人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第十四話 店員・護栄【前編】

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 その日、瑠璃宮は震撼していた。
 何しろあの護栄が店員として働いているのだから。

「いらっしゃいませ。どうぞごゆっくりご覧ください」

 あの店は何をしたんだ、とひそひそと小声で話す者ばかりだ。
 護栄はにこやかにしているが、周囲はそう簡単に受け入れられない。

「みんなびっくりしてる」
「びっくりしすぎて入ってくれないな」

 護栄が買いに来ただけでも衝撃が走ったのに、本人が店員になるなどあり得ない話だ。
 少なくとも瑠璃宮に入ることのできる者はみなそうだろう。
 けれどこれでは商売にならない。薄珂は少し奥に居てもらった方が良いかと思ったが、途端に立珂が飛び出した。

「入っていいよって言ってくる!」
「立珂!」

 立珂は店をちらちらと眺める男二人に向かって行った。

「ここは立珂様の店じゃなかったのか? 誰でも入って良いと聞いていたが」
「けど護栄様だ。上の人しか駄目なんじゃ」
「そんなことないよ! 誰でも入っていいよ!」
「へ?」
「こんにちは! 立珂です! あそこ僕のお店なの! 護栄様は手伝ってくれてるんだ。誰でも大歓迎だよ!」
「いや、でも」
「大丈夫だよ! 護栄様も服のお話するんだ! きっと楽しいよ!」

 客はごくりと喉を鳴らして、ちらりと護栄を見るとにこりと微笑んでいる。
 本当にいいのかと煮え切れない様子に耐え兼ねて、立珂はぐいぐいと客を店まで引っ張った。
 客は恐る恐る店に足を踏み入れた。すると、流れるような歩行でするりと護栄が客を迎えに出てきた。

「いらっしゃいませ。どのような服をお探しですか」
「え、いや、ええと、その」
「その、あ、あの、そうだ! あの、今着てらっしゃるのはどれでしょう!」
「ご案内します」

 護栄はにこりと微笑み店内へと誘導した。
 それを見ていた周囲の人達も、おお、と驚きながら、若干怯えながらそろそろと足を踏み込んでくれるようになった。
 一人はいればつられて二人目が、また一人、また一人……どんどん人が集まり、気が付けば護栄を中心に小さな会合になってしまったようだった。

「護栄様って接客もできちゃうんだね」
「あれは接客って言うのかな」
「言いません!!」
「あ、美星さん」
「まったく! これだから厚顔無恥な唐変木は!」
「えっ」

 美星はずんずんと護栄の方へ向かい、取り囲む客に話しかけ始めた。
 すると客は護栄の話を聞きつつも色々な商品へ目を向け出し、あれよあれよと会計へと向かっていく。
 一方護栄は相変わらず服について語っていて、購入には全く繋がっていなかった。けれどこれを美星が捌くという連携でどんどん商品は売れて行った。
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