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第四章 翼衣專店
第十九話 立珂仲直りをする【中編】
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「立珂?」
立珂は薄珂の手を退けて、再び美月の手を握った。
「僕のせいでお客さん来なくなったから僕にも同じことしようと思ったの?」
「そうよ」
「けど『蒼玉』はもっとお客さん来なくなるよ。美月ちゃんのせいだよ」
「は? 馬鹿言わないで。私はいつも全力で集客も接客もやってるわ」
「関係無いよ。だって美月ちゃんは犯罪者になったから牢屋に入るんだもん」
「……え?」
びくりと美月が大きく震えた。
立珂は「そうだよね」とこの場にそぐわぬ愛らしい仕草で玲章を見上げた。
「不法侵入に営業妨害に器物破損。離宮だから不敬罪も加わる。少なくとも懲役五年は覚悟した方が良い」
「ちょ、懲役……?」
「それと『蒼玉』は閉店だ。殿下へ不敬をはたらく店を続けさせるわけにはいかない」
「閉店!? そ、そんな!! そんな……」
もう一度大きく美月の身体が揺れた。
目はうろうろと泳いでいるが、立珂はその頬に手を添え真っ直ぐ見つめた。
「美月ちゃんも『ひどい人』だね」
美月はかたかたと震えた。おそらくそこまで考えていなかったのだろう。
だが護栄は情に流され罪を不問にするようなことはないだろう。それが分かっているから玲章も響玄も助け舟を出しはしない。
薄珂も仕方ないと思ったが、しかし立珂は何故か美月を抱きしめた。
「な、なによ!」
「僕ね、前の規定服作った人がすごい人だって知ってるよ」
「え?」
「僕も侍女のみんなも服の専門家じゃないから前の規定服がずっと愛されてた理由分からなかったんだ」
立珂はにこりと微笑むと、美月が握りしめている廃止された規定服を撫でた。
「最初にやったのは前の規定服を解いて魅力を知るところから。そこに少し手を加えたけど、元はこの規定服なの。無くなったんじゃないよ。服に歴史が増えただけなんだよ」
「そんな、そんなの詭弁よ。何とでも言えるわ」
「……そうだね。勝手に変えちゃいけなかったんだ。作った人が嫌な気持ちになるって気付かないといけなかったよね」
立珂はしょんぼりと肩を落とした。
泣きそうな顔をしていて美月も困惑していたが、立珂は、でもね、と急に笑顔になった。
「規定服もっと改善するの! 前はもっと動きやすかったのにーって意見があってね。でも僕宮廷で働いたことないから全然分からないの。でも美月ちゃんのお父さんはきっと知ってるよね」
「当たり前よ! 『蒼玉』は働く人のための服を作ってるんだから!」
「あ! 僕も今そういうの考えてるんだ! 有翼人が働きやすい服ってどんなのがいいと思う!?」
「私は知らないわ。お父様に聞――」
聞いて、そう言おうとしたのだろう。
立珂に踏みにじられた父に聞けと。そんなことはありえないだろう。
けれど美月の父は立珂に教えられることがある。『蒼玉』は『りっかのおみせ』の犠牲になったけれど、できることもあるのだ。
美月は強く目を瞑り、意を決したように立珂を見つめ返した。
「……お父様に教えて頂いたらいいわ。蛍宮で百年以上を生きた『蒼玉』に作れない服はないんだから」
「うん! 一緒に作ろう!」
立珂はにっこりと微笑み、ぎゅうっと美月を抱きしめた。
「怒ってごめんね」
「……ごめんなさい。悔しかったの。あんまりにも素敵で悔しかったの!」
「そうでしょう! でもきっと美月ちゃんのお店の服も素敵なんだよね!」
「ええ。負けないくらい素敵よ」
「僕見たい! 見に行っていい?」
立珂は今着てるのはどんな服なの、と美月の手を引きはしゃぎ始めた。
よく見れば美月の服はどこにもない、けれど蛍宮でよく見る服にも思えた。新しくも古くも感じ、立珂はどうしてどうして、と執拗に聞いている。作り方は知らないという美月は困っているようだが、立珂はあれやこれやと質問攻めだ。
