138 / 356
第三章 蛍宮室家
第五十二話 薄珂の新たな決意
しおりを挟む
牙燕と孔雀――龍鳴は立ち上がると手を組み深々と頭を下げた。
「改めてご挨拶申し上げる。豹獣人の牙燕と申す」
「牙燕様にお仕えしている龍鳴と申します。種族は人、性は男」
「お二人は解放戦争でもご活躍なさったんですが、引退を固く決心なさっていたんです」
「その時護栄に言われたんだよ。どうせ退くなら退く場所の無い者を守ってくれないかと」
「それがあの里?」
「ああ。元々儂の別宅があった場所なんだ。先代皇に集められ、従わず傷付いた者で里を作った」
薄珂は過去の蛍宮や解放戦争のことは話半分でしかしらない。立珂はほとんど知らないだろう。
聞く機会はいくらでもあったが、はっきり言って興味が無かった。立珂のこれからに関わることを学ぶのに精いっぱいだったし、何より過去がどうあれ天藍が今皇太子としていることが全てだ。
けれど、金剛の言っていたことだけが気にかかっている。天藍は皇太子の偽物だと言っていた。
(それが本当なら本物の皇太子はどうなったんだろう)
身代わりを立てたのいうのならまだ分かる。けれど身代わりにするには特徴があまりにも違いすぎる。
天藍をそっと盗み見していると、護栄がすかさず一言を放った。
「殿下は黒兎ですよ」
「えっ」
「手のひらに乗るくらい小さいんですよ。威厳も何も全くありません」
「一言余計だぞ。つーか俺に言わせろよ」
「聞きたそうだったのでつい」
「……どういうこと?」
「見た方が早いな」
天藍は目を閉じすうっと息を吸い込んだ。
数秒そうしていると、髪が根元から黒へと変わっていく。そしてぱちりと開かれた目も真っ黒になっていた。
「……とまあ、俺は色を変えられるんだ。逃げる時は小さい黒兎が便利でよくやってる」
「へー……けどなんで白にしたの? 黒兎じゃ駄目だったの?」
「俺は別にい」
「駄目です。兎はただでさえ見下される種。容姿は民衆の心を掴むかどうかに影響するんです」
天藍の言葉にかぶせて護栄がぴしゃりと切って捨てた。
けれど天藍はまだ不満そうに睨み返している。
「そんなのは行動で示」
「あ、そっか。隊商が見栄張って有翼人の羽根商品を扱うようなことだ」
「その通り。多少の演出は必要なのですよ」
「そっか。それは必要だね」
「何で護栄に賛同するんだよ……」
「でも、そっか。天藍も特別なことできるからって前の王様に連れて来られたの?」
「俺を人質に両親がな。二人とも戦争に駆り出されて死んだ。俺が解放戦争をやると決めた理由がこれだ。他と違うだけで虐げられてたまるか……!」
天藍は悔しそうに唇をぎりぎりと噛んだ。
どうして全種別平等なんていう大きなことをやろうとしているのか気にしたこともなかったが、自分も同じように理不尽な目に遭ったからだったのだろう。
「けど名前は? 皇太子は秦って人なんでしょ?」
「それは俺の姓だな。俺の父の母国は姓と名があって、俺の正式名は『秦天藍』なんだよ」
「それだけ?」
「それだけ」
「……なんだ。つまんないの」
「何がだ」
「実は護栄様が皇太子で天藍は影武者とか、そういう凄い話出てくると思ってたから」
「いいですね。変わりましょうか、殿下」
「ふざけんな」
「まあ過去の話ですよ。私のことといい、金剛は先代皇派と繋がってた可能性がありますね」
「拷問しましょうか」
「仮にも医者なら遠慮して下さい。それより、私がうかがいたいのは二人の親です。牙燕将軍は縁がおありなのでは?」
薄珂はどきりとして牙燕を見た。
立珂にも一通りはなしてはあるが、実感がないのかきょとんとしている。
「……薄珂。公佗児伝説を知ってるかい」
