ次第で濁ることも判明し、護栄を始め宮廷は自らの無知を知ったという。
だから全てが頓挫していたのだ。
「美しい街作りは難しくありません。けれど有翼人保護区に必要なのはそれではない。何が必要だと思いますか、薄珂。立珂殿も」
「愛情」
「しあわせ!」
「……あなた方らしい答えですね。柳殿は何だと思いますか」
「二人の言う通り満足度でしょうが、私も何が満足に繋がるかは分からないですね」
「私もです。それは宮廷に置き換えれば福利厚生。そして私の施策で最も評判悪いのが福利厚生です」
再び全員が黙った。
福利厚生とは、簡単に言えば職員に過ごしやすい環境を提供することだ。健康のための補償制度や、宮廷で働くのが楽しいと思える提供の全般を指す。
しかし現状あまり好評な提供は無く、どちらかと言えばあれが困るこれが困るという不満の方が多い。
護栄としては『最低限はできている』が、従業員の気持ちは『最低限しかない』のだ。
これに関しては先代皇の方が支持率が高い。政治成果は別にすると、娯楽の充実はすさまじいものだったのだ。瑠璃宮がその筆頭で、煌びやかで楽しい宮廷生活が確立されていた。それだけに護栄の『質素倹約』は苦情ばかりなのだ。
当の護栄に自覚があると断言されてはどう返して良いか困ったが、嬉しそうに笑い飛ばしたのは天藍だ。
その間にもう一つ進み始めたことがある。
「薄珂かっこい~!」
「立珂の考えた規定服だから当然だ」
今日は宮廷に来ている。
薄珂は宮廷職員として参加するため規定服を着ているが、立珂はその姿にめろめろになっている。
幸せいっぱいに兄弟が抱き合う姿はその場の全員が穏やかに微笑み見守っている。
その顔触れは天藍と護栄。そして麗亜と柳だ。
「紅蘭はどうした」
「遅れます。瑠璃宮がごたついてるらしくて」
侍女が全員に茶を出し部屋を出ると、護栄はさて、と一同を見回した。
「では始めます。有翼人保護区に設ける店について」
今日の議題は有翼人保護区だ。
薄珂と立珂があれが良いこれが良いと言ってもその全てが実現できるわけではない。
大筋の柱を立て、そこから細かなことが決まっていく。今回はその柱の一つであり、薄珂と立珂が有識者として参加する『有翼人の娯楽産業』の実態を明確にするのだ。
服や劇団による芸能など、有翼人が楽しく快適な生活を送るにはどんな街が良いかを考えようということだ。
どんな話が始まるのか薄珂も立珂もわくわくしているが、護栄はこほんと小さく咳払いをすると神妙な顔をして口を開いた。
「はっきり申し上げます。私は有翼人保護区で何をすべきか分かりません!」
どどんと言い切る護栄に全員が黙った。
「……護栄様ができないなら誰もできないよ」
「できないとは言っていません。何が理想なのかが分からないんです」
護栄を始め、宮廷は有翼人保護区に無関心だったわけではない。
当初護栄は豊富な水を中心にした区画整理を検討していたが、水道水は有翼人の健康を害すると分かり中止された。
立珂の騒動で香りが駄目で羽はこころ次第で濁ることも判明し、護栄を始め宮廷は自らの無知を知ったという。
だから全てが頓挫していたのだ。
「美しい街作りは難しくありません。けれど有翼人保護区に必要なのはそれではない。何が必要だと思いますか、薄珂。立珂殿も」
「愛情」
「しあわせ!」
「……あなた方らしい答えですね。柳殿は何だと思いますか」
「二人の言う通り満足度でしょうが、私も何が満足に繋がるかは分からないですね」
「私もです。それは宮廷に置き換えれば福利厚生。そして私の施策で最も評判悪いのが福利厚生です」
再び全員が黙った。
福利厚生とは、簡単に言えば職員に過ごしやすい環境を提供することだ。健康のための補償制度や、宮廷で働くのが楽しいと思える提供の全般を指す。
しかし現状あまり好評な提供は無く、どちらかと言えばあれが困るこれが困るという不満の方が多い。
護栄としては『最低限はできている』が、従業員の気持ちは『最低限しかない』のだ。
これに関しては先代皇の方が支持率が高い。政治成果は別にすると、娯楽の充実はすさまじいものだったのだ。瑠璃宮がその筆頭で、煌びやかで楽しい宮廷生活が確立されていた。それだけに護栄の『質素倹約』は苦情ばかりなのだ。
当の護栄に自覚があると断言されてはどう返して良いか困ったが、嬉しそうに笑い飛ばしたのは天藍だ。
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