そんな和やかな様子を見て、薄珂と玲章はこそっと耳打ちをした。
立珂は薄珂の手を退けて、再び美月の手を握った。
「僕のせいでお客さん来なくなったから僕にも同じことしようと思ったの?」
「そうよ」
「けど『蒼玉』はもっとお客さん来なくなるよ。美月ちゃんのせいだよ」
「は? 馬鹿言わないで。私はいつも全力で集客も接客もやってるわ」
「関係無いよ。だって美月ちゃんは犯罪者になったから牢屋に入るんだもん」
「……え?」
びくりと美月が大きく震えた。
立珂は「そうだよね」とこの場にそぐわぬ愛らしい仕草で玲章を見上げた。
「不法侵入に営業妨害に器物破損。離宮だから不敬罪も加わる。少なくとも懲役五年は覚悟した方が良い」
「ちょ、懲役……?」
「それと『蒼玉』は閉店だ。殿下へ不敬をはたらく店を続けさせるわけにはいかない」
「閉店!? そ、そんな!! そんな……」
もう一度大きく美月の身体が揺れた。
目はうろうろと泳いでいるが、立珂はその頬に手を添え真っ直ぐ見つめた。
「美月ちゃんも『ひどい人』だね」
美月はかたかたと震えた。おそらくそこまで考えていなかったのだろう。
だが護栄は情に流され罪を不問にするようなことはないだろう。それが分かっているから玲章も響玄も助け舟を出しはしない。
薄珂も仕方ないと思ったが、しかし立珂は何故か美月を抱きしめた。
「な、なによ!」
「僕ね、前の規定服作った人がすごい人だって知ってるよ」
「え?」
「僕も侍女のみんなも服の専門家じゃないから前の規定服がずっと愛されてた理由分からなかったんだ」
立珂はにこりと微笑むと、美月が握りしめている廃止された規定服を撫でた。
「最初にやったのは前の規定服を解いて魅力を知るところから。そこに少し手を加えたけど、元はこの規定服なの。無くなったんじゃないよ。服に歴史が増えただけなんだよ」
「そんな、そんなの詭弁よ。何とでも言えるわ」
「……そうだね。勝手に変えちゃいけなかったんだ。作った人が嫌な気持ちになるって気付かないといけなかったよね」
立珂はしょんぼりと肩を落とした。
泣きそうな顔をしていて美月も困惑していたが、立珂は、でもね、と急に笑顔になった。
「規定服もっと改善するの! 前はもっと動きやすかったのにーって意見があってね。でも僕宮廷で働いたことないから全然分からないの。でも美月ちゃんのお父さんはきっと知ってるよね」
「当たり前よ! 『蒼玉』は働く人のための服を作ってるんだから!」
「あ! 僕も今そういうの考えてるんだ! 有翼人が働きやすい服ってどんなのがいいと思う!?」
「私は知らないわ。お父様に聞――」
聞いて、そう言おうとしたのだろう。
立珂に踏みにじられた父に聞けと。そんなことはありえないだろう。
けれど美月の父は立珂に教えられることがある。『蒼玉』は『りっかのおみせ』の犠牲になったけれど、できることもあるのだ。
美月は強く目を瞑り、意を決したように立珂を見つめ返した。
「……お父様に教えて頂いたらいいわ。蛍宮で百年以上を生きた『蒼玉』に作れない服はないんだから」
「うん! 一緒に作ろう!」
立珂はにっこりと微笑み、ぎゅうっと美月を抱きしめた。
「怒ってごめんね」
「……ごめんなさい。悔しかったの。あんまりにも素敵で悔しかったの!」
「そうでしょう! でもきっと美月ちゃんのお店の服も素敵なんだよね!」
「ええ。負けないくらい素敵よ」
「僕見たい! 見に行っていい?」
立珂は今着てるのはどんな服なの、と美月の手を引きはしゃぎ始めた。
よく見れば美月の服はどこにもない、けれど蛍宮でよく見る服にも思えた。新しくも古くも感じ、立珂はどうしてどうして、と執拗に聞いている。作り方は知らないという美月は困っているようだが、立珂はあれやこれやと質問攻めだ。
そんな和やかな様子を見て、薄珂と玲章はこそっと耳打ちをした。
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