「国を滅ぼしたっていう?」
「そうだ。だがあれは伝説ではなく一人の男の生涯だ。かつて獣の本能に呑まれて死んだ男の生涯」
牙燕はすうっと一呼吸つくと、薄珂を見つめて声を絞り出した。
「男の名は透珂(とうか)。お前の父親だ」
「……知らない」
「透珂は薄立の兄だ。透珂の暴れようはあまりにもひどく死亡者も多く出た。身内は全て殺せとなり奥方は真っ先に殺され、だから薄立は生まれたばかりのお前を――兄の息子を連れて逃げた。そして儂の元にやって来たんだ」
「えっ」
「あれは里ができる前だ。儂の別宅しかなくて手当するのもままならん。蛍宮に行こうと言ったんだが、もっと遠くへ逃げると言ってね。ならせめて、何かあればここにおいでと言っておいたんだ」
「父さん里を知ってたんだ……」
「この小刀は礼にと薄立がくれた物。兄弟対の物らしい」
牙燕は懐から小刀を取り出し、そっと立珂に握らせた。
かつて兄弟で持っていた小刀はついに息子二人の手に渡った。
「父さん――薄立も公佗児だったの?」
「いいや、鷹だ。おそらく遠い祖先に公佗児がいたのだろう。獣人の獣種など厳密には分からんものだ」
「ふうん……」
「じゃあ薄珂は父さんと血が繋がってるんだよね。僕ってどうなのかなあ」
「ん? 立珂は薄立の子だ」
「でも全然似てないの。それに突然出てきたんだって、僕」
「聞いてないのか。薄立は薄珂を連れて逃げた時に妻を祖国へ帰したらしい。耐え切れず様子を見に行ったらしいが、妻は死亡したと言っていた。それで息子を、立珂を連れて戻ったと言っていたよ」
「じゃあ僕は父さんと血が繋がってるの?」
「ああ。薄珂は透珂の若い頃に、立珂は亡き妻に瓜二つだと言っていたよ」
「……じゃあ僕と薄珂もちょびっとは血繋がってるの?」
「そうだよ。父親が兄弟だから半分の半分だ」
立珂はくりっと薄珂に向き直った。
すると大きな目にじわぁっと涙が浮かび、勢いよく薄珂に飛びついた。
「薄珂! 僕薄珂と同じだって!」
「ああ! 同じだ! 俺と立珂は同じだ!」
「うれしい! 僕と薄珂は同じなんだ! 同じだよ!」
血の繋がりなど関係無い。薄珂にとって立珂は大切な弟だ。
けれど血が繋がっているというのは、なんだかとても嬉しいことのように思えた。ぼろぼろと涙を流しながら喜んで、ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめてくれる。背を擦ってやると、立珂はぐりぐりと頬ずりをしてくれた。
邪魔するまいと気を使ってくれたのか、天藍は牙燕に視線を移した。
「公佗児を祀っていたのは何故?」
「願掛けのようなものだ。公佗児は悪のように言われるが、必ずしもそうではない。せめてこの里の者だけでもそれを知っていてくれれば、いつか全ての獣人が平和に暮らせる日が来るのではと……」
「そっか……」
「お前達がやって来て、助けてやらなくてはと思った。だが里は既に多くの獣人の拠り所となっていた。もし他の者に何かあってはと……」
「だから私の傍に置いたんです。私はもともと里に入れない者を匿うため外にいるんです」
里を出てすぐの小屋に薄珂と立珂は身を寄せていた。
やけに家具は充実し、井戸まで近くにあるという生活に困らない作りになっているのが不思議だったが、いつ誰が来ても良いように常に用意していたのだろう。
「しかしあなた方を巻き込んだのは私たちの失態です。何かお詫びをさせて下さい。入用な物などありませんか」
「え? うーん、特に困ってな――……」
はたと気付き、薄珂は護栄の前に膝をついた。
全員が目を丸くしたが、薄珂はそのまま両腕を組み深々と頭を下げる。
