人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第十六話 護栄の覚悟を支えるもの【後編】

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「……今着てらっしゃるのはどのような魅力がありますか」
「では立珂殿に聞きましょうか。立珂殿。彼がこの服の魅力を教えてほしいそうです」
「いいよ! あのね、これは『人間になれる服』なんだ! 羽を隠せる服だよ!」
「隠す? 君の望みは有翼人の幸せではないの?」
「うん! でも隠したい人もいるんだよ。簡単に綺麗に隠せるのもしあわせだよね!」
「それは……」
「ふふ。それにね」

 立珂は急に厳しい顔をして浩然にこそこそと近寄り小声で喋り始めた。

「そうした方が『おんびん』な時もあるんだって。『こっちが大人になってあげる』んだよ。知ってる?」
「……護栄様。子供になんてことを教えてるんですか」
「いえ。それは薄珂殿が教えたんですよ」
「えっ」
「この子を単なる兄馬鹿だと思ってると痛い目を見ますよ」

 護栄はくすくすと楽しそうに笑い、薄珂と立珂の頭を撫でた。
 それはまるで仲の良い家族がすることのようで、立珂はきゃあと叫んで護栄に抱き着いた。

「……立珂。僕にも見繕ってくれるかい」
「いいよ! 護栄様のとおそろいはこれだよ!」
「そ、それはちょっと」

 立珂は敵意を向けられていたことなど気付いていないだろう。
 護栄が友人を連れて遊びに来てくれた程度にしか思っていないに違いない。

「護栄様、有難う」
「いいえ。こちらこそ迷惑をかけましたね」
「そんなことないよ。護栄様の『人を狂わせる覚悟』を支えてる人とは仲良くしたいから」
「……そういうことをしれっと言うのが恐ろしいんです、私は」
「え? 何が?」
「ほら。立珂殿が呼んでますよ」
「あ、ちょっと!」

 護栄は薄珂を無視して立珂と浩然の会話に混ざってしまった。
 何だか煙に巻かれた終わりで釈然としないが、立珂がいつも以上に笑顔で楽しそうなので良しとした。
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