人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第十七話 立珂いじめられる【中編】

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 響玄は瑠璃宮へと走った。
 ことを告げると立珂は顔を真っ青にして震え出した。けれど薄珂は冷静で、売り場を護栄と美星に任せ立珂を抱いて『りっかのおみせ』へと走った。
 そして赤く染まった服を見て、立珂はぼろぼろと涙を流し始めた。

「なんで!? どうして!?」
「立珂!」
「ひどいぃ! みんなが作ってくれたのに!」

 立珂は塗料で使い物にならなくなった服に飛びつこうとしたが、薄珂が慌てて抱き留めた。塗料が羽に付いたら一大事だ。
 立珂はわああんと声を上げて泣き、薄珂も泣いてしまうのではと思い駆け寄った。
 だが薄珂はきょろきょろと室内を確認すると、よし、と頷き毅然と立ち上がった。

「立珂。泣いている暇はないぞ。もう一度作ろう」
「う、う……うん……」
「よし。じゃあみんなにちゃんとお願いしよう」
「……うん! みんな! 力を貸してください!」
「ええ! もちろんです!」
「何日で作れる? 一先ず二日分でいい」
「侍女を総動員いたしますが、それでも三日は必要かと……」
「十分」

 薄珂は涙でぐしゃぐしゃになった立珂の頬を拭い、ぎゅっと抱きしめ抱き上げた。

「店を開ける。みんな手を貸して」
「え? で、ですが商品がこれでは」
「大丈夫。新商品があるんだ」
「新商品? 何だそれは」

 想像もしていなかった言葉に響玄と侍女はきょとんと首を傾げた。
 立珂も不思議そうな顔をしているけれど、薄珂はまったく動じていない。

(考えがあるのか。この状況でも何か手が)

 響玄は薄珂がどうするかが気になり、あえて手を出さず一歩引いた。

「家具の位置を変える。棚は壁際の二つを除いて全部片づけて。空間を作って机を並べる」
「た、棚を全てですか? ですが無事な在庫もあります」
「いいんだ。売らない・・・・から」
「ええ?」

 物を売るのが店だというのに、何を言ってるんだ、と侍女も皆眉をひそめた。
 けれど薄珂はにっこりと微笑み、立珂を高く抱き上げた。

「在庫が揃うまで立珂を売る!」
「「「「えーーーー!!??」」」」

 自信ありげな笑顔を見せた薄珂だが、全員同時に叫び声をあげ顔を真っ青にした。

「なななななな何てことをおっしゃるんです!!」
「うわっ」

 侍女はびゅんっと薄珂に詰め寄り首元をひっつかみがくがくと揺らした。
 首が締まった薄珂はぐえ、と呻くが、同時にわあああっと立珂が泣き叫んだ。

「やだああああ! 薄珂と一緒にいたいよぉおお! 売らないでええええ!」
「え?」
「こんなに愛されていながらよくもそのようなことを!」
「立珂様を売るなんて私共が許しません! 宮廷でお守り申し上げます!」
「え、ああ、ごめんごめん。立珂自身を売るんじゃないよ」
「う?」

 薄珂は泣きじゃくる立珂を強く抱きしめ、ぽんぽんと背を撫でる。

「そんなことするわけないじゃないか。俺は立珂が大好きなんだ。立珂が嫌がったって放してやるもんか!」
「んにゃ、にゃ」

 いつものようにうりうりと頬ずりをすると、立珂はぴたりと涙を止めて頬ずりを返した。
 立珂がすっかり泣き止んだのを見て、よし、と薄珂は立珂を抱き上げた。

「新商品は物じゃない。立珂の『お洒落術』を売るんだ!」
「……う?」
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