「護栄様にお願いがございます」
「なんでしょう」
「私を護栄様の元で働かせて頂けないでしょうか」
「薄珂!?」
天藍は勢いよく立ち上がり、眠そうにしていた玲章は正気かと驚いたような声を出した。
「人を狂わす覚悟ができましたか」
護栄が何を言いたいのか、本音を言えば薄珂にはまだよく分からない。
恐らくそれほどのことを成し得るだろうと期待を込めてそう言ってくれているのだろうと思っている。
けれどそんなことができるとは思えない。護栄と同じことをしたいとも思わない。
それでも薄珂には守りたいものがある。
「立珂のためなら人でも国でも」
「良い答えですね。顔を上げなさい」
「はい」
上を向くと、護栄はにやりと笑っている。
「私の元で生き残ったのは三人だけですよ」
「では私は四人目になりますね」
うげぇ、と玲章は肩をすくめた。天藍は心配そうな顔をして、他の誰もが難しい顔をしている。
けれど護栄はすっと手を差し伸べてくれた。
「職員用の規定服を用意しましょう。届き次第仕事開始です。覚悟なさい。やるからには徹底的にやりますよ」
「はい! よろしくお願いします!」
周囲は何かを諦めたようにため息を吐いた。
しかし立珂だけは違った。てててっと薄珂に駆け寄りぴょんと飛びつく。
「薄珂。護栄様とお仕事するの?」
「ああ。立珂と幸せに暮らすためにな」
「僕はもうしあわせだよ。薄珂がいればそれだけでしあわせだもの」
「俺だってそうだ。でももっともっともっともっともっとだ!」
薄珂は立珂を抱き上げた。
実年齢よりも幼い肉体と身体はまだまだ成長途中だ。もっと太った方が良いと芳明にも言われている。
「立珂だけじゃない。立珂が幸せにしたい人も俺が幸せにしてやる。立珂のためなら俺はなんでもできるんだ!」
「なら薄珂は僕がしあわせにしてあげるよ。僕だって薄珂のためならなんでもできるよ!」
「ああ。みんな一緒に幸せになろう!」
立珂はぎゅっと抱きしめてくれた。あんなに茶色かった羽が今は純白に輝いている。
それはまるで、幸せだと叫びたい心が可視化されているようだった。
「改めてご挨拶申し上げる。豹獣人の牙燕と申す」
「牙燕様にお仕えしている龍鳴と申します。種族は人、性は男」
「お二人は解放戦争でもご活躍なさったんですが、引退を固く決心なさっていたんです」
「その時護栄に言われたんだよ。どうせ退くなら退く場所の無い者を守ってくれないかと」
「それがあの里?」
「ああ。元々儂の別宅があった場所なんだ。先代皇に集められ、従わず傷付いた者で里を作った」
薄珂は過去の蛍宮や解放戦争のことは話半分でしかしらない。立珂はほとんど知らないだろう。
聞く機会はいくらでもあったが、はっきり言って興味が無かった。立珂のこれからに関わることを学ぶのに精いっぱいだったし、何より過去がどうあれ天藍が今皇太子としていることが全てだ。
けれど、金剛の言っていたことだけが気にかかっている。天藍は皇太子の偽物だと言っていた。
(それが本当なら本物の皇太子はどうなったんだろう)
身代わりを立てたのいうのならまだ分かる。けれど身代わりにするには特徴があまりにも違いすぎる。
天藍をそっと盗み見していると、護栄がすかさず一言を放った。
「殿下は黒兎ですよ」
「えっ」
「手のひらに乗るくらい小さいんですよ。威厳も何も全くありません」
「一言余計だぞ。つーか俺に言わせろよ」
「聞きたそうだったのでつい」
「……どういうこと?」
「見た方が早いな」
天藍は目を閉じすうっと息を吸い込んだ。
数秒そうしていると、髪が根元から黒へと変わっていく。そしてぱちりと開かれた目も真っ黒になっていた。
