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第四章 翼衣專店
第十三話 護栄の解けない謎【中編】
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「さて。ご要望通り私服で来ましたよ」
今日の護栄は私服だ。
立珂が成人男性の好む服装や使い分けを知りたいというので何着か持ってきている。
今着ているのはすっきりとした服で、宮廷の規定服よりも少し簡素という雰囲気だ。
「護栄様ってかんじ」
「なんですそれは」
「きちんとしてるの。しゃきっ!」
立珂は大きな目をぱちくりさせ、自分の服と見比べようときょろきょろ首を動かしている。
護栄は小動物を愛玩する趣味はないし子供は苦手だが、一生懸命な立珂を見ると心が和む。
(この姿を見ると手を貸してやりたくなる。これが立珂殿の武器)
今回招かれたのは、売れ残った男性物対策のためだ。
だが、最初から響玄が助言していれば売れ残りなど無かっただろう。むしろ『天一』という響玄の店名を冠する以上、助言をし適切な販売をするのが筋だ。
しかしそれでは二人が自力で成長することができなくなる。つまり響玄は売上より二人の成長を選んだのだ。
(それも薄珂殿の才を見込んでのこと。この子は本当に頭が良い)
しかしそんな薄珂も今は頑張る立珂を応援する兄の顔をしてる。
それを見ていると幸せな気分になり、護栄もつい立珂の頭を撫でてしまった。
すると、あっ、と立珂は何かに気付いてぴょんっと飛び上がった。
「わかった! 生地だ!」
「何がです?」
「きちんとしてる理由! きちんとした生地なの!」
立珂は棚から幾つかの布の束を取り出した。全て生地別になっている、いわゆる生地見本というやつだ。
慣れた手つきでぱらぱらとめくっていく姿は職人のようだ。
少し前まで薄珂に抱っこされていたのに、今日は薄珂に「この前作った服出して」と指示を出す姿は成長を感じる。
薄珂もでれでれとして嬉しそうだ。
「どっちも菫色だけど、右のは無地だし軽いから装飾品がないとつまらないよね。でも左のは地模様がある起毛生地だからこれだけで見栄えが良いの。護栄様のはそういうのなんだ。生地だけできちんとしてるの」
「そういや美星さんが装飾品は邪魔になるって言ってたっけ」
「でもこういう生地は高いんだ。いつもの生地は腸詰五十個分くらいだけどこれは腸詰が百個以上買えるの」
「……倍は違うということですね?」
「うん。だから良い服って高くなるんだ。それに糸も違う。こんな細くてつやつやしたの初めて見た。いいな。これ使いたい。けどもっと高くなるよねえ。いくらがいいんだろ。高いと買いたくないよねえ」
立珂はうんうんと唸り、ぷっと口を尖らせている。
どうしたらいいんだろうなと薄珂も一緒に悩んでる風だが、穏やかに微笑んでいるのを見るに答えは分かっているんだろう。立珂が自ら気付き成長するのを助けてやっているのだ。
ならば自分は二人が知らない何かで助言を――と思ってしまうのがこの二人の凄いところだ。
「そんなことはありません。中には高額なものしか買わない人もいます」
「えっ、質より金額ってこと?」
「そうです。どうして高級な服を着ると思いますか?」
「どうして? 欲しいから?」
「何故欲しいと思うのか、です。実は自宅で一人の時はもっと軽装なんですが、外に出る時は今着ている程度にきちんとした服を着ます。何故だと思いますか?」
「う?」
立珂はこてんと首を傾げた。それと同時に羽がふわふわと揺れ、その全てが愛らしい。
それに絆されるのは悔しくて、誤魔化すように襟元をただして一歩下がってみせた。
今日の護栄は私服だ。
立珂が成人男性の好む服装や使い分けを知りたいというので何着か持ってきている。
今着ているのはすっきりとした服で、宮廷の規定服よりも少し簡素という雰囲気だ。
「護栄様ってかんじ」
「なんですそれは」
「きちんとしてるの。しゃきっ!」
立珂は大きな目をぱちくりさせ、自分の服と見比べようときょろきょろ首を動かしている。
護栄は小動物を愛玩する趣味はないし子供は苦手だが、一生懸命な立珂を見ると心が和む。
(この姿を見ると手を貸してやりたくなる。これが立珂殿の武器)
今回招かれたのは、売れ残った男性物対策のためだ。
だが、最初から響玄が助言していれば売れ残りなど無かっただろう。むしろ『天一』という響玄の店名を冠する以上、助言をし適切な販売をするのが筋だ。
しかしそれでは二人が自力で成長することができなくなる。つまり響玄は売上より二人の成長を選んだのだ。
(それも薄珂殿の才を見込んでのこと。この子は本当に頭が良い)
しかしそんな薄珂も今は頑張る立珂を応援する兄の顔をしてる。
それを見ていると幸せな気分になり、護栄もつい立珂の頭を撫でてしまった。
すると、あっ、と立珂は何かに気付いてぴょんっと飛び上がった。
「わかった! 生地だ!」
「何がです?」
「きちんとしてる理由! きちんとした生地なの!」
立珂は棚から幾つかの布の束を取り出した。全て生地別になっている、いわゆる生地見本というやつだ。
慣れた手つきでぱらぱらとめくっていく姿は職人のようだ。
少し前まで薄珂に抱っこされていたのに、今日は薄珂に「この前作った服出して」と指示を出す姿は成長を感じる。
薄珂もでれでれとして嬉しそうだ。
「どっちも菫色だけど、右のは無地だし軽いから装飾品がないとつまらないよね。でも左のは地模様がある起毛生地だからこれだけで見栄えが良いの。護栄様のはそういうのなんだ。生地だけできちんとしてるの」
「そういや美星さんが装飾品は邪魔になるって言ってたっけ」
「でもこういう生地は高いんだ。いつもの生地は腸詰五十個分くらいだけどこれは腸詰が百個以上買えるの」
「……倍は違うということですね?」
「うん。だから良い服って高くなるんだ。それに糸も違う。こんな細くてつやつやしたの初めて見た。いいな。これ使いたい。けどもっと高くなるよねえ。いくらがいいんだろ。高いと買いたくないよねえ」
立珂はうんうんと唸り、ぷっと口を尖らせている。
どうしたらいいんだろうなと薄珂も一緒に悩んでる風だが、穏やかに微笑んでいるのを見るに答えは分かっているんだろう。立珂が自ら気付き成長するのを助けてやっているのだ。
ならば自分は二人が知らない何かで助言を――と思ってしまうのがこの二人の凄いところだ。
「そんなことはありません。中には高額なものしか買わない人もいます」
「えっ、質より金額ってこと?」
「そうです。どうして高級な服を着ると思いますか?」
「どうして? 欲しいから?」
「何故欲しいと思うのか、です。実は自宅で一人の時はもっと軽装なんですが、外に出る時は今着ている程度にきちんとした服を着ます。何故だと思いますか?」
「う?」
立珂はこてんと首を傾げた。それと同時に羽がふわふわと揺れ、その全てが愛らしい。
それに絆されるのは悔しくて、誤魔化すように襟元をただして一歩下がってみせた。
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