人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第二十三話 立珂が繋ぐ新たな絆【前編】

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 紅蘭が護栄を掴んだまま玄関から外を覗くと、そこには一人の男が暴れている姿があった。
 看板や店の装飾に置いている物を片っ端から壊している。

「ごろつきくらい自分でやって下さいよ」
「ふざけんな。税金分国民を守りやがれ」
「まったく……」

 護栄は大きなため息を吐くと、やれやれと店の外へ出た。

「お止しなさい。器物損壊ですよ」
「は――あ!? 護栄!? 何でお前がここに!!」
「呼び捨てとはいい度胸ですね」

 男は護栄を見て後ずさったが、同時に護栄の後ろにいた立珂を視界に捕らえてぎろりと睨んだ。

「有翼人ばっか幅効かせやがって……!」
「どこがです。つつましく生活してますよ、彼らは」
「保護区だよ! そっちの保護区作るんだろ!」
「ああ、あなたは獣人ですか。獣人保護区が完成したんだから当然です」
「何が完成だ! こっちは歩くのも大変だってのに!」
「歩くのも?」

 急に話が有翼人とは違うところへ飛び薄珂は首を傾げた。
 蛍宮は平和な街だ。ところどころに警備兵がいるので何かがあっても多ごとになることはあまりない。
 薄珂も獣人だが歩くのが大変と思うことは無かった。

(あ、もしかして)

 薄珂は立珂を紅蘭に任せ、暴れる男の前に立った。

「それって獣化を我慢するのが大変って意味?」
「ああ!? 子供は下がってろ! お前にゃ関係ね」
「獣化を我慢しなくていい服があるんだけど」
「……あ?」

 薄珂は食い気味に答えると、男は急にぴたりと固まった。

(やっぱり。おじさんと孔雀先生の言う通りなんだ)

 これは以前、獣化が上手くできないことを相談した時に聞いたことだ。
 獣人は獣が人間に姿を変えるため、正しくは獣化ではなく『人化』だ。獣の姿で生きることが本来であり、人の姿を保つのは本能を抑えることなのだ。
 だが人間と共生する以上は人間の姿を基本とする。
 しかし獣と人間では身体の形が違うので、人化した時は裸だ。獣に戻る時も服を脱いで裸になってからするため、風紀を乱すとして公共の場での獣化・人化は一切禁止されているのだ。
 つまり獣人は常に本能を抑え込み生活をしなくてはいけない。獣の本能が強い場合これはとても苦しい事らしい。
 それをしなくていい服があるのなら、それは画期的に生活がしやすくなるだろう。

「……何だ服って」
「持ち歩ける服だよ。これ」
「はあ?」

 薄珂は腰に下げていた立珂考案の獣化対策服を広げて見せた。

「お、おお。服になった」
「人化対策だよ。着たまま脱げる服もあって、そっちが獣化対策」
「は!? 何だそれ! 見せてくれ!」
「じゃあうちの店に行こう。獣種ごとにいくつかあるんだ」
「店!? そんな店あんのか!」
「うん。全種族平等の宮廷品質だよ」

 薄珂は立珂を抱き上げ歩き出した。
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