「……とまあ、俺は色を変えられるんだ。逃げる時は小さい黒兎が便利でよくやってる」
「へー……けどなんで白にしたの? 黒兎じゃ駄目だったの?」
「俺は別にい」
「駄目です。兎はただでさえ見下される種。容姿は民衆の心を掴むかどうかに影響するんです」
天藍の言葉にかぶせて護栄がぴしゃりと切って捨てた。
けれど天藍はまだ不満そうに睨み返している。
「そんなのは行動で示」
「あ、そっか。隊商が見栄張って有翼人の羽根商品を扱うようなことだ」
「その通り。多少の演出は必要なのですよ」
「そっか。それは必要だね」
「何で護栄に賛同するんだよ……」
「でも、そっか。天藍も特別なことできるからって前の王様に連れて来られたの?」
「俺を人質に両親がな。二人とも戦争に駆り出されて死んだ。俺が解放戦争をやると決めた理由がこれだ。他と違うだけで虐げられてたまるか……!」
天藍は悔しそうに唇をぎりぎりと噛んだ。
どうして全種別平等なんていう大きなことをやろうとしているのか気にしたこともなかったが、自分も同じように理不尽な目に遭ったからだったのだろう。
「けど名前は? 皇太子は秦って人なんでしょ?」
「それは俺の姓だな。俺の父の母国は姓と名があって、俺の正式名は『秦天藍』なんだよ」
「それだけ?」
「それだけ」
「……なんだ。つまんないの」
「何がだ」
「実は護栄様が皇太子で天藍は影武者とか、そういう凄い話出てくると思ってたから」
「いいですね。変わりましょうか、殿下」
「ふざけんな」
「まあ過去の話ですよ。私のことといい、金剛は先代皇派と繋がってた可能性がありますね」
「拷問しましょうか」
「仮にも医者なら遠慮して下さい。それより、私がうかがいたいのは二人の親です。牙燕将軍は縁がおありなのでは?」
薄珂はどきりとして牙燕を見た。
立珂にも一通りはなしてはあるが、実感がないのかきょとんとしている。
「……薄珂。公佗児伝説を知ってるかい」
「国を滅ぼしたっていう?」
「そうだ。だがあれは伝説ではなく一人の男の生涯だ。かつて獣の本能に呑まれて死んだ男の生涯」
牙燕はすうっと一呼吸つくと、薄珂を見つめて声を絞り出した。
「男の名は透珂(とうか)。お前の父親だ」
「……知らない」
「透珂は薄立の兄だ。透珂の暴れようはあまりにもひどく死亡者も多く出た。身内は全て殺せとなり奥方は真っ先に殺され、だから薄立は生まれたばかりのお前を――兄の息子を連れて逃げた。そして儂の元にやって来たんだ」
「えっ」
「あれは里ができる前だ。儂の別宅しかなくて手当するのもままならん。蛍宮に行こうと言ったんだが、もっと遠くへ逃げると言ってね。ならせめて、何かあればここにおいでと言っておいたんだ」
「父さん里を知ってたんだ……」
「この小刀は礼にと薄立がくれた物。兄弟対の物らしい」
牙燕は懐から小刀を取り出し、そっと立珂に握らせた。
かつて兄弟で持っていた小刀はついに息子二人の手に渡った。
「父さん――薄立も公佗児だったの?」
「いいや、鷹だ。おそらく遠い祖先に公佗児がいたのだろう。獣人の獣種など厳密には分からんものだ」
「ふうん……」
「じゃあ薄珂は父さんと血が繋がってるんだよね。僕ってどうなのかなあ」
「ん? 立珂は薄立の子だ」
「でも全然似てないの。それに突然出てきたんだって、僕」
「聞いてないのか。薄立は薄珂を連れて逃げた時に妻を祖国へ帰したらしい。耐え切れず様子を見に行ったらしいが、妻は死亡したと言っていた。それで息子を、立珂を連れて戻ったと言っていたよ」
「じゃあ僕は父さんと血が繋がってるの?」
「ああ。薄珂は透珂の若い頃に、立珂は亡き妻に瓜二つだと言っていたよ」
