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第四章 翼衣專店
第十七話 立珂いじめられる【前編】
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響玄は店舗の小売りではなく、他国との交易を本業としている。
薄珂と立珂に貸した店名『天一有翼人店』は響玄の店舗名だが、ここ客が来る事はほとんどない。
今日も開店休業状態だ。
(二人はうまくやってるかな。午後は様子を見に行くか)
響玄は窓から瑠璃宮のある方向へ視線を向けた。
響玄にとって薄珂と立珂は息子のようなものだった。
当初は薄珂に仕事を教えるという名目だったが、実のところ響玄が教えているのは生活の基礎ばかりだ。
硬貨の数え方や換金、文字の読み書き、森育ちの二人はあまりにも人と共に暮らす知識が無かった。
先は長いと思っていたが、薄珂は護栄に商談を持ちかけあっという間に店を開くに至った。もはや響玄の手を離れていて寂しくもある。
薄珂と立珂のいない店はがらんどうのようで、寂しさにふけっていると突如宮廷侍女が飛び込んできた。
「響玄様!」
「どうしました、そんなに慌てて」
「大変です! 今すぐ『りっかのおみせ』へいらして下さい!」
「何だと!?」
薄珂と立珂が『天一有翼人店』に出ている間『りっかのおみせ』は侍女で営業をしてくれている。
二人がいなくても客が絶えないところまで成長していて、響玄も数日に一度は覗くが何ら問題もなかった。
しかし今日はそれが一転していた。
「これは……!」
「朝来たらこんなになっていて……」
そこは酷い有様だった。商品在庫を保管している部屋中に真っ赤な塗料がぶちまけられていた。あちこちに塗料が付着し、服も家具も使い物にならない。
こんな強い薬品のにおいのする服では、においに弱い有翼人は倒れてもおかしくはない。
「とにかく換気だ。窓を開けなさい」
「はい!」
「盗難か? 施錠はしていたのか?」
「昨日の鍵当番は誰です!」
「わ、私です。でもちゃんと施錠しました!」
「けどこじ開けられた様子もないし、窓も扉も傷一つない。絶対に鍵を開けて入ってるわよ」
「違います! 私じゃありません! それに鍵を戻したのは彼女です!」
「わ、私はきちんと封をしました!」
「でも戻したのはあなたじゃない!」
侍女たちは自分ではないと責任のなすりつけ合いを始めてしまった。
(まずいな。これは今後のわだかまりになる)
犯人が誰であれ、この店のせいで侍女が不仲になれば立珂は心を痛めるだろう。
響玄はぱんぱんと手を叩き侍女の言い合いを仲裁した。
「犯人捜しは後だ。それより在庫は足りるのか」
「個人依頼の特注品は無事ですが既製品在庫は……」
侍女は棚に目を向けるが、そこにあるのは服か雑巾か分からない。
せめて切り刻まれているなら縫い合わせることもできただろうが、それもできない。
(これは組み合わせる服と知ってのことだろう。犯人は立珂のお洒落を良く知っている)
立珂のお洒落を熟知しているのは侍女たちだ。
けれど立珂が愛している侍女に犯人がいるとは思いたくなかった。
「薄珂と立珂を呼んで来る。無事な在庫を探してくれ」
「はい!」
薄珂と立珂に貸した店名『天一有翼人店』は響玄の店舗名だが、ここ客が来る事はほとんどない。
今日も開店休業状態だ。
(二人はうまくやってるかな。午後は様子を見に行くか)
響玄は窓から瑠璃宮のある方向へ視線を向けた。
響玄にとって薄珂と立珂は息子のようなものだった。
当初は薄珂に仕事を教えるという名目だったが、実のところ響玄が教えているのは生活の基礎ばかりだ。
硬貨の数え方や換金、文字の読み書き、森育ちの二人はあまりにも人と共に暮らす知識が無かった。
先は長いと思っていたが、薄珂は護栄に商談を持ちかけあっという間に店を開くに至った。もはや響玄の手を離れていて寂しくもある。
薄珂と立珂のいない店はがらんどうのようで、寂しさにふけっていると突如宮廷侍女が飛び込んできた。
「響玄様!」
「どうしました、そんなに慌てて」
「大変です! 今すぐ『りっかのおみせ』へいらして下さい!」
「何だと!?」
薄珂と立珂が『天一有翼人店』に出ている間『りっかのおみせ』は侍女で営業をしてくれている。
二人がいなくても客が絶えないところまで成長していて、響玄も数日に一度は覗くが何ら問題もなかった。
しかし今日はそれが一転していた。
「これは……!」
「朝来たらこんなになっていて……」
そこは酷い有様だった。商品在庫を保管している部屋中に真っ赤な塗料がぶちまけられていた。あちこちに塗料が付着し、服も家具も使い物にならない。
こんな強い薬品のにおいのする服では、においに弱い有翼人は倒れてもおかしくはない。
「とにかく換気だ。窓を開けなさい」
「はい!」
「盗難か? 施錠はしていたのか?」
「昨日の鍵当番は誰です!」
「わ、私です。でもちゃんと施錠しました!」
「けどこじ開けられた様子もないし、窓も扉も傷一つない。絶対に鍵を開けて入ってるわよ」
「違います! 私じゃありません! それに鍵を戻したのは彼女です!」
「わ、私はきちんと封をしました!」
「でも戻したのはあなたじゃない!」
侍女たちは自分ではないと責任のなすりつけ合いを始めてしまった。
(まずいな。これは今後のわだかまりになる)
犯人が誰であれ、この店のせいで侍女が不仲になれば立珂は心を痛めるだろう。
響玄はぱんぱんと手を叩き侍女の言い合いを仲裁した。
「犯人捜しは後だ。それより在庫は足りるのか」
「個人依頼の特注品は無事ですが既製品在庫は……」
侍女は棚に目を向けるが、そこにあるのは服か雑巾か分からない。
せめて切り刻まれているなら縫い合わせることもできただろうが、それもできない。
(これは組み合わせる服と知ってのことだろう。犯人は立珂のお洒落を良く知っている)
立珂のお洒落を熟知しているのは侍女たちだ。
けれど立珂が愛している侍女に犯人がいるとは思いたくなかった。
「薄珂と立珂を呼んで来る。無事な在庫を探してくれ」
「はい!」
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