人と獣の境界線

蒼衣ユイ/広瀬由衣

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第四章 翼衣專店

第九話 動き出した未来【前編】

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 扉の開く重たい音が止み、しばらくするとばたばたと足音が聞こえ始めた。
 それと同時に人が押し寄せ立ち並ぶ店に入っていく。

「人いっぱい。お仕事お休みなのかな」
「どうなんだろうな」

 入れるのは宮廷職員と一握りの富裕層というからには、およそ客は職員なのだろうと薄珂は思っていた。
 しかし規定服を着ているのはそれこそほんの一握り。
 誰もが高級そうな私服を着ている。

(どういう客層なんだここ)

 薄珂はぐっと眉間にしわを寄せたが、同時に立珂がきゅっと指先を握ってきた。
 見るとしょんぼりと悲しそうな顔をしている。

「誰も見てくれないね……」
「あ、凄いぞ。立珂は今勉強したんだ。『今のままじゃ見てもらえない』って経験を手に入れた」
「う?」
「これじゃ駄目って分かったよな。じゃあ明日は何かを変えてみよう。興味を持ってもらえる何かを」
「何か……」
「しょんぼりしてる暇はないぞ。失敗した経験を明日に活かすんだ」
「……うん!」

 立珂はかっと目を見開いて、ぐりんと他の店に目を向けた。
 どんどん客が入っていく店やまばらにしか入店のない店、そして客が全く来ない自分の店。
 きょろきょろと見回してうんうん唸っている。
 今までは楽しくはしゃぐ姿ばかりだったが、必死に勉強する姿は立珂の成長が見て取れて感慨深い。

(でもこれは想定内だ。そろそろ――……)

 薄珂は瑠璃宮の入場扉がある方へ視線を向けきょろきょろした。
 しかしその時、立珂にぐいっと手を引かれる。

「薄珂! あれ!」
「ん? あ」
「立珂様!」
「美星さーん!」
「二人とも頑張ってるか」
「響玄先生! 来てくれたの!」
「当然。お前達の晴れ舞台だからな」
「わっ」

 立珂はぴょんと美星に抱きつき、響玄はわしゃわしゃと薄珂の頭を撫でまわした。
 今日から出店開始であることはもちろん二人には報告をしている。
 見知った顔の来店に立珂は緊張がほぐれたのか、すっかりいつもの笑顔だ。
 しかし美星は露骨なくらい紅蘭に背を向けていた。まるで立珂を紅蘭から遠ざけたいような素振りで、いささか失礼に思えた。失礼さを表に出すのは美星にしては珍しい。
 何かあったのか声を掛けようとしたが、薄珂よりも早く美星に抱き着いた人物がいた。
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