「……じゃあ僕と薄珂もちょびっとは血繋がってるの?」
「そうだよ。父親が兄弟だから半分の半分だ」
立珂はくりっと薄珂に向き直った。
すると大きな目にじわぁっと涙が浮かび、勢いよく薄珂に飛びついた。
「薄珂! 僕薄珂と同じだって!」
「ああ! 同じだ! 俺と立珂は同じだ!」
「うれしい! 僕と薄珂は同じなんだ! 同じだよ!」
血の繋がりなど関係無い。薄珂にとって立珂は大切な弟だ。
けれど血が繋がっているというのは、なんだかとても嬉しいことのように思えた。ぼろぼろと涙を流しながら喜んで、ぎゅうぎゅうと力いっぱい抱きしめてくれる。背を擦ってやると、立珂はぐりぐりと頬ずりをしてくれた。
邪魔するまいと気を使ってくれたのか、天藍は牙燕に視線を移した。
「公佗児を祀っていたのは何故?」
「願掛けのようなものだ。公佗児は悪のように言われるが、必ずしもそうではない。せめてこの里の者だけでもそれを知っていてくれれば、いつか全ての獣人が平和に暮らせる日が来るのではと……」
「そっか……」
「お前達がやって来て、助けてやらなくてはと思った。だが里は既に多くの獣人の拠り所となっていた。もし他の者に何かあってはと……」
「だから私の傍に置いたんです。私はもともと里に入れない者を匿うため外にいるんです」
里を出てすぐの小屋に薄珂と立珂は身を寄せていた。
やけに家具は充実し、井戸まで近くにあるという生活に困らない作りになっているのが不思議だったが、いつ誰が来ても良いように常に用意していたのだろう。
「しかしあなた方を巻き込んだのは私たちの失態です。何かお詫びをさせて下さい。入用な物などありませんか」
「え? うーん、特に困ってな――……」
はたと気付き、薄珂は護栄の前に膝をついた。
全員が目を丸くしたが、薄珂はそのまま両腕を組み深々と頭を下げる。
「護栄様にお願いがございます」
「なんでしょう」
「私を護栄様の元で働かせて頂けないでしょうか」
「薄珂!?」
天藍は勢いよく立ち上がり、眠そうにしていた玲章は正気かと驚いたような声を出した。
「人を狂わす覚悟ができましたか」
護栄が何を言いたいのか、本音を言えば薄珂にはまだよく分からない。
恐らくそれほどのことを成し得るだろうと期待を込めてそう言ってくれているのだろうと思っている。
けれどそんなことができるとは思えない。護栄と同じことをしたいとも思わない。
それでも薄珂には守りたいものがある。
「立珂のためなら人でも国でも」
「良い答えですね。顔を上げなさい」
「はい」
上を向くと、護栄はにやりと笑っている。
「私の元で生き残ったのは三人だけですよ」
「では私は四人目になりますね」
うげぇ、と玲章は肩をすくめた。天藍は心配そうな顔をして、他の誰もが難しい顔をしている。
けれど護栄はすっと手を差し伸べてくれた。
「職員用の規定服を用意しましょう。届き次第仕事開始です。覚悟なさい。やるからには徹底的にやりますよ」
「はい! よろしくお願いします!」
周囲は何かを諦めたようにため息を吐いた。
しかし立珂だけは違った。てててっと薄珂に駆け寄りぴょんと飛びつく。
「薄珂。護栄様とお仕事するの?」
「ああ。立珂と幸せに暮らすためにな」
「僕はもうしあわせだよ。薄珂がいればそれだけでしあわせだもの」
「俺だってそうだ。でももっともっともっともっともっとだ!」
薄珂は立珂を抱き上げた。
実年齢よりも幼い肉体と身体はまだまだ成長途中だ。もっと太った方が良いと芳明にも言われている。
「立珂だけじゃない。立珂が幸せにしたい人も俺が幸せにしてやる。立珂のためなら俺はなんでもできるんだ!」
