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第四章 翼衣專店
第三話 薄珂と立珂の新たな挑戦【後編】
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蛍宮の取引先に明恭という年間通して氷河に囲まれる極寒の国がある。
そこに有翼人の羽根を使用した防寒具を輸出するのだが、これが明恭にとっては命綱なのだ。
有翼人の羽根は動物の毛より何倍も温かい。それこそ汗疹になるほどの保温力だ。
そこで薄珂は羽根で防寒具を作り宮廷に買い取ってもらうのだが、ここで注目すべきは褞袍の構造だ。
褞袍は羽根を詰め込むだけなので美醜を問わない。それよりも量だ。
『りっかのおみせ』で手に入れた羽根は褞袍へと姿を変え、これを宮廷へ売り収入にする。
だから店頭での売買は羽根を歓迎しているのだ。
そして褞袍作りだが、これは『りっかのおみせ』の顧客がやってくれている。
宮廷からの支払いの一部を彼らへの給金とするので、職の無い有翼人救済にもなっている。これは各自自宅でできるため、朱莉のように家族の介護を必要とする有翼人には最高の仕事なのだ。
この活動は『殿下のお心配り』として行っているため、宮廷は何もせずとも評判がある。持ちつ持たれつの関係なのだ。
こうして『りっかのおみせ』が有翼人国民と宮廷を繋げているのだが、この間繋ぎも宮廷内でやった方が円滑だろうという話が以前からあった。
しかし褞袍一つのために新たな運用を作るほど宮廷も暇ではない。
ずるずると後回しになっていたが、ようやくそれに着手するという話だ。
「下働きにも有翼人が増えましたし、有翼人関連業務を一気に移行するのが良いでしょうね」
「承知致しました。では有翼人保護区内で完結するよう整えましょう」
「よろしくお願いします」
有翼人保護区はその名の通り有翼人だけが住む区画だ。
生態が謎に包まれているため、専用の区画に何を作れば良いのか宮廷も分からず全く進んでいなかった。
けれど薄珂と立珂が宮廷へ出入りしたことをきっかけに、宮廷で有翼人への治験も広まり寄り添う気持ちを持とうという傾向が強まった。
そして有翼人保護区作りに名乗りを上げ区長に任命されたのが響玄だった。
響玄は商品売買をする商人だが、元々護栄と共に仕事をしていたこともあり、宮廷も安心して任せられたらしい。
今回は褞袍作りという一つの側面しか出ていないが、下働きの業務を全てどうにかしろという指示なのだろう。
大変なことだろうけれど、響玄はにこやかに微笑み深々と頭を下げた。
これも全て立珂の羽根を機に動きだしたことだが、当の立珂はお金も政治も分からない。
難しい話をする大人の間できょときょとしているだけだ。
護栄はくすっと微笑むとよしよしと立珂の頭を撫でた。
「それで、展示会でしたか」
「うん! 服をみんなに見てほしいの!」
「なら『りっかのおみせ』の奥にある離宮がちょうど良いですよ。来賓歓迎祝賀会などで使っていたそうで舞台があるんですよ、無駄に」
「あはは」
宮廷には離宮と呼ばれる建物がいくつかある。
天藍が皇太子になる以前からあるようで、護栄に言わせると無用の長物らしい。使う機会が無いのに数が多く、それぞれがかなり広いので掃除と維持費だけでそれなりの費用が掛かる。
しかし取り壊しをしようとすると先代皇を支持する反天藍派に座り込みをされ工事ができない。
ここまでくると面倒で、護栄も後回しにしているらしい。
「場所が良いですな。展示会の帰りに店で購入できる」
「利用料は頂きますよ。一日金五。もちろん羽でも構いません」
「いっぱい採っていいよ! 薄珂が毎日お手入れしてくれてるから全部ぴかぴかだよ!」
立珂は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ね、羽を護栄に向けふりふりと振って見せる。
「有難うございます。では次の納品で上乗せしておいてください」
二人のやりとりが面白くて薄珂はくすくすと笑った。
立珂は早くも展示会に想い馳せ、美星と一緒に展示内容を議論し始めている。
(単発で離宮を使えるのは大きい。『りっかのおみせ』は店舗として認識されちゃうけど、今度は一度きりの舞台。宮廷が後援であることが一気に広まる)
宮廷が後援というのは大きい。立珂に興味がなくとも、政治に興味がある者は寄って来る。
それは立珂の願いとはずれるだろうけれど、薄珂はそういった踏み台が必要だなとも思っている。
