人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第二十六話 『はっかのおみせ』開店(一)

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 饗宴が終わり、数日は麗亜も愛憐も忙しいらしく会うことはできなかった。
 けれどその間は薄珂と立珂も忙しくしていた。
 それは『りっかのおみせ』で新たな試みをするためだ。

「薄珂! 準備整ったわよ!」
「美月はもう着替えて! 美星さんはお土産の最終確認お願い! 追加で八人入れちゃったからその分忘れないで!」
「承知致しました!」

 今日の店内は慌ただしい。
 今まで使っていなかった部屋を開放し、そこには椅子がずらりと並べられ既に客が着席している。
 侍女は部屋の中にも外にも大勢待機している。

「じゃあ始めよう。顧客しかいないけど気は抜かずに」
「「「「「はい」」」」」
「現場指揮は美星さん。みんなが報告するのは美星さんで、俺に報告するのは美星さんだけ。美星さんは常に立珂と一緒」
「承知いたしました」
「美月には指示を仰がないように。今日は従業員ではなく演者。余計な話を持ち込まないこと。美月は何か聞かれたら美星さんへ回して」
「了解」

 薄珂は従業員と目線を交わし頷くと、横で静かに待機している人物に跪き首を垂れた。

「本日はご協力くださり誠に有難うございます、彩寧様」
「頼って頂けて嬉しいですわ」

 侍女筆頭の彩寧。彼女は宮廷に入って初めて立珂が懐いた相手だ。
 彩寧は三人の子供に孫が一人いて、子供のうち一人と孫は有翼人だった。腕には一歳になる有翼人の孫を抱いている。
 今日はどうしても有翼人の赤ん坊を育てた経験者の協力が必要なのだ。

「薄珂様なら気付いて下さると思っておりました」
「俺は大変だと思った事ないけど、大変な人もいるみたいだからね」

 今日の客は全員有翼人の子供を持つ母親である。
 先日の饗宴で母親の大変さを知り、以来街で親子連れに注視した。
 聞いてみると誰も彼もが買い物に不便を感じていた。子供を預けられる相手がいる家は良いが、そうではない場合は大変だ。
 腰に下げられる分しか買い物ができないため、抱っこしたまま何度も往復する。支払いのたびに子供を下ろし支払また立ち上がり、店先でそんなことをしていると店主にさっさとどけと嫌な顔をされる。買い物だけで半日以上を費やすとのことだった。
 抜本的な問題解決が必要だが、有翼人保護区で手いっぱいの今宮廷に何かを要求することはできない。
 けれど目先の対処ならいくつか考えられた。今日はその対処法を提案する場。

「今日の主役は有翼人じゃなくて有翼人の家族だ!」
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