「なら薄珂は僕がしあわせにしてあげるよ。僕だって薄珂のためならなんでもできるよ!」
「ああ。みんな一緒に幸せになろう!」
立珂はぎゅっと抱きしめてくれた。あんなに茶色かった羽が今は純白に輝いている。
それはまるで、幸せだと叫びたい心が可視化されているようだった。
0
お気に入りに追加
134
あなたにおすすめの小説

青少年病棟
暖
BL
性に関する診察・治療を行う病院。
小学生から高校生まで、性に関する悩みを抱えた様々な青少年に対して、外来での診察・治療及び、入院での治療を行なっています。
※性的描写あり。
※患者・医師ともに全員男性です。
※主人公の患者は中学一年生設定。
※結末未定。できるだけリクエスト等には対応してい期待と考えているため、ぜひコメントお願いします。

【運命】に捨てられ捨てたΩ
雨宮一楼
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。

ニケの宿
水無月
BL
危険地帯の山の中。数少ない安全エリアで宿を営む赤犬族の犬耳幼子は、吹雪の中で白い青年を拾う。それは滅んだはずの種族「人族」で。
しっかり者のわんことあまり役に立たない青年。それでも青年は幼子の孤独をゆるやかに埋めてくれた。
異なる種族同士の、共同生活。
※過激な描写は控えていますがバトルシーンがあるので、怪我をする箇所はあります。
キャラクター紹介のページに挿絵を入れてあります。
苦手な方はご注意ください。

好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。

僕の王子様
くるむ
BL
鹿倉歩(かぐらあゆむ)は、クリスマスイブに出合った礼人のことが忘れられずに彼と同じ高校を受けることを決意。
無事に受かり礼人と同じ高校に通うことが出来たのだが、校内での礼人の人気があまりにもすさまじいことを知り、自分から近づけずにいた。
そんな中、やたらイケメンばかりがそろっている『読書同好会』の存在を知り、そこに礼人が在籍していることを聞きつけて……。
見た目が派手で性格も明るく、反面人の心の機微にも敏感で一目置かれる存在でもあるくせに、実は騒がれることが嫌いで他人が傍にいるだけで眠ることも出来ない神経質な礼人と、大人しくて素直なワンコのお話。
元々は、神経質なイケメンがただ一人のワンコに甘える話が書きたくて考えたお話です。
※『近くにいるのに君が遠い』のスピンオフになっています。未読の方は読んでいただけたらより礼人のことが分かるかと思います。

【完結】I adore you
ひつじのめい
BL
幼馴染みの蒼はルックスはモテる要素しかないのに、性格まで良くて羨ましく思いながらも夏樹は蒼の事を1番の友達だと思っていた。
そんな時、夏樹に彼女が出来た事が引き金となり2人の関係に変化が訪れる。
※小説家になろうさんでも公開しているものを修正しています。

見ぃつけた。
茉莉花 香乃
BL
小学生の時、意地悪されて転校した。高校一年生の途中までは穏やかな生活だったのに、全寮制の学校に転入しなければならなくなった。そこで、出会ったのは…
他サイトにも公開しています

あの日の記憶の隅で、君は笑う。
15
BL
アキラは恋人である公彦の部屋でとある写真を見つけた。
その写真に写っていたのはーーー……俺とそっくりな人。
唐突に始まります。
身代わりの恋大好きか〜と思われるかもしれませんが、大好物です!すみません!
幸せになってくれな!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる