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第四章 翼衣專店
第十五話 薄珂嫌われる【前編】
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「護栄様の第一秘書官?」
「財務経理を統括している。護栄様直属の部下になったのは僕が初めてだ」
「初めて……」
突如現れた青年の自己紹介に薄珂は引っかかりを覚えた。
宮廷職員は先代皇派を除きほぼ全て護栄の部下にあたるが、直属となると話は別だ。
以前護栄から聞いた言葉が脳裏に浮かぶ。
『私の元で生き残ったのは三人だけですよ』
護栄直属の部下は三名だけだ。
「三人の生き残りの一人!」
「は?」
「あ、いえ」
護栄には大きく四つの仕事がある。
一つは皇太子天藍に関わる全てを行う秘書官だ。政治も雑事も何でもで、これが主業務だ。
二つ目は先代皇派の協調だ。かつては敵でも国を想う気持ちは同じ――という建前を持って手のひらで踊らせる政治的軍師だ。
三つ目は職員の採用関連だ。天藍を引きずりおろそうとする者は少なくない。そのため宮廷に出入りする者は厳しい審査があり、それを統括している。
そして四つ目は、浩然が現場指揮を執る財務経理だ。宮廷予算を一手に担う存在である。
(大きな方針は護栄様が決めるけど、実際やるのは別の人なんだっけ。それがこの人か)
浩然はいかにも知的な顔立ちで、凛とした雰囲気はどことなく護栄に似ている。
着ている規定服も着崩さずきっちりと着こなしていて、上品な立ち姿も護栄を彷彿とさせた。
それだけに剥き出しの敵意は護栄に睨まれてるようで恐怖を覚える。
「えっと、護栄様に会いに来たの?」
「いや。君に話があるんだ」
「俺に?」
「護栄様がどういう方か知っているか」
浩然は薄珂の言葉へ食い気味に問いかけてきた。
睨まれる圧が強すぎて薄珂は思わず一歩下がってしまう。
「凄い人だと思ってるよ」
「当然のことを言うな。何故凄いんだと思う?」
「……戦争を三日で終わらせたとか、難しいことなんでもできるとか」
「三日で終わらせた具体的な方法は? 難しいことというのは何を指している?」
「え……」
浩然はじりじりと距離を縮めてきた。
何か答えなければと口を開きかけたが、それを待たずに浩然はまた語り始めた。
「知らないだろう? あの方がこの国にとってどれだけ重要か、君は話でしか知らない」
それは確かにそうだ。行動を共にする中で凄い人物であることは実感しているが、具体的にやっていることは知らない。
護栄に関して無知である事が罪ならば、今罰せられても仕方がない。
だがここは政治の場ではない。立珂の店の前だ。
浩然の怒りの理由は分からないが、立珂が笑顔でいられるこの場所を踏みにじられるのは我慢ならなかった。
「それ今ここで話す必要ある? 立珂の店には関係無いよ」
「そうだ。関係無い。関係のないことで君は護栄様の時間を奪っている。その裏で何が起きているか分かっているか」
「知らないけど……」
「護栄様の分を他の者で穴埋めをしなくてはいけない。だがあの方の穴を埋めるなんてできないんだ。そのために五人も十人も過重労働になっている。君達兄弟のために何人もが犠牲になっているんだよ」
「犠牲って、でも護栄様は」
「自分のことは自分でやってくれ。護栄様の手を煩わせるな!」
「は?」
そう言うと、浩然は薄珂をひと睨みして去っていった。
(なんだあいつ~!)
「財務経理を統括している。護栄様直属の部下になったのは僕が初めてだ」
「初めて……」
突如現れた青年の自己紹介に薄珂は引っかかりを覚えた。
宮廷職員は先代皇派を除きほぼ全て護栄の部下にあたるが、直属となると話は別だ。
以前護栄から聞いた言葉が脳裏に浮かぶ。
『私の元で生き残ったのは三人だけですよ』
護栄直属の部下は三名だけだ。
「三人の生き残りの一人!」
「は?」
「あ、いえ」
護栄には大きく四つの仕事がある。
一つは皇太子天藍に関わる全てを行う秘書官だ。政治も雑事も何でもで、これが主業務だ。
二つ目は先代皇派の協調だ。かつては敵でも国を想う気持ちは同じ――という建前を持って手のひらで踊らせる政治的軍師だ。
三つ目は職員の採用関連だ。天藍を引きずりおろそうとする者は少なくない。そのため宮廷に出入りする者は厳しい審査があり、それを統括している。
そして四つ目は、浩然が現場指揮を執る財務経理だ。宮廷予算を一手に担う存在である。
(大きな方針は護栄様が決めるけど、実際やるのは別の人なんだっけ。それがこの人か)
浩然はいかにも知的な顔立ちで、凛とした雰囲気はどことなく護栄に似ている。
着ている規定服も着崩さずきっちりと着こなしていて、上品な立ち姿も護栄を彷彿とさせた。
それだけに剥き出しの敵意は護栄に睨まれてるようで恐怖を覚える。
「えっと、護栄様に会いに来たの?」
「いや。君に話があるんだ」
「俺に?」
「護栄様がどういう方か知っているか」
浩然は薄珂の言葉へ食い気味に問いかけてきた。
睨まれる圧が強すぎて薄珂は思わず一歩下がってしまう。
「凄い人だと思ってるよ」
「当然のことを言うな。何故凄いんだと思う?」
「……戦争を三日で終わらせたとか、難しいことなんでもできるとか」
「三日で終わらせた具体的な方法は? 難しいことというのは何を指している?」
「え……」
浩然はじりじりと距離を縮めてきた。
何か答えなければと口を開きかけたが、それを待たずに浩然はまた語り始めた。
「知らないだろう? あの方がこの国にとってどれだけ重要か、君は話でしか知らない」
それは確かにそうだ。行動を共にする中で凄い人物であることは実感しているが、具体的にやっていることは知らない。
護栄に関して無知である事が罪ならば、今罰せられても仕方がない。
だがここは政治の場ではない。立珂の店の前だ。
浩然の怒りの理由は分からないが、立珂が笑顔でいられるこの場所を踏みにじられるのは我慢ならなかった。
「それ今ここで話す必要ある? 立珂の店には関係無いよ」
「そうだ。関係無い。関係のないことで君は護栄様の時間を奪っている。その裏で何が起きているか分かっているか」
「知らないけど……」
「護栄様の分を他の者で穴埋めをしなくてはいけない。だがあの方の穴を埋めるなんてできないんだ。そのために五人も十人も過重労働になっている。君達兄弟のために何人もが犠牲になっているんだよ」
「犠牲って、でも護栄様は」
「自分のことは自分でやってくれ。護栄様の手を煩わせるな!」
「は?」
そう言うと、浩然は薄珂をひと睨みして去っていった。
(なんだあいつ~!)
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