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第四章 翼衣專店
第十五話 薄珂嫌われる【後編】
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そして翌日、売り場に行くと既に護栄がやって来ていた。
『天一有翼人店』の服を身に着け商品を一つ一つ見ている。
「おはよう。どうしたの?」
「おはようございます。この服の形状の意味を考えてまして」
「形状?」
「立珂殿の服は複数の布を釦と紐で組み合わせるのが基本。これは縫製の手間があるでしょう」
「だって有翼人は布がばらばらじゃないと駄目なんだもの」
「それは何故です?」
「一人で着替えられないからだよ。穴が開いてても通すために羽を折り曲げて外から引っ張らなきゃいけないでしょ?」
「いっぱい動くから汗かいちゃうの。着替えるだけで汗疹になるの」
「なるほど。では部品だけ売ってみては?」
「『りっかのおみせ』では売ってるよ。でも『天一有翼人店』でそれやると安っぽく見えるかなって」
「それはありますね。使い回しのような印象もありますし」
「うん。それに利便性を追求するのは『りっかのおみせ』ならではにしておこうと思って」
「差別化ですね。なるほど。これは客へ教えるべきことですね」
美星に言われて考えることでもあったのか、護栄は片っ端から立珂に魅力の説明を求めた。
それもすぐに理解し、早くも立珂と服の議論をしている。
立珂はにこにこと嬉しそうにしていて、耐え切れず笑いが零れたようだった。
「うふふ!」
「何です?」
「護栄様が服のお話してくれて嬉しいの。たのしいの!」
「……服など着られれば良いと思っていました。ですが知れば奥深い。私はもっと既存の服に似ていた方が良い気がします」
「う? なんで?」
「抵抗があるんです。立珂殿の服は劇団の衣装に近い印象がある。これで賓客をもてなすのは少々難しい」
「そっか。ふざけてるって思われるかもしれない」
「ええ。着易さを損なっても現状に寄せた方が良いでしょう」
「そうだよね。こっちが大人になった方が穏便なこともあるし」
「う? どういう意味?」
「この服の良さを理解せず怒る人は相手にしない。喜ぶこと言って気分良くさせて流すんだよ」
「おー」
「あなたは意外と汚いことも教えますね」
「え? そう?」
「良いならいいですけどね。でもまあ、歴史を無視した改革はうまくいかないものです」
「莉雹様もそんなこと言ってたね。規定服も前の方がよかったって言う人もいるんだって」
「慣れるまではそうでしょうね。ですが規定服の変更は必要なこと。胸を張って良いですよ」
「んー……」
立珂はううんと口を尖らせて唸った。
今までは薄珂に教えられるばかりだったのに、今では薄珂が教えられる事も少なくない。
(服が立珂に新しい世界をくれた。なら俺は立珂の店を守る。でも……)
頭に浮かぶのは怒りに満ちた浩然だった。
薄珂は立珂のために護栄の力を必要とした。そして浩然もまた、自分と蛍宮のために護栄を必要としているのだ。
薄珂は意を決して護栄に向かっていった。
「護栄様。お願いがあるんだ」
「何です?」
『天一有翼人店』の服を身に着け商品を一つ一つ見ている。
「おはよう。どうしたの?」
「おはようございます。この服の形状の意味を考えてまして」
「形状?」
「立珂殿の服は複数の布を釦と紐で組み合わせるのが基本。これは縫製の手間があるでしょう」
「だって有翼人は布がばらばらじゃないと駄目なんだもの」
「それは何故です?」
「一人で着替えられないからだよ。穴が開いてても通すために羽を折り曲げて外から引っ張らなきゃいけないでしょ?」
「いっぱい動くから汗かいちゃうの。着替えるだけで汗疹になるの」
「なるほど。では部品だけ売ってみては?」
「『りっかのおみせ』では売ってるよ。でも『天一有翼人店』でそれやると安っぽく見えるかなって」
「それはありますね。使い回しのような印象もありますし」
「うん。それに利便性を追求するのは『りっかのおみせ』ならではにしておこうと思って」
「差別化ですね。なるほど。これは客へ教えるべきことですね」
美星に言われて考えることでもあったのか、護栄は片っ端から立珂に魅力の説明を求めた。
それもすぐに理解し、早くも立珂と服の議論をしている。
立珂はにこにこと嬉しそうにしていて、耐え切れず笑いが零れたようだった。
「うふふ!」
「何です?」
「護栄様が服のお話してくれて嬉しいの。たのしいの!」
「……服など着られれば良いと思っていました。ですが知れば奥深い。私はもっと既存の服に似ていた方が良い気がします」
「う? なんで?」
「抵抗があるんです。立珂殿の服は劇団の衣装に近い印象がある。これで賓客をもてなすのは少々難しい」
「そっか。ふざけてるって思われるかもしれない」
「ええ。着易さを損なっても現状に寄せた方が良いでしょう」
「そうだよね。こっちが大人になった方が穏便なこともあるし」
「う? どういう意味?」
「この服の良さを理解せず怒る人は相手にしない。喜ぶこと言って気分良くさせて流すんだよ」
「おー」
「あなたは意外と汚いことも教えますね」
「え? そう?」
「良いならいいですけどね。でもまあ、歴史を無視した改革はうまくいかないものです」
「莉雹様もそんなこと言ってたね。規定服も前の方がよかったって言う人もいるんだって」
「慣れるまではそうでしょうね。ですが規定服の変更は必要なこと。胸を張って良いですよ」
「んー……」
立珂はううんと口を尖らせて唸った。
今までは薄珂に教えられるばかりだったのに、今では薄珂が教えられる事も少なくない。
(服が立珂に新しい世界をくれた。なら俺は立珂の店を守る。でも……)
頭に浮かぶのは怒りに満ちた浩然だった。
薄珂は立珂のために護栄の力を必要とした。そして浩然もまた、自分と蛍宮のために護栄を必要としているのだ。
薄珂は意を決して護栄に向かっていった。
「護栄様。お願いがあるんだ」
「何です?」
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