人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第十四話 店員・護栄【後編】

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「立珂様。護栄様の接客を見てやってくださいませ。滑稽ですのよ」
「先入観を与えるのは卑怯でしょう」
「先入観があっても素晴らしい接客は胸を打ちますわ。さあ私と立珂様を客だと思ってやって下さい。下手くそだったら店に立たせません」
「はあ……」

 美星には逆らわないようにしてるのか逆らえない何かがあるのか、護栄は美星と立珂に接客の指導を受け始めた。
 こんな事をやらせていいのだろうかと不安になっていると、ふと視線を感じた。
 妙にぞわぞわして周囲を見渡すと、二軒ほど離れた店の物影から薄珂を睨む青年がいた。薄珂より少しばかり年上のようだ。
 眼鏡をかけた線の細い青年は丸みのある目を吊り上げた。怒り顕わなその表情は護栄よりも恐ろしい。

(宮廷の規定服? 瑠璃宮の関係者かな。あ、こっち来る)

 青年は隠れるようにしながら歩き薄珂の前にやって来るとぎろっと睨みつけてきた。

(……え? 何だ?)

 語るまでもなく敵とみなされているが、薄珂は一応頭を下げた。

「いらっしゃいませ。申し訳ありませんが本日は閉店でして」
「は? いらっしゃいませ? 開口一番がそれ?」
「……お客様にはご挨拶をさせて頂いております」
「ふん。覚えてもないってわけだ」
「え?」

 青年はつり上がっている目をさらに吊り上げた。

(知り合いか? そういえば何となく見覚えあるような……)

 青年は立珂とよく似た亜麻色の髪をしていた。ふわりとした緩やかな曲線を描く髪型は立珂と似ている。
 丸い目も立珂と似ているが、その表情は立珂とは似ても似つかないほど凶悪だ。
 確実に何かしらの恨みを買っているが、薄珂には何の覚えもない。

「……すみません。どちら様でしょう」

 薄珂は諦めて名を訊ねると、青年はまたぎろりと睨みつけ不愉快そうに髪をかき上げた。

「僕は浩然はおらん。護栄様の第一秘書官だ」
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