(服の良さに気付けば口伝えで広げてくれる。客の質もだけど母数も必要だ。もっともっと)
薄珂は立珂の眩しい笑顔を見つめ、ぐっと拳を握りしめた。
そこに有翼人の羽根を使用した防寒具を輸出するのだが、これが明恭にとっては命綱なのだ。
有翼人の羽根は動物の毛より何倍も温かい。それこそ汗疹になるほどの保温力だ。
そこで薄珂は羽根で防寒具を作り宮廷に買い取ってもらうのだが、ここで注目すべきは褞袍の構造だ。
褞袍は羽根を詰め込むだけなので美醜を問わない。それよりも量だ。
『りっかのおみせ』で手に入れた羽根は褞袍へと姿を変え、これを宮廷へ売り収入にする。
だから店頭での売買は羽根を歓迎しているのだ。
そして褞袍作りだが、これは『りっかのおみせ』の顧客がやってくれている。
宮廷からの支払いの一部を彼らへの給金とするので、職の無い有翼人救済にもなっている。これは各自自宅でできるため、朱莉のように家族の介護を必要とする有翼人には最高の仕事なのだ。
この活動は『殿下のお心配り』として行っているため、宮廷は何もせずとも評判がある。持ちつ持たれつの関係なのだ。
こうして『りっかのおみせ』が有翼人国民と宮廷を繋げているのだが、この間繋ぎも宮廷内でやった方が円滑だろうという話が以前からあった。
しかし褞袍一つのために新たな運用を作るほど宮廷も暇ではない。
ずるずると後回しになっていたが、ようやくそれに着手するという話だ。
「下働きにも有翼人が増えましたし、有翼人関連業務を一気に移行するのが良いでしょうね」
「承知致しました。では有翼人保護区内で完結するよう整えましょう」
「よろしくお願いします」
有翼人保護区はその名の通り有翼人だけが住む区画だ。
生態が謎に包まれているため、専用の区画に何を作れば良いのか宮廷も分からず全く進んでいなかった。
けれど薄珂と立珂が宮廷へ出入りしたことをきっかけに、宮廷で有翼人への治験も広まり寄り添う気持ちを持とうという傾向が強まった。
そして有翼人保護区作りに名乗りを上げ区長に任命されたのが響玄だった。
響玄は商品売買をする商人だが、元々護栄と共に仕事をしていたこともあり、宮廷も安心して任せられたらしい。
今回は褞袍作りという一つの側面しか出ていないが、下働きの業務を全てどうにかしろという指示なのだろう。
大変なことだろうけれど、響玄はにこやかに微笑み深々と頭を下げた。
これも全て立珂の羽根を機に動きだしたことだが、当の立珂はお金も政治も分からない。
難しい話をする大人の間できょときょとしているだけだ。
護栄はくすっと微笑むとよしよしと立珂の頭を撫でた。
「それで、展示会でしたか」
「うん! 服をみんなに見てほしいの!」
「なら『りっかのおみせ』の奥にある離宮がちょうど良いですよ。来賓歓迎祝賀会などで使っていたそうで舞台があるんですよ、無駄に」
「あはは」
宮廷には離宮と呼ばれる建物がいくつかある。
天藍が皇太子になる以前からあるようで、護栄に言わせると無用の長物らしい。使う機会が無いのに数が多く、それぞれがかなり広いので掃除と維持費だけでそれなりの費用が掛かる。
しかし取り壊しをしようとすると先代皇を支持する反天藍派に座り込みをされ工事ができない。
ここまでくると面倒で、護栄も後回しにしているらしい。
「場所が良いですな。展示会の帰りに店で購入できる」
「利用料は頂きますよ。一日金五。もちろん羽でも構いません」
「いっぱい採っていいよ! 薄珂が毎日お手入れしてくれてるから全部ぴかぴかだよ!」
立珂は嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ね、羽を護栄に向けふりふりと振って見せる。
「有難うございます。では次の納品で上乗せしておいてください」
二人のやりとりが面白くて薄珂はくすくすと笑った。
立珂は早くも展示会に想い馳せ、美星と一緒に展示内容を議論し始めている。
(単発で離宮を使えるのは大きい。『りっかのおみせ』は店舗として認識されちゃうけど、今度は一度きりの舞台。宮廷が後援であることが一気に広まる)
宮廷が後援というのは大きい。立珂に興味がなくとも、政治に興味がある者は寄って来る。
それは立珂の願いとはずれるだろうけれど、薄珂はそういった踏み台が必要だなとも思っている。
(服の良さに気付けば口伝えで広げてくれる。客の質もだけど母数も必要だ。もっともっと)
薄珂は立珂の眩しい笑顔を見つめ、ぐっと拳を握りしめた。
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